第2節 『尊厳を奪われた日』
プロローグの冒頭へとつなげる準備ができました!!
この調子で頑張りますよ!!
ロイドの説明によると、鎮座されている水晶に手を掲げる事で、対象者が持つ異能を水晶に映し出すというものだった。
閑話休題
異世界人はこの世界に住む常人の数倍のステータスを持つ。
だが、魔道具を使ってステータスを数値化することはできない。
もし、数値としてみたいのなら、『鑑定』という異能を持つ能力者に頼るしかない。(『鑑定』を持っている人間はごく少数で非常にレアとされている)
ちなみに、その『異能』は一人一つしか発現しないのが原則である。
(元の世界でも異世界でも、現実というものは想像とどこか微妙にズレているんだな)
そんな感想を抱いている魁人を他所に、ロイドがクラスのリーダー格である隼人に声を掛ける。
「では、隼人殿から触ってみてくれ」
「わかりました」
隼人が水晶に右手を掲げた瞬間、隼人の身体が僅かに虹色に光り、水晶に文字が映し出される。
異能『アーサー・ペンドラゴン』
効果:万物を切り裂く最強の聖剣『エクスカリバー』を召喚し、使用できる。
『いきなりチート能力キター!』とか『流石、完璧超人。異能まで完璧かよ!』とかいろんな感想が魁人の脳裏に浮かび上がったが・・・
「なぜに人名!?」
魁人がその異能に思わず叫んでしまう。
その魁人のツッコミにロイドが微笑を浮かべて答える。
「伝承によると異世界人の異能は、私たちと違い、そなたらがいた世界に何かしらの影響を与えた人物の名前が付けられるそうだ」
「えー、なんか思ってたのと違う」
その説明に魁人は少しショックを受け、祥吾がドンマイとばかりに魁人の肩を叩く。そんな魁人を他所に、隼人が後ろにいた美少女に声を掛ける。
「次は、『結衣』の番だな」
「うん。わかった」
隼人の言葉に従って水晶の前に出た美少女の名前は『桑原 結衣』。
スポーツ万能、成績優秀の才色兼備で、子供と裁縫が大好きな美少女。
身長は160cmと女子として平均的な身長に、腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優し気だ。そして、性格も外見と同じで人当たりがよく、男子女子から人気がある。ちなみに隼人の恋人だ。
結衣が水晶に手を翳すと、結衣の身体が白く輝く。
(白?人によって光る色が違うのか?)
発光する色に魁人が訝しむが、違いはそれだけではなかった。
「・・・・・あれ?何も表示されないよ」
結衣の水晶は隼人と違い何も表示されない。そのことに全員が驚き、彼氏である隼人がロイドに問いかける。
「陛下。これは一体?」
「・・・・・・後程、説明する。次の者、水晶に触れてもらえないだろうか」
明らかに何かを隠している風な感じだったが、後程説明してくれるということで全員が水晶に触れていく。
「・・・・・・雨宮氏も、表示なしでござるか」
魁人の鑑定結果を光里が呟く。
「これで表示なしが俺たち4人を含めて17人か」
祥吾は何かを考え込むように水晶に何も映らなかった16人を見る。
「・・・・・何か嫌な感じがするね」
亮介が眉を潜める。それは、他の16人も同じで全員が不安そうにあたりを見渡す。
心なしか騎士や給仕をしてくれていたメイドが自分たちを取り囲んでいるように感じた。
そして、その予感は正しかったことがロイドの口から証明される。
「・・・・・41人中23人か。薄汚いスラムの餓鬼410人を生贄したかいがあったな」
先程まで優し気な表情を浮かべていたロイドが冷たい声音で呟く。
「陛下。今、なんと・・・・」
その呟きに隼人が呆然とした表情で問いかける。
ロイドがうっかりしていたとばかりに、その質問に答える。
「そう言えば、余の異能『儀式召喚』の対価を教えていなかったな。余の異能『儀式召喚』は召喚したい異世界人×10倍の人間の命を対価にしなければ発動できぬのだ」
「な!?」
「言うならば、無能を有能な異能者と取り換える力。『賢王』、ロイド・V・パルテギアに相応しい異能だと思わぬか?現に410人の餓鬼の命で『24』人の異能者が手に入ったのだ。安い買い物だろ」
「・・・・最低」
恍惚な表情で気持ち悪い笑みを浮かべるロイドを結衣がキッと睨み付け、それに賛同するようにクラスメイトの何人かがロイドを睨み付ける。
「ふん。発言には気をつけろ。『スカ』。オマエら17名はこれから『人造兵器』となってもらうんだからな」
ロイドが冷たい視線に魁人たち17名は身構える。
「なんだよ?それ」
「言葉通りの意味は、『スカ』であるオマエ達は体が丈夫だということしか取り柄がない。よって、よって生体兵器のモルモットになってもらう」
「そんなこと絶対にーーーうっ!?」
「先生!!」
その勝手な物言いに桂里奈が食って掛かろうとするが、後ろにいたメイドに殴られてその場で気絶させられる。
「王の命令は絶対です!!」
「オマエ等!!」
王国側な身勝手やり方に堪忍袋がキレたのか隼人が飛び出す。
「来い!!」
その言葉に答えるように隼人の右手に荘厳な装飾が施された両刃の直剣が出現する。
だが、隼人がロイドに斬りかかろうとした瞬間、『ドッ、クン』と隼人の身体が脈打ちその場に倒れ込む。
「な・・・なん・だ・・・・体が・・・」
「隼人!?」
床に倒れて痙攣する隼人を結衣が慌てて抱き起こす。
「隼人に何をしたの!?」
「心配するな。術式に含まれている警告を受けただけだ」
「術式?」
「そうだ。この『選定の宝玉』には、鑑定した異能者に『隷従の楔』と術式かかるようになっている」
「『隷従の楔』・・・・」
その不穏な言葉に『異能』が発現した24人に悪寒が走る。
そして、その悪寒が正しかったことをロイドが説明する。
「効果は5つ。
1つ『主人を陥れることを禁ずる』
2つ『主人への攻撃を禁ずる』
3つ『主人の命令に違反する事を禁ずる』
4つ『解呪することを禁ずる』
5つ『以上の項目を違反した場合、配下全員が死ぬ』だ」
「「「「「「「「「「「「「「「「「な!?」」」」」」」」」」」」」」」」」
「このまま死んでたまるか!?」
その言葉に、祥吾は持ち歩いていたサバイバルナイフを制服から取り出し、ロイドに飛び掛かる。
(コイツを人質にして此処から脱出する!!)
だがーーーーーー
「っ!?何のつもりだ!!『平井』!?」
背後から男子高校生に取り押さえられ、ナイフも地面に転がる。
『平井 陽介』
寡黙で冷静な男子生徒で、剣道部に所属している。
身長は180cm、、体つきは祥吾と同じく細身ながらも引き締まっている。
顔立ちは整っているが、切れ長の眼と雰囲気から周囲に冷たい印象を与えている。
女子には、スポーツ万能でイケメンであることから人気がある。
上から組み伏せられた祥吾が、陽介を睨み付ける。
「それはこっちのセリフだ。あの王が殺されれば、俺たちも死ぬんだぞ」
「勘違いすんな!!この国を出たら、あんなバカ殿すぐに返してやるよ!!」
「駄目だ。殺される可能性がある以上、お前らにはモルモットになってもらう」
「っ!?」
陽介の即答に『スカ』と認定された17名が息を飲む。
「当然だろ。『有能な人間24人』と『無能な人間17人』、比べるまでもない」
「確かにそうだな」
「『スカ』が選ばれた私たちの手をわずらせるんじゃないわよ」
「お前ら!?」
陽介の言葉に賛同するクラスメイトたちに魁人たちがギリっと奥歯を鳴らす。
「話が早くて助かる。皆の者、『スカ』どもを捕らえよ!!」
王命に従いメイドと騎士たちが魁人たちを捕縛し始める。
「クソ!?」
魁人たちは慌てて居間から脱出しようとするが、多勢に無勢な上に、出口は騎士に抑えられていることを確認する。
(逃げられない!!だったらーーー)
魁人が祥吾が落としたナイフを拾い上げ、ロイドの心臓に向けて投げつける。
(オマエ等も道連れだ!!)
その投げつけられたナイフはロイドではなく、射線上に飛び込んできた男子生徒の左腕に突き刺さった。
「残念だったな。アニオタ」
「『河野』!!」
魁人の前に突然現れた彼の名前は、『河野 祐一郎』。
ラグビー部の副部長。
190cmの身長に熊のような大柄の体格、見た目に反さず細かいことを気にしない脳筋だ。
祐一郎が刺さったナイフを無造作に抜くと、煙を上げて傷が修復し始める。
「はは、おもしれ―!マジで再生しやがった!!」
「・・・・・・異能『ヘラクレス』の超速再生か。実際に見るとホント、チートだな」
魁人の言葉に、祐一郎がハッと鼻で笑う。
「なんでぇ、覚えてたのかよ」
「桑原さんが『スカ』認定された時、嫌な予感がしたからな。お前ら全員の異能は全部頭に叩き込んだ」
「ハハ、人間・・・・いや、阿保も死ぬ気になれば何でもできるってか!!嫌いじゃねーが、無駄だったな。モルモットくん」
「・・・・・地獄に堕ちろ」
最後にそう悪態をついた魁人は騎士に取り押さえられて、居間の外へと連れ出された。
「嫌ー!!」
「離しやがれ!!」
次々と捕まるクラスメイトを尻目に、浩二が恋人の麻衣子の手を掴むが
「今の内に逃げるぞ。麻衣子!早くーーー」
「は?」
その手はアッサリ叩かれてしまう他でもない麻衣子の手によって。
あまりの出来事に硬直する浩二を騎士が後ろから取り押さえる。
「なんで『異能』を持つ私が『スカ』のアンタと一緒に逃げないといけないわけ?」
「ま、麻衣子」
「じゃぁ。モルモット生活、頑張ってねー♪こ・う・じ・くん♡」
「麻衣子!!」
何時ものように可愛らしく笑う麻衣子に、浩二は怒りで視界が赤く染まり絶叫を上げる。
そんな浩二を騎士たちは居間の外へと連れ出した。
捕縛の手は隼人を抱えていた結衣にも伸びた。
「おい!お前も来い!!」
騎士が結衣の艶やかな黒髪を引っ張って隼人から引き離す。
その拍子に、警告で今だ動かない隼人の体が床に倒れる。
「ん!?」
「結衣!!クソ!その手を離せ!!」
隼人が動かない身体を必死に叱咤するが、思うように動かず恋人が騎士に連れていかれるのを只見ている事しかできなかった。そんな隼人に結衣は、覚悟していたのか優しく微笑んだ。
「・・・・・隼人。生き抜いてね」
「・・・・・結衣」
「バイバイ」
「結衣ーーーーーー!!!!」
隼人の絶叫が居間に虚しく木霊し、痙攣しながら必死に伸ばした手は、何も掴めない。
今迄当たり前のようにあった温かくも愛しい感触は・・・・
そこにはもう、なかった。
記録
王歴1021年 蒼苺の節 7日
2年4組の生徒(40人)と社会科教師1名、パルデギア王国にて選定を受ける。
現状
『異能力者』:24名(生存者24名、死亡者0名)
『スカ』:17名(生存者17名、死亡者0名)
合計:41名(生存者41名、死亡者0名)
補足
今回鑑定で使った『選定の宝玉』の効果。
・触れた異能者の能力を解明する(その際は、白く光る)
・異能者に従僕の首輪が付けられる。(その際は、虹色に光る)
(無能力者にもかかるようにすればいいじゃんと思われた方に対する説明
『隷従の楔』という術式のキャパが大きすぎて、異能者専用にしなければ効果を発揮できなかったという設定です)
『隷従の楔』の効果
1. 主人を陥れることを禁ずる
2. 主人への攻撃を禁ずる
3. 主人の命令に違反する事を禁ずる
4. 解呪することを禁ずる
5. 以上の項目を違反した場合、配下全員が死ぬ
2,3以外は事前に即死する前に『警告』を受ける仕組みになっています。
警告内容は以下のようになっています。
2の警告は、『数十分間の硬直を受ける』
3の警告は、『数十分間、肺を潰されたような激痛を受ける』