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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢の断罪

作者: 幸見大福

気まぐれなので、とっても脆くなりました。後々修正諸々したいと思います。

「君との婚約は解消させてもらう!」

「………。」


なんて馬鹿なんでしょう。

わたくしはそう叫びながら切り出した殿下を冷めた目で見る。


エリーナ・クライリス公爵令嬢。この権力の前には誰も立つことができない絶対的な令嬢。それがわたくし。

ですが王族には勝てない。この目の前にいる、馬鹿で阿呆な王太子に勝てません。


本当、悲しいことに。なんでこんな人間以下の方に屈しなければならないのでしょうか。


「……殿下、今なんと仰いました?」

「貴様との婚約を解消すると言ったのだ!私は真実の愛を見つけてしまった。これは運命だ。…なぁ、リリィ。」

「はい」


はいはい、とっても仲が睦じいことでなによりでございます。

冷めた目で寄り添い見つめ合う二人を見ていると、あの忌々しい男爵令嬢に向けていた瞳と正反対の目で私を見てくる。


「エリーナ、貴様はリリィに嫉妬をして虐めていたようだな。」

「何のことを仰っているのか分かりませぬ」


…本当、この茶番どうしましょうか。

殿下は知らないんでしょうね。今その可愛らしい可愛らしい顔を歪めて、愛しい“リリィ”さんがわたくしを見ているだなんて。


まぁそんな猫かぶりの方にはめられたわたくしもわたくしなのですがね。


「話はそれだけですか?婚約破棄につきましては陛下に話を通してくれませんか?わたくしが口を出せることではありませんので。」

「貴様……!」

「……で、でんか、きっとエリーナ様も殿下と解消をしたくないんですよ。だからわざと長引かせようとしているので、その気持ちを聞いてあげてはいかがでしょう…!」

「リリィは優しいな」

「そ、そんな…」


…本当、いつこの茶番は終わるのです?しかも公爵令嬢であるわたくしを勝手に名前で呼ぶなど。不敬罪で捕まってもおかしくありませんが、王太子があれでは…。

溜息をつきたいのを必死に抑え、絶対零度の二つ名をもつ視線を向ける。


「別にわたくしとの婚約を解消せずとも、その男爵令嬢を愛人に迎えるなりすれば良いじゃないですか。」

「リリィを愛人にだと!?やはり公爵家出身であると、考え方が汚いのだな!そこまでして王妃になりたいのか!」


…もう色々仮面をとって良いでしょうか?

馬鹿なんじゃないのと言いたい気持ちを堪え、わたくし…いや、私は論破を始める。


「そもそもわたくしがいつそこの男爵令嬢を虐めたと?」

「はぐらかそうとしているのか!」

「質問に答えろ」

「っ!!」


ほらね、ひと睨みすれば言い返すこともできない。なんて脆い王太子なんでしょう。


「…リリィから聞いたのは、薄汚い元庶民だと罵られ、ドレスに紅茶をかけられる。そして、殿下から離れろという脅しの手紙。噴水へ落とされる。どれも放課後だと聞いている。」

「あら?わたくしはその時間、既に家に帰っていましたが」

「そんなの今考えたアリバイだろう!」

「嘘だと疑いで?…イシュードさん。」

「え、え!?」


私に名指しされたのは伯爵子息。一目で分かるぐらいに狼狽えている。巻き込むのは少し申し訳ないが、担当した場所が悪かったとしか言いようがない。


「貴方は確か鍵を閉める当番でしたよね。それも放課後になると直ぐに。その時わたくしの荷物はありましたか?」

「い、いえ、クライリス様のお荷物は御座いませんでした。」

「…だ、だが、通りすがりに罵られたのも!」

「どれも、放課後なのでしょう?」


パチンと指を鳴らす。

殿下や男爵令嬢は絶句している。理由は何でしょう?普段無口なわたくしが言い返したから?饒舌に喋っているから?それとも…


今わたくしが呼んだ絶世の美貌を持つ青年に驚いているから?


「カイル、ちょっとあの小娘の記憶を映し出して頂戴。時間はそうね…ここ一週間の放課後、でしょうか。」

「それだけか?もう少し大仕事は?」

「あとでね。」

「っしゃ!」


私たちの会話に、何人かが顔を青ざめさせている。ふぅん、何人かは知っているのね。カイルの事を。


だってカイルは魔王だもの。


***


「さて、どうしたものでしょう…」


私は殿下と男爵令嬢の逢い引きを見て、溜息をついた。すぐさまその場に背を向け、離れる。見つかると色々言われるから面倒なのだ。


学園の中だというのに人目も気にせず愛を囁き合う二人。一方の殿下は私という婚約者がいるのに何をしているのだか。


「…それに、あの小娘がコソコソ動いているのも気になるわね。」


ある日登校すると、私のロッカーが荒らされていた。専属メイドに調べてもらうと、あの小娘だと分かったのだ。無くなっていたのは一つの手紙。そして少し減っていたインク。何か書いたんだろう。私と偽って。

なにかはわからないが、良くないことぐらい予想できる。そして、それが殿下に伝わることも。私は聡い。頭を回転させて導かれたのは、日頃からも考えられた可能性。


「私を悪役にしようとしているのかしら?」


学園内での私の立場は微妙になっている。絶対的な権力をもつ公爵令嬢。しかし、婚約者に放ってかれている令嬢。いつも鬱陶しいぐらいに取り巻いていた子たちは、その男爵令嬢を取り込もうとしている。


イジメなどはしていないが、時々度を過ぎる二人を注意すると、周囲の目が厳しくなっている。皆の目には、通じ合っている二人を裂こうとしている婚約者という風に見えているのだろうか。

こんな状況は頭がお花畑だったら癇癪でも起こしただろうが、私は違う。常に冷静であり、常に


だけどさ…


「イラつくのよね。」


この私を断罪するかのように悪役にするなんて。この私を落とそうとするなんて。許せない。あんな底辺な奴らにコケにされているなんて、絶対にあってはならない。許せないならどうすべきだ?


「…復讐をしよう」

「ふぅーん。誰に復讐をしたいんだ?」

「…え?」


ばっと後ろを振り返る。私以外誰もいなかったはずだが、通りかかるぐらいはあるかもしれない。もしもそうだとしたら口止めをしなければならない。


しかし、相手は人ではなかった。


振り返ると、見る人誰もを魅了するような美貌の男性が立っていた。

だがその頭部には魔人であることを主張する角が生えている。魔人は人類の敵。見つけたら即座に討伐だ。


普通の魔人なら。

私の目の前に立っているのは――



「……魔王…カイル…」

「へぇ?知っているのか?もしかして有名なのか?」

「…知っている人は知っているわ。上級貴族であれば、殆どの人が知ってる。」


返答をしているが、かなり頭が混乱している。今話しているのは魔王で、人類の敵の最高地位の者だ。そして、魔国で悠々と暮らしているはずだ。そんな人が何故こんな所に?

いや、それ以前に何で私生きて話しているの?魔王カイルは特に残忍と言われているのに…。


「なんか嬉しいな。で、誰に復讐をしたいんだ?」


私のその言葉に我にかえる。

そう、私は復讐をしたい。今は相手がどうのこうのと言っている場合ではない。


「…私の婚約者と、その婚約者に纏わり付いている小娘に、復讐を」


迷いなく言い切ると魔王カイルの目が怪しく輝いた。


「…なかなか良い目してるな。代償は?」

「命じゃないの?」


驚いて返すと、魔王は顔を覆った。


「いや、流石にこんなかわ――いや、最近は足りてるからなにか違うの。」

「…でも、そしたら目とか四肢とか地位とかお金とか…」


私は持っているものすべてを上げたが、ストップをかけられた。


「とかって多いな。…時間、じゃダメか?」

「時間?」


時間って何だろう。

私の疑問はもっともだったはずなのだが、魔王は呆れた目を向けてくる。


「君の時間だ。復讐が終わったら君の死ぬまでの時間をくれ。」


そういうことか。


内心で呟き、私は納得する。生き地獄を味わうのだろう。苦しいのは嫌だが、それで全ての元凶の小娘たちに復讐できるのなら構わない。どうせ破棄されたところで令嬢として傷物だ。別にいなくなってもさして問題ではない。

頷き、了承の意思を示す。


「分かったわ。そして私はエリーナって呼んで」

「エリーナか。リーナって呼んで良いか?」

「お好きなように」

「じゃ、リーナ。俺のことはカイルって呼んでくれ。それで、どんな復讐をお望みで?」


代わりにしてくれるって意味だろうか。だけど…


「私は私の手で堕としたい。だから、手伝ってくれるだけで良いの。日にちとかは決まっていないわ。だけど、あの人たちは確実に婚約破棄をしてくる。その時に復讐よ。逆に貴族の位を剥奪するの」

「それだけならリーナだけで出来ると思うが?」


そう。これぐらい出来る。だけど…


「いいえ、それだけじゃダメなのよ。心の底から絶望してもらわないと。あの人たちのプライド、誇り。すべてを折らないと気が済まないの。だから手を貸して。私はそれほどの情報を持っていないから」


どう?と見上げると、らんらんと輝いた黄金の瞳が私を映す。


「いいないいな!その話乗ってやる。契約をしようじゃないか。」

「ありがとう。」


この日、私は魔王と契約を交わした。


***


私はカイルとの出会いを思い出していた。

懐かしいという思いと、まさか卒業パーティとは思わなかったという驚き。


よっぽど私の事を落としたかったのでしょうね。確かに、考えてみれば納得です。人がいる、しかもとても注目を浴びているときに破棄の宣誓をするのが効果的ですから。あの馬鹿な


内心では好き勝手に思いながらも、絶対に崩れない微笑みの仮面は付けている。

その時突然天井に何かの風景が浮かび上がる。フルカラーの映像は再生されていく。


誰かの視点で、放課後の学園の廊下を歩いている景色だ。


『ふふっ、シュバインはすぐに同情してくれる♪少し悪口を言われたって言うだけで信じてくれるんだから。』


場面が切り替わる。次は私の私物を漁っているところ。


『ったく、何で悪役令嬢の癖にいじめてこないのよ…!しょうがないから私がやるしかないじゃない!』


次々と流れ出す私になすりつけようとしている映像。

これが男爵令嬢の記憶だ。

見ると顔を土色に変えている。


「えっ…なんで、何で悪役令嬢がカイルと契約しているの?それはヒロインの役目なのに…!」

「殿下、これで良いですか?わたくしは何もしていません。全てこの男爵令嬢の自作自演だったのです。」

「う、嘘だ!リリィがそんな事をするはずが無い!きっとその男が偽って…!」

「シュバイン、それ以上言ったら殺されるから言わないで!」


遂に本性が出たわね。

あの小娘はいつのまにか殿下を呼び捨てにしていて、頭をかきむしっている。普段のか弱い女性の像など欠片も見えない。ほんと、いい気味。

そんな男爵令嬢に観衆と殿下はオロオロしている。


「り、リリィ?」


私はいつまでも優雅に微笑んでいる。何故カイルの事を知っているのなんて興味がない。今大切なのは


こいつらを失脚させる事だ。


私を貶めようとしたこの二人は絶対に許さない。醜い復讐だってしてやる。だからカイルに私の終わってからのすべての時間と引き換えに契約したのだから。


「…殿下、男爵令嬢。これで状況が変わりましたね?」

「えっあっ…」


周りをよく見てなさらないから。

私に非難の目を向けていた令嬢、子息は今度は殿下達にその目を向けている。


「わたくしは何も悪くない。では誰が悪いのか?…皆さま、お分かりですよね?」


問いかけると、真っ先に取り巻きだった子たちが我先にと声をあげる。


「えぇ!クライリス様になすりつけようとしていたあの悪女が全ての元凶です!」

「その元庶民は罰するべきです!」

「貴族の恥ですわ!」


その言葉を待っていたわ。

私は不自然じゃない程度に口角を上げた。


「そうですよね、このお二方は貴族の恥ですよね?では…貴族の位を取るべきじゃ無いでしょうか?」


そう言うと、他の令嬢もその通りだと賛同の意思を示す。


――この流れを待っていた。


「ま、待て!さっき貴様が言ったではないか!ただの娘ではなんの力も持たないと!」

「えぇ。そうです。ですが、事前に準備していれば良いだけです。殿下の王子の座を剥奪、そこの男爵令嬢…いえ、もう小娘ですね。小娘も同様。これは陛下と話し合って決めました。男爵令嬢を逢引きをしていると言ったら一発でしたわ」

「な、なんだと…!?」


声も出ていない小娘は、私を睨んでいる。ふぅん、まだ心が折れていないのね。


「…男爵令嬢。」

「な、なんでございましょう…?」

「わたくしをよくも貶めようとしてくれたわね。楽に死ねると思わないことね。陛下は嘘つきが大の嫌いでございますよ」

「ああ、ああ……!」


膝をつき崩れ落ちちゃった。さっきまでの威勢はどこへ行ったのやら。やっぱり自作自演をするだけあって、壊れやすいのかしら?


「そうだわね…カイル、この方達に“ちょっとだけ”悪夢を見せてあげて?」

「それは大きなお願いだな。」


軽口を叩いているが、魔王であるカイルにとっては造作も無い事。あっと言う間に殿下たちは堕ちていく。


「いやだ…!お願い、私を置いてかないで…!」

「リリィ…リリィ…!」


虚ろな目で宙を見て呟いている殿下と小娘を見て、周りにいた人たちが恐れたように見てくる。


「大丈夫よ、貴方達には何もしないから。」


微笑んだが、今の状況では悪魔にしか見えなかったようだ。誰かが「悪魔…」と呟いたのが聞こえる。酷いな。私はただ復讐をしただけなのに。


だけど…ここまでのようだ。一人の令嬢が衛兵を探しているのか、キョロキョロしている。

私はカイルに目で合図をし、身体を回れ右させる。殿下たちの悪夢も解ける。


「…では、これでわたくしは帰らせていただきます。あとは陛下からの言葉から伝えられますので。」


足を進めていくと、少しして背後から男女二人の情けない悲鳴が聞こえた。多分陛下が現れたのだろう。


外へ行くと、ずっとそばに居たカイルが顔を覗き込んでくる。


「…ありがとう、カイル。私の目的は達成されたわ。」

「いや、どうって事ねぇよ。それで約束だ。俺にお前の時間をくれるんだろう?」

「えぇ、それが契約の内容だから。どうすれば良いかしら?」


尋ねると、おもむろにカイルは手を出した。


「魔国へ来い」

「えっ」


今度は私が驚く番だ。何を言っているのか理解が出来なくて、まじまじと見てしまう。


「…私が、魔国に?」

「そうだ。そして、俺の妃になれ。」


本当に何も言えなくなった。絞り出した声は、少し震えていた。


「…わたしで、いいの…?」


妃になれ。その意味が分からないほど私は鈍感じゃない。

カイルはニヤリと笑う。


「プライドの高いその姿勢。鋭い目。だけど案外弱い心は庇護欲をそそられる。綺麗な青い目とプラチナブロンドは儚さもあわせ持つ。そんな宝石みたいなリーナ。俺の隣で一生暮らせ。」


命令口調に、私は契約を思い出す。そう、私に拒否権などない。私はカイルのものになったのだから。

差し出された手を取る。


「……私の時間、貴方に捧げます」

「デロデロに甘やかすから覚悟してろ。あの馬鹿に愛されていなかった時間、埋めてやる。」


そう言ってくれたカイルは、魔王らしく不敵に笑っていた。

6/11.18:00 結構修正しました。

6/12分かりづらい表現…登る《のぼる》を、代名詞に変更しました。


誤字脱字報告ありがとうございます!…私の目はきっと曇っているんだ(そう思いたい)。

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[一言] 魔王カイル様(ノ*>∀<)ノ♡リーナちゃんとお幸せに〜:( ´ ཀ ` ):グハ:
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