雨
更新遅くなりました。
空中浮遊もじきに終わりを向かえる。
少女は俺の肩を掴んだまま、ゆっくりと迫ってくる瓦礫の山を見つめている。
そんな少女の真剣な表情を雨粒が伝った。
そして、トラックが山の頂上に触れる。
その瞬間トラックを支えていた力は消えたようで、大きな音を立てて瓦礫にめり込む。
「これはどういう......?」
「あなたが私を使った結果。それだけ」
横倒しになったトラックの上にとりあえず落ち着いた少女が口元を全力で拭う。
依然状況がつかめない。
「使ったって......君は......?」
少女は取り合うつもりもない様子で、暗闇を見渡している。
その表情は雨に濡れた衣服の不快感に歪んでいるようだ。
また口元を拭ったので、それだけではないらしい。
「そいつは第一浮遊島の兵器だ」
運転席から男が這い出てくる。
その声はどこか平坦に聞こえた。
「お前は......」
今更ながら怒りが込み上げる。
「まぁそんな顔するなって。僕はロビ、ご存知の通り犯罪者だ」
上空に覆い被さる第一浮遊島に手を伸ばして、ロビはそう自己紹介した。
「どうしてこんなことを......?彼女は......?」
「単純な反抗だよ」
そう言ってこちらの様子を窺う。
「なるほど。君みたいなのにはこんなことする意味は分かんないだろうね」
勝手に一人で納得されてしまう。
「君、名前は?」
「俺は、レン」
「浮遊島外縁部......自動人形整備か。まぁ君には悪いことをしたね」
大して責任は感じていないのが明け透けな声色だった。
「で、そっちのお嬢さんは?」
そう言うロビを少女が睨みつける。
しばらくすると視線外し、名前を口にする。
「コペ」
なんとも言えない変わった響きの名前だ。
「二人には悪いけど、僕には付き合ってもらうよ。さっきのでコペの性能も大体分かったしね」
「性能......?」
視線は上を向いたままロビが続ける。
「性能。さっき浮いてただろ?それがコペの兵器としての性能さ」
思わずコペの方を向く。
空が飛べるなら、第一浮遊島に戻ることだって可能なはずだ。
「何......?」
当の本人は眉根を寄せて、不機嫌を剥き出しにしている。
ロビがトラックから瓦礫の山に飛び降りる。
足が沈んで少し転びそうになっていた。
「どこに?」
「なぁに心配はいらないよ。車のエンジンがかからないからね。幸い第一浮遊島はここにゴミをポイ捨てしてるみたいだし部品の交換が出来るだろ。運が良ければまるのままの車が見つかるかもしれない」
「車を直したとして、どうするんだよ?」
「さぁね。正直あのまま死ぬ予定だったし、策はないよ」
そうとだけ言い残して、ガシャガシャ足音を立ててどこかへ行ってしまった。
後に残ったのは俺とコペだけだ。
「もう一度君を使えば帰れる......?」
同じく巻き添えを食らった身である。
きっとコペも帰りたいはずだ。
「無理。出力不足」
ところが返事はひどく無関心なものだった。
「さっきみたいにすれば空が飛べるんだろ?なら戻ればいいじゃないか!?」
コペはため息で答える。
「だから出力不足って言ってるでしょ。そもそも正規の使用法じゃない」
そのどこまでも淡々とした受け答えに耐えかねて、コペの肩を掴んだ。
細い肩に俺の指が食い込む。
抑えきれない感情が握る力として現れる。
「じゃあ俺は、俺はどうすればいいんだよ......」
「痛い。放して」
力が抜ける。
どうしようもない現実に項垂れる。
頰を伝う雨粒に涙が混ざる。
ここには俺の将来なんてない。
あるのは暗闇と、ゴミだけだ。
ゴミの山の上で涙を流す姿はそのゴミの一部のように感じられた。
俺は捨てられたのか......?
何故、俺が......俺が......。
視界に強い光が割り込む。
暗闇に慣れた目には強すぎて、突き刺さるようだった。
顔を上げると、ライトでこちらを照らす見知らぬ男性の姿があった。
第一浮遊島の中央部。
島の中で最も高い塔がそびえ立っている。
そんな塔の一室。
部屋の広さの割に照明の少ないそんな部屋に二人の人影。正確には一人と一台の自動人形だ。
薄い暗闇に男の声が響く。
「コペが拐われました。コペの使用も確認。121579番による犯行です。更には185150番も行方不明。185450番の死亡も確認されています。121579番の共犯者については対処中。破壊された住居及び自動人形も再建造中です。報告は以上です」
「ご苦労」
人の声と大差ない合成音声が答える。
「コペの回収については......」
「無論回収してくれたまえ。コペの覚醒は我らにとって虫と同等、あるいはそれ以上の脅威になりうる」
「了解」
男は暗闇の中、にやりと笑った。
多分次も遅くなります。
m(_ _)m