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幕間 雪奈から永政へ

「うぇへ……えへへ」


 ダメだ、もう少しちゃんとしないと。喝を入れるために、自分の頬を両手で叩き、モップを握る。

 今日は私、左京雪奈にとって特別な一日になるはずなのだから、いいお姉さんらしくいないといけないのだ。ショッピングの約束も無理やりながら取り付けることに成功したし、絶好のアピール日和と言っても過言ではないはず。


 思えば長かった。


 永政くんを特別に思い始めてから10年もの月日が経ったのだ。それがいつこんな感情に変化いたのかは分からないが。


 最初は弟への愛情、などであったはず。

 最初は世話をしたり、成長を見守ったりするのが楽しくて。あまり友達のいなかった小学生時代は永政くんを中心に回っていたといってもいいレベルだった。


 中学校に上がってからは友達と呼べる人は数人できたものの、可能な限り永政くんと一緒に過ごせるように努めた。そのときに言われた『雪奈お姉ちゃん大好き』という言葉を私は今でも忘れていないよ、永政くん。


 二人で一緒に入ったお風呂を掃除する手を動かしながら、そのときの声を反芻する。いつ思い返しても最高の記憶だ。


 永政くんと一緒に過ごすのが特別に楽しい。従姉弟ではない、姉弟なのだ。


 そう思うと何だかワクワクしたのを覚えている。このときにはもっと子どもと触れ合いたい、力になりたい、成長を見届けたいと思って保育士や幼稚園教諭を目指したのだったっけ。つくづく私の人生は永政くんで構成されていることを思い知る。永政くんがいなかったら私の人生はどうなってしまっていたのだろうか。考えたら暗黒になってきたのでやめておいた。


 高校に上がってからも永政くんのお世話をして過ごしていたけれど、就学を機にどんどん減っていって。

 憂鬱になりながらも、免許を取ろうと度々永政くんの写真を凝視したり、生永政くんを凝視したり、お世話したりで回復して。


 大学も同じように過ごしたけれど、永政くんは特別に私を慕ってくれることはもうなくなって。

 たまに家族ぐるみで食事に行ったりするレベルになっていった。あの寂しさも後生忘れることはないだろう。でも、免許習得、卒業、就職は一緒になって喜んでくれた。あの喜びも後生忘れない。


 ぎゅっと、モップを握る手が無意識のうちに強くなっていた。


 そこからは凄惨といってよかった。

 わけのわからない理由で職場いじめに遭い退職。働いていた二年間はちょくちょく永政くんと会っていたのだが、嬉しさよりも疲れなどを感じさせないかの不安を覚えることのほうが多くなり。


 退職してからは永政くんに顔向けできないと会えずにいて、そこからどんどん無気力になり引きこもり状態と化してしまって。そこで出会ったネッ友の皆様方からおねショタの何たるかを教えてくれたことに関しては非常に感謝しているが。


 会いたいけど、会えない。会いたくないけど、会いたい。


 二律背反の感情が最高潮に達しつつあったとき、父から永政くんのメイドとして三年間働いてみないかと誘われた。


 それだったら永政くんの傍にもいられるし、職もゲットできるし、いいことずくめのようにも思えたが、どうしても後ろめたさが残った。永政くんに失望されていたらどうしようという不安もあった。


 だけど、そんな私に父は「お前なら永政くんがくだらないことをする人間ではないことは分かっているだろう」と言ってくれた。私の心境を察してなのか、退職理由からそう言ったのかは定かではないが。

 その言葉に勇気づけられてここに来たのだが、本当に父の言う通りとなってしまった。


 中二までの永政くんは知っている。昔と変わらないほどいい子なのは分かっていた。

 だけど、中三で急に道を踏み外し非行に走っているなり、急ないじめに遭って人間性が変わってしまった可能性もなくはなかったので、直前までは正直怯えていた。


 私が一年間抑え込んでいた感情を初日にしてかなりぶつけてしまっても、淫乱と呼ばれても否定できないほどの行動を受け止めてくれた。


 この事実が何よりも嬉しいし、こんな私でも姉として認めてくれたんだって嬉しくなった。

 だからこそ、永政くんには私ができる範囲内で最大限のことをしてあげたい。あわよくば、永政くんにとってもっと特別な人になりたい。


 自分の想いを再確認できたところで、風呂場の掃除が完了する。

 今日もまた、一緒に入浴できたらいいなと思いながら風呂場から出る。


 もう、午前は終わりを迎えようとしていた。


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