3話 美月と凛子と咲良
陽は落ちて、公園は暗くなっていた。
咲良と、マンションの前で出会ってしまった女子社員の美月はマンション前にある公園のベンチで間隔を開けて座っていた。
咲良は同級生で想い人の凛子に会いに来たら、美月に出会いなぜか逃げ出そうとして捕まってしまったのだ。
そして、引きずられるままに公園のベンチに座らせられ、なぜ凛子に会いに来たのに逃げ出したのか、問いただされることになったのだ。
「わかりません。」咲良は逃げ出した理由について、そう答えるしかなかった。本当のことは言言いづらかったからだ。
「そうなんだ。でも凛子ちゃんに会いに来たんだよね。」
「……。はい。」
「じゃあ、会ったらいいじゃない。」
咲良は答えられず、沈黙する。ふと、疑問が浮かんだから逆に聞くことにした。
「お姉さんは、なんで私が凛子ちゃんに会いにきたのがわかったんですか?」
「ああ、それは私が凛子ちゃんの家の隣に住んでいて、モニタに呼び出そうとしていた部屋番号が見えただけ。
制服も同じだし、あなたは凛子ちゃんと同じ学校の生徒のようだしね。」
「……。はい。」
しばしの沈黙。美月は咲良を静かに見つめている。咲良は視線に耐えれず、うつむいてしまう。
「ごめんね。問いただすように聞いて。何か思いつめていたように見えたから、お節介したくなっただけなの。」
顔を上げると、美月はやさしそうな顔をしていた。
「会いたいけど、会いづらい時ってあるよね。私も中学生のときもだし、今もあるし。」
「そ、そうなんですか?」
「うん。あるよ。ちょっとしたことで仲違いしちゃたりね。」
咲良は大人になってもそうなんだと感心したような気持ちになった。
「ふふっ。困らしちゃったかな。いい時間だし、そろそろ帰らないとまずいんじゃない?」
「あ、ほんとだ。」咲良は帰らないといけない時間になったことに気がついた。
時計を見ようと美月は前の通りを見て、顔をしかめた。通りには咲良と同じ制服の女の子が歩いていたのだ。
「あれは、凛子ちゃん?」
つられて咲良も見ると、そこには見間違うはずはない、いつも学校で会う凛子がいた。凛子を見た瞬間に咲良の胸が跳ねた。
「行ってきたら。今がチャンスかもよ。」美月は咲良に声を掛ける。
「チャンス……。」咲良は手紙の入ったカバンを胸に抱きしめる。そして凛子を見る。
トンっ。美月がやさしく咲良の背中を軽く押し出す。
咲良は美月の顔をみると、優しい表情をしていた。この人は私の気持ちに気づいているかもしれない、咲良は思った。
咲良は押された勢いに合わせ、前に出ようとした。
が、凛子がふとこちらを見た。そして立ち止まり、美月と咲良に向かって来たのだ。
咲良が向かうよりも先に凛子が近づいて来たので、咲良は「あわあわ」と小さく言うことしかできなかった。
「美月さん、こんにちは。」凛子は近づくと美月に礼儀正しく挨拶する。そして咲良に振り向く。
「咲良、なんでここにいるの?」
「えと、えーと。」
なんていえば、いいんだ。大好き?いやここは違うなぁーー。
「?」凛子は不思議そうな顔をして咲良を見ている。
咲良はだんだんと頭が白くなってきていた。
はっ、これだ。
「偶然通っただけだからぁぁぁ。」咲良は走って公園から逃げ出していた。
美月と凛子は急に走り出して公園から去っていく咲良を見ていることしかできなかった。