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21話 真実

優奈は山小屋の中に入ると、中を見回す。

そして、凛子、咲良(中は美月)、美月(中は咲良)の順に視線を移す。


「美月さん、こんなところにいらしたんですね。」

優奈は美月(中は咲良)を、冷たい視線で見ながら、冷たく言い放つ。

美月(中は咲良)は、なんて答えればいいかわからず、戸惑いながら私を見る。


「お姉ちゃん、」私は優奈に声を掛ける。

「咲良、何でここがわかったかは今は聞かないけど、まずは美月さんと話し終えるまで待って。」

優奈は私にそう言った。優奈に正直に伝えるべきか……。伝えるべきなのだろう。


「優奈さん、」私は優奈に声を掛ける。

優奈は妹である咲良のいつもと違う雰囲気にギョッとしつつ、咲良を見つめる。

「ごめんなさい。何も話せてなくて。びっくりすると思うけど、落ち着いて聞いて欲しいの。」

「……。」

優奈は手をぎゅっと握りしめながら、咲良を見つめている。


「実は、実は……。私は咲良ちゃんじゃないの。本当は美月なの。」

「……。いつからなんですか?」

「えっ、三日くらい前から。」

「納品終えた次の日からなんですね。」


「私のせいですか?」

「えっ!?」

「私が美月さんに負担かけすぎて、美月さんは昇天されちゃったんですか?」

「えー!?」

優奈はそういうと急にその場に座り込み、手で目を覆った。手の間から涙が流れ出ていた。


「納品の日に出社したら、美月さんがいなくって、ただ夜遅くに"あとはお願い"ってメールだけ送られてきていて、本当に驚いたんです。

でも、美月さんが私に最後任してくれたんだって、頑張って、それでしっかり終わらせて、次の日に会えることを楽しみにしてたんです。

でも、次の日もその次の日も来なくて、どうしたんだろうと思ったら、美月さんが過労で理性を失って、誘拐したって報道されてて。

それで何とか山小屋に着くと、美月さんがいて、どうしてこうなったか聞こうとしたら、今度は妹の咲良が自分は美月さんって言って、

もう何が何だかわからないですよぉ。」

そういうと優奈は大きい声で泣き出した。

私は優奈に駆け寄り、頭を抱きしめる。

優奈を抱きしめているうちに、私は納品日以降の記憶が蘇ってきていた。


「ごめんね、優奈さん、辛い思いをさせて。でも私も忘れてたの。今のままで忘れてた。」

そう言うと、優奈は私の顔をじっと見つめる。

私は思い出したことを話すことを決めた。


「私は、納品前にすべての仕事を終わらせて、終わらせた暁に、優奈さん、あなたに告白するつもりでいた。

でもね、終わらせられなかった。何日も寝てなくて頭も体もゆうことを聞かなくて、できなかった。

それで、最後に優奈さんにメールを出すしかなくて、私には逃げるようにこの山小屋についたの。」

私がまくし立てると優奈はじっと私を見つめる。


「美月さん、私も優奈さんのこと好きだったんですよ。」

優奈は、咲良の姿をしていたが、私を美月とわかってくれたのだった。さらに好きとも。私は胸の鼓動が早くなることを感じる。

「それに美月さん、私をもっと私を頼ってくださいよ。私美月さんのためなら、何でもしますよ。」

優奈はそういうと私を抱きしめ返す。

「ごめんね、優奈、心配させて。」

「もう、いいんです。美月さんと会えたんで。」

私と優奈はお互いを抱きしめ続けた。

美月(中は咲良)は、姉と自身の姿をしている美月が、恋人のように抱きしめ会っている姿を見ていられず、手で目を隠していた。


しばらく時間が立った。

凛子は、当面の問題をまずは解決しないといけないことに気づいたので、雰囲気を変えようとした。


「美月さん、美月さんと優奈さんの関係はわかってきたんですけど、

一体何で、美月さんは咲良の中にいて、咲良は美月さんの中にいることになったんでしょうか?」

私は顔を上げ、優奈を抱きしめる手を緩めた。

優奈も手を緩め、じっと私を見つめる。

私は山小屋に逃げ出してからの状況を思い出しながら、ぽつりぽつり話した。


「私は山小屋に入ったときに、自分の不甲斐なさや苦しさを忘れるために、この家に常備していたお酒を、気が狂ったように飲んだんだ。

それで、意識が朦朧としてきて……。」

私は部屋の中を見回し、何かを探そうとした。

確か何か、何かがあったはず。

そして、ベッドの横にある人形を見つけた。

立ち上がり、ベッドの横にある人形を取り、裏を見返すとそこには優奈と名前が書かれていた。


「思い出した。以前誰かからもらったこの人形のせいだ。」

「その人形のせいで二人は入れ替わったんですか?」

凛子は私に向かって尋ねる。私は軽く頷く。

「この人形に、名前を書くと、書いた人の最も大切な人になれると教えられていたんだ。

そして、私はあの日、優奈と名前を書いたんだ。」

私は優奈を見ると、優奈はじっと私を見つめていた。


「優奈の名前を書いた後のことは覚えないけど、目が覚めると咲良ちゃんになっていたんだ。

多分、優奈さんの最も大切な人が咲良ちゃんだったんだね。」

私は美月の姿をしている咲良を見る。咲良は困惑しているようだったが、納得もしているようだった。


「じゃあ、この人形のせいなら、どうしたら元に戻れるのかしら。」

凛子は独り言のように話す。すると名案が浮かんだようで目を大きく開いた。


「あ!一つ戻る方法がありました。」

私も優奈も咲良も、凛子を見つめる。

「美月さんが優奈さんの最も大切な人になればいいんです。」凛子は話した。


私は胸が苦しくなった。

「私にはそれができない。仕事を終わらせられなくて、優奈に迷惑をかけちゃったんだ。」

私は情けなかった。愛している優奈のためなら、何でもするつもりでいた。それができなかったからだ。

私が力なく俯いていると、優奈は私に近寄り、私を抱きしめる。


「美月さん、違いますよ。あの仕事は二人で終わらせたんですよ。美月さんのおかけで最後まで達成できたんですよ。」

「優奈……。」

「美月さん、仕事終わったら何でしたっけ?」

優奈は照れながらそう言った。私の鼓動は速くなり、胸が高鳴っていく。

そして、触れ合っている優奈も私と同じようだった。


「優奈、私は私は優奈さんのことを、」

光が咲良と美月を包んでいく。

「愛しています。私と付き合ってください。」

「はい。」

光が消えると、優奈の前には美月がいた。

そして、凛子の横には咲良がいた。

二人は元に戻ったのだった。



次の日の朝になった。

四人が山小屋を出ると、山々は紅葉で彩られていて、一人を除いて晴れ晴れとした気分になる。


麓を降り、四人は一緒に凛子の家に向かう。

今にも逃げ出したがっている美月が無実であることを証言するために。

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