19話 合流
凛子が誘拐されたとして美月が通報された次の日の朝、
私は咲良の家でどうすればいいか考えていた。
最初にすべきは、咲良が入ってるに違いない美月を探すことだった。
何としても警察よりも先に二人を見つけ、合流しないといけないのに、
中学校や美月の家にはおらず、咲良の家にも来てないとなると、街の中のホテルなどが考えられた。
私の財布の中には幾分かのお金が入ってたので、何日かは宿泊できるはずだったが、
今時のホテルがやすやすと指名手配犯に気がつかないわけがない。
となると、野宿が考えられた。近くの川の高架下にいるかもしれない。
私は見つけるまでは、咲良の家には戻らない覚悟で、リュクッサックに荷物を詰めていく。
「咲良、どこかに行くの?」振り返ると姉の優奈が荷造りする私を見ていた。
「うん、ちょっとね。」
私は本当のことは言えないので、誤魔化そうとした。
「もしかして、お友達を探しに行くの?」
「え?」
「今行方不明になっている女の子って、咲良と同じ中学校で同じ学年だよね。
それに、ニュースが出てから、咲良はずっと難しそうな顔しているし。もしかし、仲が良かった子?」
「うん。友達だよ。」私は咲良として正直に答えることにした。
「そう……。今回の事件は美月さん、あの女性が犯人だと思う?」
「……。思わないよ。」
「どうしてそう思うの?」
「それは……。あの人って、お姉ちゃんの尊敬する先輩なんでしょ。」
「何でそれを知ってるの?」
「だって、前に話しているときに優しい先輩にヘルプしてもらったって言ってたよ。それに、昨日だって、先輩が犯人じゃないとも。」
「……。うん、美月さんは誘拐犯じゃないと私は信じている。
ただ、何か特別な理由があって凛子さんと二人でどこかに行く必要があったたけだと思ってるの。」
「私もそう思うよ。」
私がそう答えると優奈は安堵した表情をした。
「それなら、もし、もしよ、美月さんと女の子を見つけた時は、お願いだから、警察を呼ぶ前に、お姉ちゃんを呼んで。」
「約束するけど、でもどうして?」
「私は知りたいの。美月さんの本当の理由を。」
私は優奈の苦悩を知った気がした。私は優奈の尊敬する先輩と思われていたはずだった。
なのに、テレビ報道で女の子が好きな人と報道されてしまい、優奈はどっちが本当の美月なのか困惑してしまったのだ。
「咲良はどこを探しに行くつもりなの?」
「河原とか、人気のないところを探すつもり。」
「私は美月さんは、美月さんの家の山小屋にいるんじゃないかって思ってるの。
追い込まれた時は逃げ込んだって言われてたから。」
私は優奈の言葉に驚いた。
確かにこんな状況であれば、私は家の山小屋に逃げ込む気がする。
しかし、咲良があの山小屋の場所を知っているはずがないのだ。山の中にあるので、偶然でもたどり着けるわけもない。
「あれ?」私は気づくと声に出していた。すごい違和感を感じたからだ。
私は目が覚めると、咲良の家にいた。咲良が寝泊まりしていたから当然だ。
であれば、咲良は美月のマンションで目が覚めるはずだ。
しかし、私が美月のマンションに行った時にはいなかった。
もしかして、私は納品日の前日に山小屋に?
あの日、私は仕事を終えきれなかった。そして、限界を迎え……。
私は山小屋に行ったんじゃないのか?
私は急いで、優奈と共用のPCを使用し、山小屋近くのバス停までの時間を調べる。
そして、リュックサックを背負うと、優奈にいってきますと伝え、山小屋に向かうことにした。
電車に乗り、バスに乗って、山道の入り口に到着する。
用心のために回りを見渡し、警察官などの姿がないことを確認し、山道を進む。
そして、山小屋に到着した。
鍵は持っていないので、山小屋をノックする。しかし応答はなかった。
「咲良ちゃん、凛子ちゃん、中にいますか?私は美月です。」
ドアの向こう側に聞こえるように、大きな声で話す。
すると、中かから、ドタバタと音が聞こえ、ドアが開いた。
中には、凛子と、私がいた。