17話 二人きりの時間
私と凛子は山小屋近くの広場で星を見てから、山小屋に戻る。
時間をみると終電近くの時間になっていたので、凛子はバスに乗って帰る必要があった。
しかし、私はこの小屋に一人でいることは寂しくて耐えれる気がしなかった。
何よりも凛子ともっと一緒にいたかった。
二人で旅行のように山まで来て、一緒にご飯を食べ、星空を眺めた。それは私に取って本当に幸せな時間だったのだ。
凛子が帰ると言った時に、私は止めることしかできなかった。もっともっと一緒に居たかったからだ。
そして、私が凛子を止めようとすると、凛子は常識的ではないが核心をつく質問をした。
私が本当に美月なのかと。
「何でそんなこと聞くの?」
「美月さんが、私の知っている美月さんらしくないからです。」
「今こうやって泣きついているから?」
「はい、それもあります。それと星のことです。私はあの星座が夏の大三角ということは常識として知ってました。
私が美月さんに聞いたのは三角を構成する三点の名前だったんです。でもあなたは秋の大三角という存在しない星座を言いました。
私の知っている美月さんだとありえないことなんです。」
「忘れているだけかもしれないし、気弱になっているからってだけかもしれないよ。」
「そうかもしれません。ただ、あなたの今日の行動を思い返してみると、私の同級生の行動に似ている気がするんです。」
「……。そう。」
二人の間を沈黙が支配する。凛子はじっと美月を見つめているが、私は悲しそうに俯くことしかできないでいた。
「すいません、変なこと聞いて。でも、最後に私の大好きな咲良に伝えさせてください。」
私は顔を上げると、何もかもお見通しのように見える真剣な眼差しで凛子は、私見て言った。
「咲良なんでしょ?」
私は凛子にさらに強く抱きつく。目からは涙が流れていた。
「ごめんね、凛子ちゃん。」
「咲良なのね?」
「うん、そう。なんでか美月さんの中に入って、」
「このバカ!」
凛子は私の発言を遮り、そう言うと私を強く抱きしめた。
「そうなら、そうともっと早くに言いなさいよ。」
「言っても普通は信じてくれないもん。それに美月ちゃんが、私の話するし。」
私は凛子に抱きしめられながら、凛子のことをわかってなかったことを知った。
凛子は見た目は違っていても、私だとわかってくれたのだ。私のことをしっかり知っていてくれたのだ。
そんな凛子ちゃんのことを、私は大好きなんだ。
私と凛子が抱きしめあっていると、凛子があっと声をあげた。
「あ、そうだ。咲良だ。今日学校来てたけど、もしかしてあれって美月さんだったの?」
「多分そうだと思う。」
「なるほど、通りで、違和感感じたわけだ。すごく押し押しでびっくりしたのよ。」
「美月さん、一体なんでそんなに凛子ちゃんにアタックかけたんだろう。」
「さぁ。でもよく考えると美月さんって多分若干ロリコンっぽいところあった気がする。」
「えー、そうなの。」
私と凛子は顔を合わせ笑いあう。
私の姿は美月であったのだが、私と凛子の心は通じあったのだった。
笑っていて、視界に時計が目に入った。気づけば終電の時刻は過ぎていたのだった。
「あ、でも終バスなくなっちゃったかも。」
その日は結局、家に帰る手段がなくなってしまったため、二人は山小屋に一泊することになった。
ベッドは一つしかなかったので、二人で一緒に眠ることにした。
「凛子ちゃん、こんなに近くで眠るの初めてだね。」
「そうね。」
「ねぇ、キスしていい。」
「あんたねぇ。今体は美月さんなのよ。そういうとこしっかり考えなさい。」
「じゃあ、元に戻ったらしてもいいってこと?」
「!?いいからもう寝なさい!」
キスはできなかったが、私と凛子は手を繋いで眠りについた。
私は凛子と想いを分かち合うことができて本当に幸せだった。