14話 山での暮らし
私が目が覚めると、見たことがない天井が目に入った。
寝ぼけた頭でホテルにでも止まっていたっけと思い、周りを見回すとどうもそうではないことがわかった。
ベッドのある部屋の中に、ダイニングから洗い場、そしてテーブルがあった。
部屋の壁は木でできていて、どうもホテルではないようだ。
寝ているベッドの横には、ビールの空き缶や日本酒の空き瓶などが転がっていて、中学生なのに飲酒しちゃった?と思ってしまう。
ひとまず、ベッドから起き上がろうとするが、何か体が重く、元気が出ない。
なんとか起き上がり、窓の外を覗くと、まるで山の中のような木々が目の前にあった。
ここはどこだろうと、気になり、靴を履き、部屋の外にを出ると、目の前には青々とは木々が生い茂っていた。
ぐるりと見回す。同じような木々が生い茂り、離れた場所に山も見える。
木陰から漏れる日光と、住んだ空気が美味しく気持ち良さを感じる。
そして、私が寝ていた部屋を見ると、それは一軒の山小屋だった。
なんで山小屋にいるんだろう?、私は思った。
付近を散策してみると、山小屋から少し離れたところに拓けた場所があり、
その周りは木々で囲われていないところを見つけたが、それ以外は特に変わったところはないようだった。
しばらく歩き回ってから山小屋に戻る。山小屋を使用しているのは私だけのようで、他には誰もいないように見えた。
部屋の中にはガスコンロや水道など生活できそうな環境ではあったが、ここに来た記憶が私にはなかった。
代わりに、昨日は公園で凛子に告白し、想いが伝わらないと振られ、泣き叫び、逃げ出した記憶はあった。
そこからの記憶が曖昧だが、少なくともこの山小屋の記憶はない。
尿意を感じてきたので、トイレに向かう。
トイレ横の洗面台の鏡をふと見ると、そこには美月の姿があった。
鏡を見ながら、顔を触りそれが自分の顔であることを理解した時に、私はその場でトイレを済ませてしまっていた。
来ていた服を脱ぎ、床を拭く。
幸いにもタンスの中にあった替えの服に着替え、自身の状況を再確認する。
私(咲良)は美月になってしまったようだった。
確かに昨日、凛子に振られた時に、美月みたいな堂々とした人になりたいと願った。
その願いが叶ってしまったのかとも思った。
ただ、美月になってみてわかったのは、美月になりたいというわけではなかったということだ。
私は凛子と付き合いたかった。そのために凛子に釣り合う人になりたいだけだった。
自分の思いを再確認して、昨日凛子に振られた時のことを思い出す。
凛子の表情は冷たく、私は胸が苦しくなった。
私はその日、山小屋の中で寝て過ごした。
体のだるさもあったが、何より心に元気が湧いてこなかったのだ。




