1話 女の子との出会い
ここはビルの一室にあるソフトウェアの会社。
広々としたオフィス内にはパソコンと働く人が詰め込まれている。
その中をしばらく覗いていると、誰よりも行動し、積極的に働き、問題あるとたちどころに解決していく女子社員の美月が目に入るだろう。
美月は女性の平均よりも高い身長と長い黒髪を持ち、鋭い目つきをしていたが優しい印象を受ける顔つきをしていた。
新卒で今いる会社に就職し、新人時代から周りの先輩社員に臆することなく、仕事を進める様子から、新人のくせに生意気とじゃじゃ馬と扱いされていた。
しかし、美月の持つ技術や成長力は本物は1ヶ月も経たないうちに、周りは美月の実力を認めざる得なくなっていた。
そして今では、会社内でも五本の指に入るキーマンとして、チームをまとめるようになっていた。
その日の美月は届いたメールをしばらく確認した後に、少し離れた島にある社員の方に向かっていく。
その社員は美月の下で働く派遣社員だった。美月は席に近寄り声をかける。
「すみません、9月納期の案件の件で、担当頂いている箇所にお客様から要件変更が入ったんですけど。」
「メールは見たけど、あと1週間もないのに全部はできないよ。」
社員は追加の作業が増えることを嫌がっているようで、不満な表情をして答えた。
美月はそのように答えられることを想定していたようで、表情は崩さない。
「わかりました。ではこの部分は私で引き取れば、可能ですか?」
「……。それなら、できるかな。」
「では後でメール出しますが対応をお願いします。」
そう言うと美月は自席に戻る。
それを見送る社員は、要件変更全てに対応しなくても済んで良かったと安堵浮かんでいた。
そして、リーダである美月に対しての尊敬念を感じているようだった。
美月は席に戻ると、先ほど会話した内容を元にメールを素早く書き、メールを展開する。
違う案件に進もうとすると、入社してまだ日が浅い女子社員の優奈が声を掛けてきた。
優奈は女性の平均身長くらいで、黒いおかっぱ髪の女の子で、表情はやさしく、話しやすい人柄であったため、周囲から好かれていた。
学生時代は今の業務とは別の内容を学んでいたため、入社してくすぐは戦力にはなれなかっ。
しかし、優奈は真面目で周りからの助けもあったので、徐々に力をつけていっていた。
そして、力をつけ、人並みに働けるようになってきた今年のタイミングで、
美月の近くの島で人が必要となったため、その島に異動となり、新しい上司Zと指導員Xとともに働らいていた。
しかし、優奈とその上司、指導員との関係は良いものではなかった。
そんなある日、優奈が何を作業進めればいいか困っているところを美月が見つけ、美月は優奈に声をかけて手助けした。
美月と優奈はそのときから話すようになり、今は会社内でも一番といっていいくらい仲が良かった。
「美月さん、また対応箇所増えて、大丈夫なんですか?」心配そうな顔で優奈は美月に尋ねる。
「うん。これくらならまだなんとかなるかな。」
「でも、そういって普通の人だと対応できないくらいになってませんか?」
「そう見えるかもしれないけど、定時までに終われるはず。」
「美月さんはすごいです。」
「ふふ。優奈さんもすぐにそうなれるよ。」
そういうと優奈は嬉しそうだ。
美月の優奈を見る表情はやさしく、働く仲間というよりも妹を見ているような目をしていた。
定時になり、美月は追加要件対応と他の案件の対応をし、これなら定時に帰っても十分問題ないことがわかったので切り上げることにした。
「私は今日は上がるけど、優奈さんはどうする?」
「美月さんはやっぱり仕事早いです。私も上がりたいんですけど、9月の納期に間に合うか微妙なんで、帰れないんです。」
そういうと優奈は悲しそうに俯く。
「美月さんと違って、一つの案件しか持ってないのにこれでは恥ずかしいです。」
「最初のうちはそんなものよ。でも今の進み具合なら間に合うからがんばって。あとヘルプも必要になったら言って。」
「美月さん、ありがとうございます!がんばります!」
優奈はやる気ある表情をして、生き生きと話すので、美月は安心してその日は一人帰ることにした。
美月はビルを出て、電車に乗り、自身が住むマンションに帰宅する。
電車の中で、美月は今日の仕事のことをぼんやりと思い出していた。
それは主に優奈との会話であった。
美月は優奈のことを愛らしく思っていたので、その子に尊敬の念で持ってもらえると感じると、堪らなく気持ちよくなれるのであった。
「ふ、ぅふふ。ふひっ」美月は気づいていなかったが、不気味な笑みを浮かべ、漏れるような笑い声を出していた。
周りの乗客は美人で真面目で清楚な感じの女性社員が何を思って、怪しい表情を浮かべているのかが気になる表情をしていた。
電車を降りて数分歩くと、美月の住む十数階立ての賃貸マンションに着く。
美月は玄関の扉を開き、中に入るとオートロックのドアの前に中学生くらいの女の子がいた。
その女の子は身長は優奈と同じくらいで、優奈よりも長めの黒髪のおかっぱで、おとなしめで年相応に可愛らしい顔つきをしていた。
美月はその子が心なしか優奈と似ている気がした。
その子の行動を見ていると、女の子は部屋番号を押し、呼び出し用のボタンを押そうとして、
押すべきかどうか迷っているようだった。
「ふふっ。どうしたの?」美月はその子に声を掛ける。
「あっ、すみません。」女の子はすぐにドア前から離れる。
美月は女の子の横を通り、ドア横の鍵穴に鍵を指し、ドアを開ける。同時にモニターに表示された呼び出し部屋番号をちらりと確認する。
それは美月の隣の部屋の番号だった。
隣の部屋には中学一年生の凛子がいた。
凛子は美月ほどではないが、年齢の割に身長が高く、黒髪を長く伸ばしていた。
顔つきは中学生に見えないくらい大人びてはいたが、年相応のあどけない表情をすることがあった。
美月と凛子はお隣同士の付き合いで、話すようになり、時々勉強を教える程度に仲が良かった。
美月は、その女の子が隣の部屋番号を押していることから、凛子に会いに来たと想像がついた。
美月はドアを開け、中に入った後にその子に振り向く。
「もしかして、凛子ちゃんのお友達?」
「えっ!?」女の子は虚をつかれたのか驚いた表情をした。
「ふふ。この部屋番号に住んでいる子に会いに来たんでしょ?良かったら入る?」
「うっ、うっ、うわー。」そういうと女の子は急にマンションから出ていこうとした。
「どうしたの?」
美月は女の子が急に逃げ出そうとしていることに驚く。
そして気づけはその女の子を追いかけていた。