2・魔法銃①
階段を下って一階へ辿り着いた一行。優兎、ジール、ミントの三人は少し前まで、一階を精神を減らしながら探索していたのだが、今は様子が大分変わっていた。床には上階の床が砕けたのがゴロゴロしていて、随分と歩きにくくなっている。おまけに靄みたいなのが通路全体にかかっており、視界も悪かった。
ミントの魔法でさっと靄を払う。少し先の方ではあの花の魔物の死体が潰れていた。崩壊した床が築いた山の中で、焦げ臭い匂いを放っている。
「ありゃりゃ、あの山のせいで通路が塞がっちゃってますねえ」ニーナはポリポリと頭を掻いた。
「どうします? 私、一発撃ち込みましょうか」
「ダメエエエエッ!」
「ニーナ、ストオオオオップ!」
ニーナがすかさず武器を構えたので、優兎とミントは躍起になって止めに入った。
「ニーナちゃん! アッシュとティムちゃんがいるかもしれないんだから、撃つのはやめてちょうだい!」
「そ、それに、ここでその武器を使うのはまずいよ! 着火から爆発が起こってこんな事になったんだ!」
すると二人の慌てた表情を見て、ニーナはあはははと笑い出した。
「ジョークですよ」
そう言って、武器を担ぎ直す。あ、遊ばれた~~~……。優兎とミントはズルズルと座り込んでいったが、「本気じゃなくてよかった」という思いを胸に、息を吐き出した。
しかしそんな中、ジールだけが物悲しそうに花の魔物を見つめているのを、ニーナは見逃さなかったのだった。
「――さあて、っと。早くアニキ達と合流しなきゃね。アニキー! ティムー!」
「返事してちょうだーい!」
四人は大声を出しながら、行方不明の二人を探した。優兎とジールは花の魔物の周辺を、ミントは手前を探し、のっぽ――「あのシュリープ」だのと呼ぶのは分かりにくい節があるので、当たり障りのない、背が高い(?)という特徴から優兎が名付けたのだ――は、遠くの方で優兎を静観し、小さな体のニーナは瓦礫の隙間をくぐり抜けて、山の向こう側へと探しに行ってしまった。最中に隙間が崩れてしまう事も考えうるが、様々な道具類を持っている彼女なら帰って来れるだろう。そんな気がした。
「アッシュー!」
優兎は山の下に向かって声を張り上げた。
「ティム……うっ、ゴホッゴホッ!」
焦げた匂いにむせて、咳き込んでしまった。煙が目にしみて涙も出てくる。
それにしても、いくら叫んでも声が返ってこない。本当に無事なのだろうか。二人はおろか、一人だって安否が分からない状態だ。最悪のケースを考えたくはないが、優兎の不安に思う気持ちはますます大きく膨らんでいくのだった。
(うう、いけないいけない! マイナスに考えすぎだ。前向きな気持ちで臨まないと!)
優兎は奥歯をぐっと噛み締めた。
(あ、そうだ、二人が大ケガしてた時の事も考えなくちゃ! その時はきっと迅速な処置が求められるだろうから、早めにユニとコンタクトを取れるようにしておかないと!)
そう考えて、優兎は探すのを一度やめ、ユニとの交信に集中した。ユニ! ユニ! と何度も呼びかける。胸のざわめきと逸る気持ちが邪魔をしてなかなか集中出来ないのだが、優兎は諦めず続けた。
(ユニ! 聞こえてる? ユニ!)
しいん。応える様子が全くない。
(黙ってないで返事してよ! ユニ!)
しいん。おかしいな。もっと声のボリュームを上げてみよう。
(ユーニー! おーい!)
しいん。もう何度目かの黙秘に、優兎はとうとう怒りを露わにした。
(あああ~、もうっ! ユニのナルシスト聖守護獣! 嫌みまつ毛! ユニの母ちゃん諸説有りいいいいいッ!!)
『うううううるさいわあああああッ!!』
突如ビリビリビリッ! という鋭い怒号が鳴り響いて、優兎はその場でひっくり返った。
(うっわああ、ユニ、やっと応えてくれたんだね!)
無反応だったからどうしたのかと思ったよ! と興奮気味に告げると、ユニは不機嫌そうに呻いた。
『くっ、バカ者! そうやかましい音を立てるな! ――こっちは非常に不愉快な気分なのだ。せめて声のボリュームを落とすくらいはしろバカ者め。クソッ……』
(ごめんなさーい)
優兎はムスッとして、口を尖らせた。二度もバカって言ったな……。そっちが返事してくれないから、大声を出すしかなかったんじゃないか。何だって僕が怒られなきゃいけないんだ。
(でもまあいいや。この不快感はいつも通りのユニが戻って来たって証拠だよね。ハァ……)
優兎は肩をすくめた。
『フン、抜かせ。リンクによる障害は予想外ではあったが、こんな程度で倒れるボクではない。そこいらの安っぽい低俗とは格が違うのだよ、格が』
(あとは二人は見つけるだけ、か……。本当にどこにいるんだろう)
『それは分からん。解体などした事がないし、考えに及ぶ事すら――ん? いや、待て。あるな。というか、寧ろ――なるほど、つまり感覚が麻痺していたということか。チッ、ボクとした事が……』
うん? 優兎は眉をひそめた。
(ちょっと。何ワケの分からない事言ってるの?)
『貴様こそ唐突に何だ。肉体構造の次は『レパガルトロイト生態理論』について知りたいのか。所構わず油を吐き捨てる奴の事なんぞ知って何になる』
(そんな事一言も言ってないんだけど)
『ふうん? なるほど。それは確かに一理あるな。――仕方がない。貴様のその脳らしき紛い物に一つ、知識を与えてやるとするか』
ユニは「レパガルトロイト生態理論」について語り始めた。なぜレパガルトロイトは十世紀頃から十一世紀までの間に五足歩行から四足歩行に退化したのかだとか、なぜレパガルト(略)は雨が降るのを予測出来るのかだとか、なぜレ(略)は鳥類に属するのに飛べないのかだとか、人間達の解釈や実際にその進化過程を見てきたユニ自身の推測を織り交ぜて話してくれた。
優兎はユニの話を聞いたおかげで、隙間だらけの脳に知識を少し収められたと、涙ながらに感謝を――するもんかっ!
優兎は聞きながらイライラしていた。何でこうも会話が噛み合わないのだろうか。しかも、おかしいのはユニ自身にも関わらず、まるで自分は正常、優兎こそがおかしいのだとばかりに言葉を並べてくる。……上から目線で。
しかし、本当に変なのはユニの方で合っているのだろうか。未だ脳内にレ(略)の解説が続く中、少し不安になった優兎は、そばで石の破片をどける作業をしているジールに協力してもらおうと考えた。
「ジール、何でもいいから僕に一つ質問してみてくれない?」
ジールは「何を急に」とでも言いたげに見つめ返した。
「んー。じゃあ、優兎の好きな女の子のタイプは?」
「……」
「……」
「……優しくて、明るくて、僕の趣味を理解してくれる人……」
うん、大丈夫だ。ちゃんと会話は成り立っている。これで証明出来た。
だが予期せぬ質問によって自らの好みを暴露するハメになり、優兎は湯気が立つんじゃないかと思うくらいカッカと頬を熱くさせたのだった。




