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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【2・魔法の流星群 編 (前編)】
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12・ミジュウル・バイ・シュリープ④

 

 ジールの気力が回復し、本人の口からも「先へ進もう」との意向が出たところで、優兎(ゆうと)達は行動を再開した。シュリープ達に挑む前に発見した扉の方は、固く閉ざされているし、取っ手にあたる部分も取れてしまっているようで、早々に調査を諦めた。階段の方は、問題なく上に行けそうだ。

 しかし、この廊下はまだ先があるように見受けられた。植物を管理するとしたら、建物の一階や離れのような場所、月光を浴びられる最上階が考えられるわけで。ひとまずは、一階の探索を先に終わらせる事になった。


「前方から来るわよ。一体だけど気をつけて」


「変なところにいるシュリープね……。右……? ううん、左の方が広いわね。壁に体を寄せましょう。八十センチ以上――ええっと、手が届きそうにないくらいの距離は取るのよ」


「ああ、気付かれたわ! もう!」


 ミントの指示を受けながら、慎重に、慎重に。地縛系も浮遊系も何体でも出てきて、本当に気を休める暇がない。

 そうまでして行き着いた先は、行き止まりだった。厳密にはまた取っ手のない扉に遮られたのだ。植物の根も、風も、火も通しそうのない見た目の扉を前に、一気に士気がガタ落ちしてしまった。


「ハァ、ハァ。ぼ、ボク、もう疲れたよう……」


 ティムは床にベタンと尻を落とした。


「ティムちゃんダメよ、頑張りましょう!」


 ミントは何とか励まそうとするが、正直何度「頑張ろう!」と声をかけているんだろう……と苦々しく思っていた。


「優兎、回復魔法って今使えない?」


「ごめんジール、今の状態だと集中出来ずに失敗すると思う」


「だよ、ね……。はーあ、照明道具とか持ってくればよかったなあ」


「……」


「……」


 ――沈黙。会話が完全に途絶えてしまった。このような身を隠すもののない通路のど真ん中で立ち止まっているのはよくない。が、それについて指摘する者はいない。みんな限界なのだ。


 優兎の魔法も、最初の頃に比べて随分小さくなっていた。野球ボール程だったのがゴルフボール大までしぼみ、ここにきて急激に小さくなって、今やマッチの火と変わらない大きさに。ふぅと拭いてしまえば、一発で消えてしまいそうだ。


 このままではいけない。このままでは……。


(ユニ、ユニ。聞こえる? ユニ)


『何だ。そんなに連呼せずとも、耳障りな程にハッキリと聞こえている』


 すぐにユニは返してきた。優兎の消えそうな声とそぐわず、随分と力のあるものだった。


(ユニ、僕の目を通して状況は掴めてるんだよね? みんな疲れてくたくたなんだよ)


『ああ、見えるな。まったく、これしきのことで……無様なものだ。気分転換に、この美声で(ほが)らかに笑い飛ばしてやろうか? ハーッハッハッハッ!』


 空気を無視して笑い出すユニに、本来ならブチ切れてもおかしくないところなのだが、頭がぼうっとして言葉が出なかった。逆にその元気の良さが羨ましい。


 いつもと違う優兎の様子に、流石に滑っていると感じ取ったのだろうか。ユニはピタリと笑うのを止めた。


(ユニ、もうユニだけが頼りなんだよ。力を貸して欲しい)


『だから、そう何度も名を――』


(僕に力を貸したくないのは分かってる。でも……でも……今だけは協力して欲しいんだ。みんなを助けたいんだ)


『……』


(邪神だとか、アホだとか生意気言った事、全部謝るから。オラクルなんか撤回して、他の人のところへ行っていいから。だから……――)


 ――瞬間、かろうじて灯っていた光は輝きを失った。



 ——12・ミジュウル・バイ・シュリープ 終ーー


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