7・泣き虫獣人・ティム①
「『リッテの花……澄んだ水、月光、魔力濃度の高い場所を条件に咲く、非常に珍しい花。一度花を開くと五年もの間は枯れる事がないという。月光に晒すと頬を赤らめるかのごとく色づく華やかな小輪は、保存液を振り掛けてネックレスやブローチなどのワンポイントを彩るアクセサリーに。艶やかな葉は様々な薬に用いられる』だってさ」
優兎は図鑑の内容を読み上げた。彼の前には机に突っ伏して淀んだオーラを放つアッシュとジールがいる。
三人は〈食人鬼のテーブル〉を出た後、まっすぐ学校へ帰ってきた。リッテの花がどういうものなのかを知る為に、こうして図書館にいるわけだが……。
アッシュは顔をしかめた。
「あ~~! ただの花だと思ったら、とんだ間違いだったぜ! 咲く場所の条件に魔力濃度の高い場所ってなると、かなり面倒だぞ」
「買えば何とかなるんじゃないかって高くくってたのは認めるけどさ……それにしたって千二百リヲだなんて、バカにしてんの!?」
続いてジール。人気が少なく、静かな図書館では彼らの声がよく響いた。優兎はまあまあと制する。
「魔力の過剰摂取は人体に悪影響を及ぼすんだってね。僕もユニがいた場所で身を以て体験してるから、結構な難易度の依頼だって分かるよ。肌に青いブツブツが出来るんだよね?」
「『青痕』ね。あれは危険信号みたいなもんで、肌に浮き出るレベルは相当ヤバいよ。『魔力中毒』に陥って、頭は割れるように痛くなるし、胃液が逆流してくるぐらい気持ち悪くなるし。当然人なんか住めたもんじゃない」
「けど、そういうところに行かないといけないって仄めかしてるわけか……。ジール、どこか魔力濃度のマシな場所に心当たりない?」
「難しいな……。俺ら、そんなに活動範囲広いわけじゃないし。濃度の薄い〈ダルシェイド大陸〉を省くとなるとね。——放浪してたっていうアニキはどう?」
「オレに頼るなよ……。何かうまいもん食ったとか、印象にでも残ってねえと忘れちまうんだ」
「いやまあ、確かにそういうもんだけどさ。弱ったなあ」
三者揃って頭を悩ませる。その時、三人の元へミントとカルラがやって来た。二人は厚みのある本を何冊も抱えている。
「……お前は何だ? 毎度毎度。ストーカーか?」 眉をひそめるアッシュ。
「バカな事言わないでちょうだい! いい? ここは図書館よ。静かにして」
「へいへい」
テキトーなアッシュの態度にミントはムッとする。
「本当に分かってるのかしら?」
「ハッ! 肝にしかと命じましたとも、ミント先生!」
アッシュはくくくっと笑った。からかわれたミントは毛を逆立てた。
「――あら? 優ちゃん、その花は……」
図鑑の開いてあるページに、ミントの目が止まった。
「うん? ああ、これはリッテの花だよ」
優兎が答えると、彼女は「えっ!?」と大きな声を出した。その場にいた四人はビックリする。
「何だよ、人の事言えねえじゃねーか!」
「ミント、この花の事知ってるの? 僕達、探してるんだ」
「知ってるも何も、アタシは――」
カルラが、どこか興奮気味のミントの腕を引く。
「あっ……、えっと、場所を知ってるのよ。女の子の間じゃあ有名な花だもの。ね、カルラちゃん」
「……」
カルラはコクリと頷いた。
「お前が女だとお?」
「うるさいわよアッシュ! 教えてあげないわよ? 花のある場所」
男子三人は一斉に目を輝かせた。
「条件が揃う場所に当てがあんのか!?」
「ええ」
「魔力濃度の薄いところなんだけど? その辺分かってる?」
「勿論よジールちゃん」
ミントはにんまり笑って胸を叩いた。
「その代わり、アタシ達も連れて行きなさいっ!」




