5・ユニ③(終)
――〈古代遺跡〉の魔法台――
「ハァ、ハァ……やっとついた~!」
ジールは両手を上げて叫ぶ。ここは最初に〈シャロット〉へ訪れた時のと同じ魔法台の前だ。あの洞窟はどうやらここまで繋がっていたらしい。
「魔法台で飛んじまえば、優兎を狙ってたって奴も追いかけては来ねえだろうな。足はつかねえし。合成ゼリィは……いや、明日でいいか」
「ところで優兎、木のカゴは? ゼリィも」
「う! ……えっと、こ、転んじゃって! そしたらカゴが壊れて逃げちゃったんだ」
ジールに問われた優兎はとっさに嘘をついた。ゼリィをわざと逃がしてしまった事は秘密にしておこう。
「おお! 見ろよ、夕日が出てるぜ!」
アッシュが嬉しそうに言う。優兎とジールも彼が見上げる方向を向いた。ああ、本当だ。何て綺麗なんだろう……。
夕日は赤々と燃えるように光り輝いていた。空も大地も夕日の光を受けて、淡いオレンジ色に染まっている。
ただの夕日のようで、疲れきっていた心がじんわりと満たされる。日頃見慣れていたせいで「綺麗な夕日が毎日のように拝める」という喜びを忘れていた気がした。
「そういえば、僕もこの世界に来てから太陽を拝んだ事なんて、一度もなかったかも」
「うん、ホント久し振り。半年ぶりじゃないかな」
「半年も? そんなに!?」
「多分それくらいは。もしかして……えっと、あなた様と関係ありますか?」
テレサに何か尋常でない雰囲気を感じていたジールは、へりくだって尋ねた。
「ああ、この……ヒト? テレサなんだって」
「聖守護獣の!?」「マジかよ!」
『テレサ……フン』
驚く魔法界人の二人に対して、テレサは偽る事もなくそのままの態度を示す。
『つくづく考えていた……やはりどこの馬の骨とも知れん奴らに勝手に名付けられ、知ったような口で語られるのは不愉快だ』
「え、自分で名乗ってたわけじゃないの?」
『元々名などない。いつの間にやら呼ばれていたものだ。便利な事は認めてやるがな。……しかし、生憎と代わりになるような高尚な存在にそぐう名も思い付かん。――そうだな、貴様に一つ権利をやる。貴様ならボクを何と呼ぶ?』
テレサは顔を向ける。勿論優兎に対してだ。
「名前、決めていいって事? 僕が?」
『貴様はボクのオラクルだからな』
「それなんだっけ? またリューン・ナントカ?」
『『代弁者』とでも誇らしげに勘違いしておけ』
「ええ……」
優兎は名前を考えた。数秒でピンとくる。
「じゃあ『ユニ』っていうのはどうかな。とある伝説のう……生物の頭の文字を取ったものなんだけど」
どれだけギャップの激しい性格をしていても、やはりユニコーンというイメージからは離れられないらしい。
『ほう? なるほど、ボクに姿の似た美しき存在か。元が先にあるのは気に食わんが、及第点だな』
テレサは優兎の抱くイメージを読み取った。
『ではこれより、ユニという言葉には「この世で最も気高く聡明で麗しき神獣」という意味を与える! 以降そのような意識を持って名を呼ぶように』
新しく名を変えたユニは三人の前で宣言した。
「……何か思ってたイメージと違うな?」 アッシュは声を細めて言った。
「うん。どう違うかは言わないでおくけど」 ジールも頷く。
「あ、二人も同じ感性? よかった」
「まあでも、変な事に巻き込まれやすい優兎にはちょうどいい守り神かもしんねえな。すげえお宝見つけたもんだぜ!」
「守り神……僕を守ってくれるの?」
『手を煩わせるくらいならさっさと死ね』
「死神じゃないか! 何で僕にくっついてるんだよ! うわあああああっ!!」
優兎は頭を抱え、夕日に向かって嘆き叫んだ。おかしくなってアッシュとジールは笑った。夕日は「自分には手に負えませんわ」とばかりに山々の中に沈んでいった。
――「1・光の聖守護獣 編」 終――




