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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【1・光の聖守護獣 編……第三章 宿題】
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1・初めての授業②

「お前、実は光なんかじゃなくて、()()()()の魔法使いなんじゃねえの?」


 ヘタクソのレベル越えてるだろこれ……と呟きながら、アッシュは紙を拾いに行った。優兎(ゆうと)はがっくりと肩を落とす。


 攻撃魔法は出た。出たのだが、そのまま教卓を貫通してしまった。攻撃対象であった紙は、軽かった為にポーンと後ろの方へすっ飛んだ。

 紙を置いていた場所には鉄球が突き抜けたかのような、結構目立つ穴が開いている。穴の周りからはシューシューと煙が上っていた。


「何か、どっと疲れが……」 優兎は教卓にもたれかかる。


「まさか優ちゃん、今ので!?」


「うん、た、多分全部使っちゃったかも」


「マジかよ。――おいジール、この穴誤摩化(ごまか)せねえか?」


「分かった、後ろに持ってきてよ。準備する」


 バタバタと慌ただしくなる。アッシュとジールは教卓の補修に。ミントは優兎にビスケット系栄養食品『クケット』を差し出した。カルラは加わらずに読書に浸っている。


「僕、ひょっとして才能ないのかな」


 クケットを食べながら優兎は思った事を零す。


「ない」「ちょっとね……」


「そんなあっ!?」


 アッシュとミントの言葉がぐっさりと刺さった。


「魔法を発動して、思うように動かす事が基準値だとすると、それよりも下からのスタートになるわね」


()()を、思うように、か……」


 優兎は手の平を広げた後、教卓に視線を移した。ふと、木を生やしているジールと目が合う。


「あんまり悲嘆することないよ。ここ基礎の学校だから、魔法をうまく制御出来ない人を正す意味もあるし。魔法の才能がからっきしだった人も結構見てきたけど、みんなちゃんと合格して卒業してった」


「そ、そっか、そうだよね!」


「あ、でも優兎は一年いるかどうかも分かんないんだっけ」


「へぐっ!」


「――さてと、補修はこんなもんかな」


 ジールとアッシュは教卓を元の場所まで運んで置いた。穴の箇所には二枚の板が木製の釘で穿たれているだけ。ミントはピクンと耳を動かした。


「ちょっとジールちゃん! これじゃお粗末(そまつ)すぎない?」


「そりゃそうさ、簡易的に済ませただけだもの。板ごと変える必要があるし、ちゃんとした釘と道具も揃えなきゃ」


「うにゅ~、そうなのね。でも叱られないかしら?」


「次の授業、リブラ先生だろ? 先生のトロさはオレのお墨付きだからな、気付かないかもしれねえ。――昼を越せりゃあ、五時間目も自由だったよな。優兎、先生が来るまでに道具探すぞ」


「う、うん」


 優兎とアッシュは二階へ行って工具箱を探し、ジールはもっと最適な木材の種を探して来ると言って、部屋に戻ることにした。優兎は部屋に戻っている間に先生が来てしまうのではないかと心配したのだが、二時間目開始時間になっても来ず、ジールが戻ってくるだけの余裕はあった。


 やっとのことでリブラ――扉を閉めた際、お尻に割れた平らのキャンディーがくっついているのが見えた――が来た頃には、二時間目も半分を切っていた。そして何事もなく授業は行われる。一年生向けの朗読や文字の書き取りといった授業が済むと、リブラは最後まで微笑みを絶やさずに教室を去って行ったのだった。





 図画工作の五時間目と六時間目の別の先生の授業を終えると、優兎は部屋に戻った。属性の詳細やミントが話していた相性について学んでおこうと考えていたのだ。

 昨日借りていた一冊「基本的な魔法知識」の目次からそれっぽい項目を探し出して、ページを開く。本が本だからなのだろう、そこまで多くのページは使われていない。


 ともあれ、優兎は自分の属性について調べてみる事に。光の魔法の記述は一番目に書かれていた。



『〈光〉

 ・光を象徴する獣のように、魔法を発動する際に(まばゆ)い程の光をもたらし、神の福音(ふくいん)がごとく白色に輝くのであれば、それは光の魔法である。

 ・光の魔法を行使する者の特徴は正義感の強い者、意志の強い者、そして特に願いの強い者だと言われている。願いを糧にする為、攻撃や防御以外に治療を施す事も事実上可能である。しかし当の光の魔法使いとなる程の願いというのが大概身に余るものである為、どうする事も出来ず、悲劇の魔法だと嘆く声や、あるいは神からの試練に例える者もいる。』



(僕の願いか……。ファンタジーの世界に行きたいとか、また学校に通いたいとかいろいろあったけど、一番強いのは不知(ふじ)の病が完治することかな)


 だが、完治したら魔法が使えなくなってしまう。そう思うと、じわっと胸の中で何かが広がった。


(いやいや! ここに来た目的を思い出せ! いずれ魔法を失うなんて、分かってた事じゃないか。散々苦しめられてきたんだ、惜しいはずなんてない! (ないがし)ろにされた分、魔法という形で今を楽しめばいいんだ!)


 優兎はブンブンと首を振って、他の代表的な属性の記述も読んだ。



『〈闇〉

 ・闇を象徴する獣のように、深い暗闇を想起させる輝きを放つのであれば、それは闇の魔法である。

 ・(よこしま)な考えを持つ者、後ろ暗いもの・心に傷を負った者が闇の魔法使いとなる可能性が高い。故に別の魔法を行使していた者が何かのキッカケで闇の魔法使いへと変貌したといった事例もある。

 ・外面的な痛みを与えるよりも、精神に負荷をかけていく戦い方が得意である。


 〈火〉

 ・火を象徴する獣のように、自在に火炎を出現でき、灼々(しゃくしゃく)と赤く輝くのであれば、それは火の魔法である。

 ・情熱を持った者、血の気の多い者や、プライドの高い者に現れると言われている。

 ・攻撃に特化した面を持つ。激化した感情に身を投じる事で更に強化。しかし防御に(てい)しようとすると、火力が急激に落ちてしまう。火元がなければ本来の摂理をねじ曲げて火炎を出現させる事になるので、魔力の消費は激しい。


 〈氷〉

 ・氷を象徴する獣のように、自在に氷を出現でき、清らかな水色に輝くのであれば、それは氷の魔法である。

 ・冷静な判断が下せる者、冷徹な者、排他的(はいたてき)な考えを持つ者に現れると言われている。

 ・防御に特化した面を持つ。雪原地帯でもなければ、火の魔法同様消費は(いちじる)しいものだが、火と違って攻撃に(もち)いても問題はなく、個人の何かしらの制約を外す事で防御を上回る事もある。


 〈風〉

 ・風を象徴する獣のように、周辺の気流を操ったり風を起こす事を得意とし、優雅で気品のある紫色に輝くのであれば、それは風の魔法である。

 ・本人の性格・環境と風の魔法との関連性は薄く、一説によれば大気中に溶け込んだ魔力が体内の魔力と結合して風の魔法使いになると言われている。

 ・魔法の行き渡りは広範囲に及ぶが、サッと過ぎ去る風らしく、持続力はそれほどない。


 〈地〉

 ・地を象徴する獣のように、大地を変形させる事を得意とし、豊穣(ほうじょう)の土の色に輝くのであれば、それは地の魔法である。

 ・風とは違い、本人の生まれ育った環境に密接な関連がある。農業や建築業を生業(なりわい)とする者に多い。

 ・発動までに時間はかかるが、一時(いちどき)のパワーは大層なものである。


 聖守護獣達を始祖に持つので、これらは元素魔法や上級魔法と呼ばれるようになった。

 以下は複合型である。


 〈木〉

 ・植物の成長を早めたり、細工する事を得意とする魔法。若々しい緑系統の輝きを放つ。自然と繫がりのある者に現れる事が多い為、地の魔法との複合型と見なされている。


 〈水〉

 ・火や氷同様に水を自在に操る事の出来る魔法。海のような青系統の輝きを放つ。氷の魔法に類似する特徴を持つ事から、氷の魔法との複合型と見なされている。


 〈無属性〉

 ・元素や複合型が絡み合い、個人特有の願いや得意とするものなどがシンプルに魔力と組み合わさったもの。一般的に灰色の輝きを放ち、()つ自然物で表される元素の魔法ともかけ離れているものは、総じて無属性に分類されている。

 ・有属性よりも単純な事しか出来ないのが特徴だが、それだけにその種類は未知数と言われている。

 ・引き出せる魔力が(わず)かばかりで、底を突きやすい者が多く当てはまることから、日常生活を少しだけ豊かにするものという位置づけである。』



 クラスメートや気になっていた無属性の分まで読み終えると、今度は相性について目を向けた。



『〈光と闇〉

 あらゆる魔法の頂点に立つ属性であり、唯一対等に渡り合う事の出来る属性である。


 〈火・風・地・氷〉

「火→風→地→氷→火」といったふうに、右の属性に強く左の属性に弱いという円ないし四角形に結ぶ事が出来る。


 魔法の六大元素、つまり混じり気がなく純度が高ければ高い程、強い力を発揮する。これが名実共に上級魔法と見なされるようになった所以(ゆえん)である。』



(そっか、アッシュが水が火に勝てないって言ってたのは、こういうことなのか)


 理解は出来た。しかし光はめっぽう強いと誉め称えられていても、当の優兎にそんな意識はない。自覚を得るにはあまりにヘタクソすぎた。頭を使えば属性の壁を越えられるとミントが言っていたように、今のままで勝負したなら、きっとあの中の誰にも勝てないだろう。


(まあでも、相性の点で頭を使わなくて済むってのは気楽でいいのかもしれないなあ。極められたら、きっと楽しいだろうな)


 イスの背にもたれかかって、のんびりとそんな事を考えた。


 しばらく本とにらめっこしていると、外でブザーが鳴り、カタンと音が鳴った。優兎が時計を見ると、ちょうど六時だった。


(ああ、手紙鳥か。今日は僕の方にも届けられたみたいだな)


 随所で今は学校の生徒なのだという事実を噛み締めた。



『〈来週の予定表〉

 一・二時間目…世界史

 三時間目…古代語(リューン・ネルゴ)

 四時間目…調合学。調合室にて『ゼリィ玉(赤)』作り。――』



(来週の予定表? 明日はまだ平日じゃ――って、そうか、地球と同じ月日と曜日であるわけないか)


 そう考えながら手紙を封筒の中に仕舞おうとすると、下の方にまだ何か書かれている事に気がついた。



『宿題…ゼリィ玉を作る為に必要な、『合成ゼリィ』を各自持ってくる事。その他の材料や道具はこちらで用意します。』



(ゼリィ玉(赤)とか、合成ゼリィとかって、何のことだろう)


 手紙を机の上に置いて、うーんと考える。すぐに優兎の顔がパッと明るくなった。そういえば図鑑を借りていたっけ!


 早速優兎は「魔法界図鑑①」を手にし、パラパラとページをめくった。しかしそう都合のいいように事は運ばず、ゼリィ玉(赤)の項目は見つからなかった。後で借りて来る必要がありそうだ。


(合成ゼリィについては項目があるといいけど……えーっと……あ、見つけた!)



『〈合成ゼリィ〉

 ・調合に使われる、ポピュラーな材料の一つ。加熱すると物質同士をくっつける接着剤のような役目を果たす。口に入れても無害なので、料理の材料や、骨折・傷を塞ぐものとして、医療に用いられる事もある。

 ・ゼリィから作られる。(まれ)に自らの意志で体を変化させ、合成ゼリィになることもあるが、原理は不明』



(ポピュラーな材料、かあ。僕にも探せるかな。近くの町とかに売ってるといいんだけど)


 よくよく考えると、優兎は一文無しの状態である。日本通貨はあれど、ファンシックの地下街で両替はしていなかった。

 優兎にだんだん焦りの色が見えて来ると、


 コンコンコンッ!


 扉の叩く音が聞こえた。一体誰だろう? 優兎は急いでドアを開けに向かった。


――1・初めての授業 終――

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