11・ナタリアの正体③(前編/終)
ナタリアが去った後、学校は一時休校となった。ナタリアについての身辺調査が行われたところ、旧職員寮にて意識不明の副校長が発見されたのだ。
学校側は生徒に不安を与えぬよう、「命に別状はない」、「不審者の犯行である」などと、事件の詳細をかなりぼかして伝えた。だがアッシュやジールが嗅ぎ回って入手した情報によると、副校長の体には無数の刺し傷と、無理やりくっつけたと思しき傷跡が残されていたという。ナタリアが教師として働く為に、利用されてしまったのだろう。癒しの魔法を悪用する事で、許可がいるような手続きをすっ飛ばし、堂々と新任教師として入り込んだわけだ。
「あの時の僕、間違ってたのかな」
「え?」
「こんな大きな事件が起きるくらいなら、僕、地球にいる時に大人しく捕まっておけばよかったのかなって。そんなふうに考えちゃうんだ」
学校の屋上で、柵に腕を突いて語らう優兎とシフォン。ちょうど金昏が訪れているタイミングで、昼前の空は黄金に、暗い影を纏っていない広大な庭の植物や遠方に見える海面もまた、燦然と光って見えた。
「副校長先生の身に起きた悲劇は聞いたでしょう? 優兎君だって抵抗しようものなら、きっと無事では済まなかったわ」
「だとしても――」
「あら、魔法界で出会えた人達との縁を蔑ろにするつもり? そんな気はないんでしょう。考えてもいいけど、囚われないで」
風がふわりとシフォンの搔き上げた髪を攫った。空の色を絡め取って波のように揺蕩うそれに思わず見とれて、悩みがどこかへ飛んで行ってしまった。
「――これ以上、悪い事が起こらないといいな」
「そうね」
再び景観の美しさに浸り始める二人。優兎は不安も何もかも忘れて、大切な人と過ごす今を大事にしようと思った。
――【4・金昏の遺産 編(前編)】 終――




