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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【4・金昏の遺産 編(前編)】
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11・ナタリアの正体②

 

「ゆーと、大丈夫!? 待ってて、今すぐあの女をとっ捕まえて――」


「い、いや、追わなくていいよキャロル。先生の言葉が本当なら、何もせずそのまま逃げるだけだろうし……」


「そ、そうね。見つけるのは得意だけど、追いかけるのはそんなでもなかったわ」


 いたた……と打ち付けた利き手をブラブラさせる優兎(ゆうと)に、寄り添うキャロル。遅れてベリィも肩までよじ登って来た。


「今回はすっかり二人に助けられちゃったな。お礼を言うのが遅くなっちゃったけど、二人共、僕の為に頑張ってくれてありがとう」


 小規模ながら衝突が多く、もうちょっと仲良くしてくれればいいのにと思っていた二匹が、自分の事を気にかけて体を張ってくれたなんて。嬉しくて仕方がない。おいで、と言って腕や手の平の上に招くと、無事だった事による安心や感謝の気持ちを込めて、ベリィとキャロルを抱きしめる。


「きゃっ! ゆーとったら、苦しいじゃないのよ!」そう言いつつ、拒む気は全くない様子のキャロル。


「ははっ、ごめん」


「ごめんって言っておきながら、締め付けを強くしてるんじゃないわよ! ペンダントが壊れたら承知しないわよ!」


「うわっ! そうだった、ごめん!」


 命に関わる指摘をされた優兎は、慌ててパッと解放した。だが当人としては照れ隠しが口を突いて出ただけだったので、真面目に受け取られてちょっとむくれた。


「――ハァ、でもいつまでも喜んでいられないよな。僕がちょくちょく狙われていた理由については一応納得したけど、ナタリア先生の目的ははっきりしないままだしな」


「ゆーとってば、もうあの女は先生じゃなくなったのよ」


「次の瞬間には呼び捨てって、切り替え難しくないかな?」優兎は頬を掻く。「ナタリアせん……あー、もういいや。ナタリア先生が僕を狙ってきた事については、朝一番に報告しないとな。妄言じゃないって信じてくれればいいんだけど」


「日頃の行い次第ね。一応地図と写真を持っていけば?」


「そうだね」


 優兎は立ち上がって、忘れないうちに地図を机に置いた。写真の方も後からキャロルに手渡される。楽馬から告げられた期限はとっくに過ぎているので、今頃被写体の本は消えているだろう。


「今更だけど、よく写真に撮ろうって思いついたね。どっちの発案なんだい?」


「勿論アタシよ! プルプルが人間の使う道具に詳しいわけないじゃない。制限時間が設定されてる本なんて、最初はどーしようかってすっごく困ったんだけど、記録をまるまる残したいなら写真機だって、ピーン! と来たのよね。じっとしてるのが苦手なララちゃんがイヤイヤぶー垂れてたのはこれか! って、実物を触った時は内心おかしな感覚だったわ」


「んー、言い方が悪かったかな。写真機そのものをよく知ってたなーって、そっちの方の感心。写真機がどういうものか理解していないと、持っていそうな人まで辿り着かないというか」


「?」


「ほら、写真機って魔法界じゃあ全然普及してないから」


「……へ?」


 優兎の発言から一変、キャロルの自信に満ちた表情が滑り落ちる。頭の中が空になった。


「普及……してないの? どこの家にもあるもんじゃないの……?」


「地球ではそうだけど、魔法界で持っている人はかなりレアだよ。高価で撮影時間もそれなりにかかるみたいだから、現在の地球を鑑みるに、これからって時なんじゃないかな」


 キャロルにカメラを貸したシフォンは、普及率を知らないか、あるいはキャロルがさも当然のように要求してきた為、その場で突っ込む事はなかった。何なら時間が経った今でも何とも思っていないかもしれない。だが、かつて聖堂にて行動を共にしていたニーナからその希少性についての知識を入手し、またギルドに立ち寄って実感も得た優兎は、素直に疑問を抱いたのであった。


 当たり前だと思っていた事が、当たり前なんかじゃなかった。この認識の大きなズレに、キャロルは優兎と、ひいては世間との間に隔たりを感じた。しかし同時に、瓦礫(がれき)の山から一縷(いちる)の煌めきをも見出す。


「ゆーと、アタシ……アタシ、調べなくちゃいけない事が出来たから、ご主人様探しを延長する!その内また戻って来るからっ!!」


 ドキドキと逸る気持ちを言葉に乗せると、キャロルは同意の声も聞かずに窓から飛び出していった。


 キャロルの姿はあっという間に夜に溶けて、視認出来なくなった。――こんな時間にどうしたんだろう? ナタリアが今夜中に部屋に来るかもしれないという緊迫感から解放された優兎は、眠気で重くなった瞼を擦りながら、呑気に寝支度を始めるのだが、布団に入る時になって、ようやく彼女に進展があったのだと気付いた。

 ベッドに腰かけたまま、サイドテーブルに置かれた空っぽのミニチュアベットに視線を移すと、それが何かの暗示のように見えて、少しの間静観した。


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