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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【4・金昏の遺産 編(前編)】
221/238

9・小さき者達の調査⑤

 

 ベリィ達が調査を始めて二日目。一時間目からナタリアが教室を出て行くのを見送った後、ベリィは動き出した。「おんなじメロディーがずっと頭の中をぐるぐるしてる……」などと(かす)れた声を漏らし、机に突っ伏している優兎(ゆうと)の元に分身を残すと、こっそり教室を抜け出し、廊下で待機していたキャロルと合流。二匹はナタリアを追跡する。


 ベリィを掴んで飛んでいるキャロルは、姿が確認出来るギリギリのところをキープした。授業の真っ最中なので、彼ら以外に人の気配はない。にも関わらず、ナタリアは周囲を警戒していて、ヘタに動けない緊張感があった。


「誰もいないのに、随分ピリピリしてるのね。ますます怪しい!」


 廊下の端まで着いたナタリアは、魔法台に乗った。距離の関係上、瞬間移動してしまうとどの階へ飛んだのかを突き止めるのに苦労するはずなのだが、今日のキャロルは一味違う。三階へ向かったと断言したのだった。


「粉の量が幾らか減ってるみたいだけど、ちょっとやそっとじゃアタシの粉は落ちないわよ! 雨風なんかに負けないようになってるんだから、とーぜんよね! ふふんっ!」


 キャロルにはナタリアが階のどの辺りにいるのかも見当がついていた。位置情報を元に安全が確保されると、三階へ突入。目視確認も怠らず、用心しながら廊下を飛んでいると、壁に沿うようにして歩を進めているターゲットを発見した。


「まーた延々歩いてるだけなの? ホント変な奴! 一体何を考えてるのかしら」


 廊下一本分の距離を取った場所から、キャロルは呆れて愚痴を零す。彼女の言葉通り、周囲への確認が頻繁になっていたり、廊下の角に差し掛かった際に、手鏡――なぜか無数にヒビが入っている――を使って人気がないか探るといった怪しげな仕草は見られるものの、結局やっている事は昨日と変わらなかった。


「昨日といい今日といい、誰もいないのなんて分かり切ってるんだから、もっと派手な行動すれば調査の甲斐もあるってのに。みょーに疑り深い性格だとか、誰かに付きまとわれてるとかそーいうのだったら、アタシもう付き合ってらんないわよ! こっちはゆーととの約束の日がすぐそこまで迫ってるのに、いつまでもこんなしょーもない事してられないんだから!」


「授業中に廊下を歩いていた」と、授業を放棄する程の必要性があるかはさて置き、これだけでも優兎達の疑問を晴らす事になるので、一応収穫にはなっている。だが自身の宿命に区切りを付ける為、今すぐにでもご主人様探しを再開したいキャロルは、焦りともどかしさでカリカリするようになった。そばで悪態を聞かされているベリィは、気が気でない様子。逸る気持ちからナタリアに突撃して行って、「さっさとやる事やんなさいよ!」なんてがなり立てたらどうしようという不安が付きまとっていた。


 そんな折り、五階に上がったところで、ナタリアはエルゥ族の集団と遭遇しそうになった。生徒の洗濯物を積んだランドリーカートを押したり、トイレ用の掃除道具を運ぶ彼らにいち早く気付いたナタリアは、後退し、非常階段の方へ駆け込む。

 キャロルはこれを転機だと思ったのか、独断でドアが閉まる前に滑り込んだ。置いていかれたベリィが慌てて追おうとするも、目の前でバタンと閉じられてしまう。分裂に割ける質量が限られ、歩調も人間に劣るベリィにとって、キャロルがいなくなるのはかなりの痛手だ。柔らかな体を滑り込ませるスペースすらないドアを前に、ベリィはオロオロと困り果てる。


 右往左往しているベリィを余所に、一瞬の隙をついたキャロルは、ナタリアに気取られぬよう足の間をくぐり抜け、背後を取ると、マントの動きに合わせて飛んだ。近くにいるといずれバレてしまいそうなので、早めに階段の影に非難する。流石のナタリアも、同じ空間に別の誰かが潜んでいるとは思ってもみないらしく、この場に置いてはすっかり緊張を解いていた。


 ナタリアは壁にもたれると、懐から折り畳まれた紙を取り出し、赤鉛筆を走らせた。――あの紙は何? キャロルは紙の正体を掴もうとして、ナタリアの頭の天辺が見えるところまで移動した。似通った図形が縦に並んでいる。確か、優兎が同じものを持っていた。校内地図かもしれない。


(ぐ~~ぬ~~ぬ~~っ! 何か書いてるみたいだけど、ぜんっぜん見えないじゃない!その邪魔な頭をどかしなさいよ!)


 キャロルは身を乗り出す。室内が薄暗いせいか、ナタリアは目と鼻の先まで地図を寄せていて、ぼんやりと丸印や文字を書き付けている事くらいしか分からなかった。

 間もなくして、ナタリアはおもむろにチェーンのついた時計を取り出した。


「――十五分。ま、リスクを負ってまで、同じ場所を回る必要もないか」


 独り言が響く。ナタリアは腰に手を当て、考え込んだ。


「期日は三ヶ月後……か。どうなるか分からないけど、一応御機嫌取りしておこうかね」


 上まで伸びる階段を仰ぐと、ナタリアはそのまま非常階段を上がり始めた。――もう! 突然顔を上げて、ビックリするじゃないの……! さっと頭を引っ込めて、事なきを得たキャロル。心臓をバクバクさせつつ後を追っかけようとしたが、ふとベリィを置いてけぼりにした事を思い出すと、Uターンした。


「あの女、何かしようとしてるみたい! さっき上へ行ったわ。もたもたしてないで、アタシ達も――って……ぶふっ! アンタ何ふざけた事してるの?」


 ドアを貫通した魔法陣から顔を出したキャロルは、ベリィの姿を認めた途端にクスクス笑い出した。

 ベリィはノブにぶら下がってプラプラしていた。無鉄砲な相方を放っておけないと四苦八苦していたのだが、詮索に適した能力を持っているキャロルにはとんちんかんな行動をしているようにしか見えないらしい。「羽も魔法も使えない奴は大変ねえ」とからかわれると、ベリィはプクッと膨れて体当たりした。


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