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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【4・金昏の遺産 編(前編)】
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9・小さき者達の調査②

 

「もうっ! アタシの可愛い声を無視するだなんて、どーしちゃったのかしら。――ねえプルプル、あんたは四六時中ゆーとのそばにいるんだから、当然こうなった原因を知ってるのよね?」


 頑張って体半分まで這い出したキャロルは尋ねる。ベリィは答える為に、ペッ! とキャロルを吐き出すと、床に転がっていた鉛筆とレポート用紙を引っ張って来て、『ユウト』、『ナタリア』と、暮らしの中で覚えた文字の形を書き出した。その後二体に分裂し、一体が優兎(ゆうと)の顔を真似て、もう一体がナタリアの顔を作り出す。

 ナタリアに(ふん)したベリィは、優兎役のベリィに体当たりして、困らせたのだった。


「ふうん? その『ナタリア』ってのが、ゆーとをおかしくした張本人ってわけ。――それで? この人は何者なの? ゆーととどーいう関係?」


 別のレポート用紙で液体を拭いながら理解していくキャロル。女性っぽく見えた為か、しげしげとナタリアベリィを睨みつけている。


『優兎の先生』『前の人の代わり』『来た』


 ベリィは手振りや変化能力を使って、情報を伝えた。


「その人にイタズラしてこらしめちゃえば、ゆーとは元気になるかしら?」


『ダメ』『解決しない』『きっと』


「見つからないようにするから大丈夫よ! 泥だんごでアタシを落とそうとしてきたバカを泣かせてやったり、しつこく追い回して来たカラスの宝物を隠してやったり、こう見えて経験豊富なのよ!」


『ダメ』『機嫌悪くすると』『優兎と友達』『酷い目に遭う』


「うぐぐ~~……じゃあ、どーすればいいわけ!? アタシ、ゆーとの役に立ちたい! あんなヘナチン虫みたいにだらしないブサイクはごめんよ! 帰ってくるたびに出迎えてくれて、どんな事があったのか話を聞いてくれるゆーとじゃなきゃイヤ!」


 駄々をこねるようにベリィの体を叩き、キャロルは訴える。ベリィは困った。優兎の負担を減らすようにサポートしたとしても、根本――ナタリアに変化がない限り、悪い流れは止められないだろう。だが魔物視点からも、ナタリアと接するのは危険だと分かるし、アクションを起こす事自体、優兎が快く思っていないのも知っている。結局優兎が我慢するのが一番なのだ。

 一方で、キャロルの何とかしたいという気持ちも痛いほど分かった。ベリィはほっぺたをびよーんと伸ばされながらも、頭の中で様々なものを天秤にかける。


 やがて修行(いびり)の為にユニが部屋に降り立つのと入れ替わるように、二匹はこっそりと出て行った。ドアに魔法陣の痕跡が消えていったのを見送るユニ。懇意にしている小動物共が行方をくらましたというのに、机でボケているこいつはまったく気付かないのだな、なんて薄ら思いながら。

 とは言え、気付かせてやる義理は無に等しい。


「修行の時間だ」


 ユニは容赦なく椅子を蹴った。それはさっぱりした物言いに反して、尻が浮くほどの衝撃であり、惚けた者の全身を机へと叩き付けた。

 打った箇所のダメージに喘ぎながら、あみだくじの結果を写し取った不気味な笑顔を見せる優兎。ユニは高速で平手打ちした。


「……気力がないの、見て分からないのかね」優兎はやっと言葉と呼べるものを絞り出す。


「ボクにはあるが」


「翻訳ぅ~、仕事して~」


「学業によるストレスは、多くスポーツや趣味といった形で発散させるのが定石とされている。貴様にとって修行というのは、その両方を兼ね備えたもののはずであろう?」


「失神覚悟の運動量と神様のお(たわむ)れが混ざり合ったそれに、ストレス解消効果が望めるとお思いで? ハァ」


 ギシッと優兎はイスの背もたれに全身を預けた。


「それで、今日のスペシャルメニューは?」


「ヘビロテ・シャトルラン」


「は?」


「ヘビーローテーション・シャトルラン」


()()()ってついちゃってる。激しい……回転? 循環?」


「体勢の立て直しを強化するプログラムだ。不測の事態に陥った状態は隙を生むからな。その辺をしごいてやる。ついでに即座に剣を振るう事が出来るよう、ポイントに着くたび剣を作成するという縛りも追加しよう」


「全容がまだよく分かってないのに、勝手に難易度上げないでよ。シャトルランっていうのは何?聞いた事があるような、ないような……」


 こめかみ辺りを指で叩いて記憶を掘り起こそうとする。と、唐突にどこからか「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド」と単調なメロディーが流れて来た。――はて、今のは?


(よど)んだ気が堪っている場所を見つけてな。試しに町中で、この耳馴染みの良いフレーズを頭にガンガン鳴らしてやったところ、興味深い反応を見せる層が一定数存在したのだ」


 今度は「ド、シ、ラ、ソ、ファ、ミ、レ、ド」と順に音階が下がっていく。


「貴様もこれに恐怖する体になるがいいッ!」


「何言ってんだこいつ!?」


 一向にユニの目論見は理解出来ないが、彼が張り切っている以上、ロクな目に遭わないのは間違い無い。嫌な予感がした優兎はすぐさま逃げようとした。が、やはりあっさりと服の端を捕まれて、高らかに笑う悪魔に引きずられて行ったのだった。

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