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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【4・金昏の遺産 編(前編)】
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9・小さき者達の調査①

 

 担任教師が変わって、ようやく一週間が経とうとしている。課外授業は今のところあの一度きりだったが、相変わらずまともな授業は受けていないし、宿題も嫌がらせのようにしこたま出されている。


 横暴に対し、現時点で優兎(ゆうと)達六人は耐え忍ぶしかなかった。課外授業の一件で、周囲には生真面目な若者で通っているというのを知ってしまったからだ。これでは他の先生に向いていない、注意してくれと文句を言ったところで、「新任なんだから大目に見てやってくれ」とあしらわれてしまうだろうし、余計な事を口走った罰として、最悪あの腰の剣で斬り殺されるかもしれない。

 実際、件の場に居合わせなかった優兎やシフォンは、アッシュらから話を聞いても、普段とのギャップがありすぎて受け入れづらかった。しかし、廊下で先生同士の交流をしている様や、校内を案内される姿を目撃する事で、真実として飲み込むようになっていったのだった。


「ハァ~~、夢にまで見た魔法学校生活をエンジョイしていたのに、担任の先生が変わっただけで、毎日が少しずつおかしくなっていくう~~」


 授業が終わって自室へ戻った優兎は、机に積まれた宿題の山で将棋崩しをしながら愚痴を零していた。教科書とノートの間に挟まった鉛筆を抜き取って、赤ペンも何もつけないくせにやらされた、風邪っぴき文鳥の羽毛の生え変わりについてまとめたレポートの上に乗っける。

 優兎の番が終わると、ベリィに順番が回った。ベリィは診察時に貰った棒付きキャンディに手を伸ばした。


「宿題、やりたくないなあ~。どうして夏休みレベルの量をこなさなくちゃいけないんだろう」


 校内の庭園に植わっている花の種類をまとめたレポートを引き抜いて、思わず溜息。こんなの知ったところでテストに役立つわけがない。提出する側もおざなりになっていないか?


「でも、やらなきゃ堪っていく一方なんだよな。あれもそれも終わってないし、コンツィ・ーアドル数独(すうどく)なんて、もう三日も放置してる。コンツィ・ーアドル数独って一体何なんだ? 聞いた事もないし、ここの空欄に何を書けばいいのかも調べなくちゃならないなんて、頭がどうにかなりそうだよ」


 九×九のマス目だけとりあえず描いておいた紙を無理やり引っ張り出すと、宿題の山が一気に崩壊した。それをキッカケに、優兎は「あ~~」と声を漏らしてうつぶせになった。机の下にバサバサと教科書やらノートやらが落ちて行く。ベリィは押し寄せる宿題の波に慌てふためきつつも、机の角っこまで逃げ回って何とか事なきを得た。


 しかし、ベリィがホッとしたのも一瞬の内。瞬間移動によってキャロルが背後に登場。猛スピードでタックルして来て、ベリィはぶっ飛び、ポヨヨンと床に落っこちてしまった。


「きゃっはははは! うまいこと脅かしてやったわ! ぶっざまーっ!」


 いつの間に外から帰って来たのだろう。思惑が成功したキャロルは、腹を抱えて笑い出す。

 平べったく潰れていたベリィは、ブルブルと頭を振った後、不満たっぷりに頬を膨らませる。自分を(あざけ)る相手に、ベリィも黙ってはいられなかった。四体に分裂し、家具を伝ってキャロルを捕まえようと飛び跳ねる。


 とはいえ、自由自在に浮遊するキャロルを捕らえるのは至難(しなん)(わざ)だった。行動範囲の広さとすばしっこさは数なんかで埋まるものではなく、ベリィ群は空虚を掴む一方。おまけにキャロルは、「ぜーんぜん届いてないわよー!」と煽り散らかしつつも、一定の距離感を保っている。遊びの中で幾度も敗北しているので、流石に学習したのかもしれない。


 ベリィはあっさり観念する事にした。普段は粘るところだが、元気のない優兎の後ろ姿が視界に映ると、気力がしぼんでいくのだ。しょぼしょぼと四体の自分を集めて、元の一体へと戻り始める。


「勝った? アタシ勝った??」 キャロルは目を輝かせた。「きゃーーーーっ! ついに! ついにあのプルプルとの攻防戦に勝ったわーーーーーっ!」


 気落ちしたベリィとは正反対に、キャロルは有頂天。高速でひとしきり回ると、そっぽを向くベリィをつんつん突っついたり、ゴムのように体を引っ張ったりして煽りまくった。


「負けた気分はどう? どうなの? 勝った事しかないアタシに教えなさいよ、ほらほら! きゃはは! あんたみたいな飛べない生き物がアタシに勝とうなんて、千年早いのよー! ――ねっ、ゆーともそう思うでしょ?」


 伸び切った体から手を離して、プルンプルン揺れる様を楽しんだ後、優兎に話しかける。だが当の彼は何を考えているのか、コンツィ・ーアドル数独のマス目であみだくじをするのに夢中で、相手をしてくれない。

 鉛筆でマス目をなぞっていった先で、『フンババ』の文字に当たり、へらりと不気味に笑っている。


「ゆーと、ねえ何してるの? アタシ、プルプルに勝ったのよ? 『すごいねキャロル!』とか、『君は最高で立派なご主人様思いの植霊族だよ!』とか何とか、勝者にかける言葉はないわけ?」


 左耳に訴えかけても反応無し。右耳へ回っても同じこと。

 辺りを見渡すと、キャロルはようやく異変に気がついた。優兎は何が面白いのかさっぱりな遊びをしているし、机周りはごちゃごちゃしている。部屋の中も、外出する数日前と現在とでは様子が違っていて、課題用に集めた資料や本なんかが散乱していた。


 自分の知らない内に、何やらおかしな事が起こっている。キャロルは言い様のない不安にかられた。


 するとその時、キャロルの足に向かって赤い液体が飛んで来て、べちゃっと張り付いた。突然の重量の変化にバランスを崩したキャロルは、あれよあれよという間に落下。

 わけが分からずキャーキャー(わめ)いていると、ベリィが近寄って来た。どうやらあんまりにも彼女が勝った勝ったと騒ぎ立てるものだから、仕返ししたくなったらしい。大きな口を開けると、キャロルの首から下をパクッと飲み込んでしまった。


「ギャーーッ! イヤーーッ! プルプルが肌につく! なまあったかくて気持ち悪い! ムカムカしてくるようなあまったるい匂いがしてくるのもサイアク! あんた一体何を食べたらそーなるわけ!? うわあん助けてーーーゆーとーーーーーっ!」


 まんじゅうの具になったキャロルは、必死の思いで叫ぶ。それでも優兎には届かず、キャロルはもがき疲れてしまった。


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