表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【1・光の聖守護獣 編……第二章 魔法界】
21/237

4・リブラ先生①


優兎(ゆうと)(ないがし)ろにして好き勝手やっちゃったみたいだね。ごめん優兎」


「アタシ達も謝るわ。ね、カルラちゃん」


「……」


 ジール、ミント、カルラは散らかった教室を掃除していた。元が倉庫部屋なので、二階には掃除用具入れも置いてあるのだが、焦げ目が増えていたり床がびしょびしょだったり、机やイスが散乱していたりで大変だ。優兎も手伝って拭き掃除をする。


「あはは……記憶が飛んでるけど、僕もひどい醜態を(さら)したような気がする……何か申しわけない」


「いやあ、面白かったよ。――ぷふっ! ガッカリした時に思い出そうと思う」


「ぐはっ!」


「ジールちゃん……」


「ジョーダンだって」


 ジールはニッと笑った。何だかニヤけている感じがするが、果して本当に冗談なのだろうか……?

 優兎は溜息をついて壁の焦げついた箇所を見た。こんなにも教室がボロボロな理由が分かったような気がする。アッシュとミントを筆頭に、あんな感じの衝突を何度となく繰り返してきたのだろう。


「アニキもそこで座ってないでさー、掃除手伝ってよ」


 ジールが見上げると、アッシュは一人、机の上に胡座(あぐら)をかいて何やら小難しい顔をしていた。四人の視線が集まっているのに気付くと「や、ちょっと考え事をな!」とニヤリ。ジールは「多分()()絡みだろうな……」と見当をつけ、ミントは「またしょうもない事を考えているんでしょうね……」と溜息した。


 机やイスを元の場所に戻し終えると、廊下の方から靴音が聞こえてきた。この教室の方に向かってきているみたいだ!


「ひょっとして先生が来ちゃった!? どど、どうしよう僕……!」


 優兎はどこか隠れる場所がないか探した。アッシュは肩をつかむ。


「いいじゃねえか、このまま受けていきゃあ。都合がいい事に席も一つ余ってるしな!」


「え?」


 そこだ、と前の三つの席の左端を指す。この世界の授業を受けられるのは願ってもない事ではあるが……。優兎は戸惑いながらミントを見た。


「もう、こうなっちゃったら仕方ないわよね。大丈夫。分からない事があったらフォローするわ。()()()()ね」


「オレには聞くなよ」


「ミント、言い出しっぺが何か言ってるんだけど」


「……席、ちょっと右寄りにするわ。カルラちゃん、机の位置を交換してもらっていいかしら」


「……」


「全体的に机同士を詰めて、違和感を薄める必要がありそうね。アッシュ、あんた教科書くらいは見せてあげなさいよ」


「おう」


 示し合わせが済むと、ゆっくりとドアが開かれ、女性が現れた。ピンクを基調とした服と帽子に、赤茶色の髪の毛を三つ編みに編み上げて、肩から垂らしている。


「みなさぁん、お待たせ~」


 驚く程のんびりした声色と温厚な雰囲気満載の笑顔に、優兎は目を瞬かせた。背後から「リブラ・エスティード先生よ」と囁く声が聞こえる。


「おお、先生今日は()()()()な。終業のベルが鳴る前に来られたじゃねえか」


 アッシュが肘をついて声をかけた。優兎はアッシュの方を振り向く。からかっているのかと思いきや。


「そうなのよ~。職員室でうとうとしてたら、『背中にカエルがくっついていますよ』って、声をかけてくれた先生がいらっしゃってねぇ。お陰様で、何とか間に合ったわ~」


「先生、せめて三十分の最速記録から突破しないと。他のクラス任せてもらえないよ?」


「ジール君の言う通りよねぇ。うん、頑張らなくっちゃ!」


 この僅かな会話で、リブラという人物の大まかな性格が知れたような気がした優兎。しかしいくらのんびり屋でも、机の位置が変わっていたり、新顔が一人増えている事には言及して――


「あらあらぁ? みんな、今日はとっても仲良しさんなのねぇ? なんだかいつもより……う~ん? いつも通りだったかもしれない。変な事言っちゃって、ごめんなさいねぇ」


 そうして授業が始まった。黒板に文字を書こうと、リブラが背中を向けると、花やレースのあしらわれた帽子の中から小さなカエルが顔をのぞかせていた。


 授業の内容は魔法界の創世神話について。ラッキーな事に、読み上げの指導が主だった。


「『八百万(やおよろず)の神様の中に、星を作る神様がいました。星の神様は、神様達の住処(すみか)となる星を創造するのが使命でした。星の神様は熱心に使命を全うします。あまりに多くの星を作った為に、星同士が衝突してしまう事も少なくはありません。その過程で、ある星は二つに(わか)たれてしまったのです。

 一方は飛ばされ、いろんな資源を含む星の欠片を繋ぎ合わせたことで、命の星となりました。けれどももう一方は、星の衝突の影響によって生じたエネルギーを取り込んでしまい、命の誕生する余地のない、死の星となってしまうのです。』――ここまで、どうかしらねぇ?」


「リブラ先生、もっとゆっくりでいいと思うぜ」


「だね。ペース落としていいから、声を張る事を意識した方がいいと思う」


「ありがとうね~アッシュ君、ジール君。『――そこへ、この世界の創造神となる六人の兄弟達が降臨したのです。兄弟達は名を、テレサ、デオ、ジン、アルト、エアリース、ナディアムと言いました。彼らがこの星を癒やすと、荒んだ空は蒼く澄み渡り、大地は浄化され、様々な命が誕生しました。散った星の欠片は太陽と月の代わりとなりました。

 やがて兄弟達はこの世界を永住の地とし、時に慈悲を与える母として、時に過ちを罰する父として、今尚この世界を見守っていると言われています』」


 読み上げが終わると、リブラは一息ついた。


「ええっと~……続いて、聖守護獣フォルストと魔法の関係についても聞いてもらおうかしら~」


「先生、ページ数は?ってカルラちゃんが」


「ええっと~~……三十ページねぇ。はふぅ」


リブラはズレた丸形の眼鏡を正した。


「『六人の兄弟達は、世界中に溢れ、あらゆる物質に溶け込んでしまった有害なエネルギーを薄めるべく、体内に吸収しました。これが、彼らが神でありながら魔法の始祖となる起源です。テレサが放つ力は光と呼ばれ、光の神に。デオが放つ力は闇と呼ばれ、闇の神に。ジンは火、アルトは氷、エアリースは風、ナディアムは地の神になりました。それでも吸収しきれないエネルギー(魔力)は、生物を通して発散を促し、無害なエネルギーへと清浄させることにしました。多くの魔力を取り込んだ影響で、兄弟達は獣の形へと変貌してしまいましたが、いつしか『聖守護獣』と呼ばれるに至り、彼らは救世神として(あが)められるようになりました』――」


 リブラは教科書を教卓に置く。


「はい! このお話が、現在最も有力とされている説で~す。ではでは、ちょっと前にやったところのおさらいねぇ。この兄弟達の中で、太陽神とも言われているのは誰だったかしらぁ?」


 ちょっと迷った後、ミントを指名した。ミントは立ち上がる。


「光の聖守護獣テレサです。残された文献の一部から、古代人達の間でもそうと知れ渡っていたと記録されています」


「正解ねぇ。じゃあ、引き続きミントちゃんに質問よぉ。現代において、テレサ様はどうして太陽神であると解釈されるようになったのかしら~?」


「魔法に限らず、あらゆる光を守護していると考えられているからです。連日天気が悪かったりすると、力の影響力が弱まっていると見なされています」


「そうそう。最近も何だか天気の悪い日が続いているのよねぇ。ひょっとしたら、ちょっと体調を崩しちゃってるのかもしれないわねぇ」


 ミントちゃんご苦労様、と拍手を送って座るよう促すリブラ。優兎はやり取りを静観しながら、いつの間にやら先生を指導するフェーズから、生徒を指導する通常フェーズにシフトしたみたいだと思った。この教室はどうやら、教える側と教わる側の両方の立場になって授業を受けられるみたいだ。授業が始まる前はこの先生大丈夫なのだろうかと心配していたが、今や普通に勉強になると真面目に聞いている。


(なんだか、こういう雰囲気いいなあ……)


 こっちの世界の授業を受けるなんて無意味な事だと、校長に苦言を(てい)されてしまったのに。仕方ないんだ、諦めようと思う事にしたはずなのに。

 心の中で羨ましい気持ちが芽生えてくる。この気持ちはいけないものなのだろうか。


「じゃあ次は、月の神とも言われてるのは誰か、という問いに答えてもらおうかしら~。え~っと、それじゃあ……」


 リブラは優兎に指を向けた。


「そこの……う~ん? あら大変、私ってば、名前ど忘れしちゃったかしらぁ?」


 ここでリブラはようやっと、生徒の中に見かけない(かもしれない)人物が紛れ込んでいる事に気付いた。三名の生徒が心の中で「遅っ!?」とツッコむのも当然なタイミングだ。


「おいおい先生、こいつの名前忘れちまったのか? 優兎だよ、ゆ・う・と。生徒の名前忘れんなよなー?」


 アッシュは少し頬を引きつらせながらも、割と自然なフォローを入れた。「『デオ』よ、優ちゃん。この問題の答え」と、ミントが囁く。しかし優兎は黙ったまま(うつむ)いていた。

 どうしたのかという四方からの目線が集まってくる。すると、優兎は意を決したように立ち上がった。


「リブラ先生!」


「はひっ!?」


「僕を、このクラスの生徒にして下さい! 授業を受けさせて下さい!」


 お願いします! と、優兎は力強く言って頭を下げた。リブラも他の生徒達も、目をぱちくりとさせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ