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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【1・光の聖守護獣 編……第二章 魔法界】
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3・倉庫組と哀れな王子あるいは乙女による閃光花火②

 

「先手必勝よ!」


 最初に魔法を発動させたのはミント。足元に紫色の魔法陣を浮かび上がらせ、両手で切り開くような動作をすると、サッと机とイスが端に寄って、一瞬で開けた空間が出来上がる。優兎(ゆうと)が驚くと、ふわりと体が地面から離れた。


「わっ! 何?」


 空気の流れのようなものに優兎は包まれた。


「許してちょうだいね」 両腕を上げたミントが言った。「この二人に関わるとロクな目に()わないだろうから。教室の外に出してあげるから、出たらすぐに魔法台に――」


「ジール!」


「はいはい」


 いつの間にか開かれていたドアが、つる草と花でみっしりと塞がれる。浮いていた優兎が浮力を失うと、落っこちる前に地面からツタが生えてきて、優兎を二階まで運ぶ。そしてそのまま牢のようになった。


「うにゅ~~!」 ミントは悔しそうに顔を歪める。


「『風』の魔法って、やっぱり持続力ないよね」 ジールは余裕の笑みを浮かべる。「優兎、そこにいて。ここにいたら多分危ないと思うから」


「え!? わ、分かった!」


 いや、危ないっていうか、なんでこんな事になってるんだ!? 優兎は上から四人の様子を眺めながらあわあわとしていた。王子様に間違われたと思ったら、今度は「私を巡って争わないで!」な乙女(おとめ)状態になるなんて!

 しかしどっちの立場も優兎は望まない。目の前で魔法バトルが繰り広げられているが、おちおち見ていられる気分ではなかった。


 アッシュの足元から赤い魔法陣が現れ、同時に勢いのある炎を放つ。するとカルラが静かに歩み出て、青い陣を出し、水流が渦巻く盾を作り出した。


「オイオイ、『水』が『火』に勝てると思ってるのかあ?」


 アッシュが言うと、炎の威力が増した。カルラは少し顔をしかめる。


「あんたはホントに考え無しよね」


「はあ? 何だよミント!」


「カルラちゃんにはアタシもついてるってことよ」


 ミントは水の壁に向かって手を上げた。すると水の勢いが増し、火の勢いを殺していった。


「ジールちゃんもあんまり舐めない事。手加減してくれるのは嬉しいけど、それくらいのひょろひょろじゃあアタシ達を捕えられないから」


 いつの間にやら彼女達の背後や足元に出現していたツタを、ミントは手を振って切り刻んだ。


「ジール! テメェこの野郎!」


「いや、ケガさせちゃあまずいと思ってさ。手足縛ったらまともにアニキの攻撃食らっちゃうじゃん。まあ舐めてたのは認めるけど。――それじゃ、そっちがコンビネーションでいくなら、こっちも策を(ろう)さないとね」


 ジールは腰に下げていた布袋の一つを掴むと、教室のあちこちにバラまいた。そして力を注ぐと、小さな種は根を下ろして、教室中に黄色い花を咲かせた。


耐火製(たいかせい)で、山火事の後によく咲く花だ。アニキ、遠慮なくどうぞ」


「おっしゃあ!」


 火を盛大に振りまくと、花は真っ赤に煌々と光り輝いた。教室の気温も上昇する。それによって水と風の勢いが落ちてくると、ミントとカルラはやや体勢を崩した。

 カルラは消火しようと、天井から雨のように水を撒く。それでも花は輝きを衰える事はなく、やがて彼女は諦め、魔法を解いた。


「ハッハッハ! どうだまいったか! わはははは!」


 アッシュの笑い声が響く。赤い花の輝きを受けているせいか、なんだか悪党感が出ている。


「うにゅう、ジールちゃんの『木』の魔法、なかなかやるじゃない……風を吹かせても、これはきっと火の力を強めてしまうわ」


「鋭いね。山火事なんてポンポン起きるもんじゃないし、この種、結構集めるの大変なんだよ。まったく、火力バカのサポートは疲れるよ――いったあッ!?」


「一言余計だ」


 アッシュはジールの頭にゲンコツを食らわした。そして「さあ、どうする? もう終わりか?」とミント達を(あお)る。何が何だか分からない素人の優兎から見ても、これはピンチなんじゃないかと思われた。


 しかし、ミントとカルラは諦めていなかった。カルラが両手を突き出すと、天井から滝のような水がアッシュとジールそれぞれに降り掛かった。


「ぐはっ!?」 「ごほっ!!」


 大量の水を浴びたと同時に、一面の花は消えていく。今度は二人が膝をついた。


「本体の守りがお留守になってるわよ」 ミントはニヤリとした。「水は火に適わないなんて、凝り固まった考えよ。カルラちゃんは魔力消費における節制がとても上手なの。――でもカルラちゃん、アッシュの水流の方が激しくなかった? ひょっとしてバカにされた事怒ってる?」


「……」


 カルラは静かに頷いた。


「ちっくしょう……まだだ! まだ勝負は終わってねえ!!」 アッシュは頭を振って水気を飛ばす。そして立ち上がると、火炎放射を浴びせようとする。「今日こそは焼き魚ならぬ()(ねこ)にしてやる!」


「もっとセンスのある言葉で噛み付けないの?」 ミントは竜巻のような風を向けた。そこにカルラは水の魔法を加える。


(本体を狙う、ね。じゃあ粘着性のある奴で吹っ飛ばして、拘束するか) ジールは種を落として、ひょろ長い木を育てた。


 四人の争いは白熱していく。まずい雰囲気だ。優兎は誰かが止めなければいけないと思った。誰か、誰か……って、僕しかいないじゃないか!


 優兎はツタの牢から何とか逃れなければともがいた。ツタを引っ張って、抜け出す為の出口を作ろうとする。よかった、思ったより簡単にこじ開けられそうじゃないか。やや高度があるのが心配だけど、ツタを利用すれば、非力でもかろうじて下りられる気がする。

 優兎はありったけの力を振り絞ってツタを引き延ばした。


()いた! 開いたぞ!)


 しかし、開いた場所に足をかけたその時だった。ぐらぐらと揺れ、バランスを崩すと、すっぽーん! と履いていた運動靴が片方脱げてしまった。


 靴が落ちて転がって行った先は、魔法が衝突し合っている場所にほど近い。刹梛(せつな)、優兎の頭に走馬灯のように思い出が駆け巡った。――あれはドラゴン・レジェンドのロゴ入りの靴だ。抽選で百名にプレゼントするといった懸賞で、ハガキを山のように出して当てたもの。三十四足当たって母に「こんなに大量に貰ってどうするのよ! 靴棚の中に入らないじゃない!」と怒られ「誕生日プレゼントに靴棚を買えばいいんじゃないかな」なんて返したらまた怒られたが、後に「レジェンド」の「ド」の文字が「ゴ」になっていると発覚。公式から返品の呼びかけがあり、懸賞企画事態なかったことになってしまった。あの靴はその返品をしぶった二足のうちの、大事な一足(非観賞用)なんだ……――


「あ"あああああッ!! それダメえええええッ!! お願いだから僕から奪わないでえええええッ!!」


 優兎は無心に飛び降り、全速力で駆け出した。第三勢力(?)の登場に、アッシュ達四人は振り向く。優兎は滑り込んで靴を入手する。

 魔法を全身に受ける前に、教室の床を覆い尽くすほどの白い魔法陣が広がり、(まばゆ)い光によって四人の魔法はかき消されてしまった。


「な、なんだったんだ? 今のは……」


「わ、分からないわ……」


 言葉を詰まらせながら、アッシュとミントは壁の方に転がっている優兎を見た。滑り込んでそのまま、ボーリングの球のごとく机やイスに激突したのだ。

 靴には焦げひとつなく、優兎は頬ずりをした。



——3・倉庫組と哀れな王子あるいは乙女による閃光花火 終——

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