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プロローグ
——世界が、遠い——
体全身を固いコンクリートに預けて、ぼんやりと思った。
ついさっきだ。あれほど手の届きそうな程の場所にいたのに。それなのに今見上げている空は、どうしてあんなにも遠い場所にあるのだろう。
光り輝いていた気持ちが、どうして今は真っ黒なのだろう。
たすけて
動かせる方の手を、掲げる。
ぁすけ、て……
あらん限りの思いを込めた単語達。届いてくれるなら誰でも良い。
痛い。頭が、体が、いろんな部分が凄く痛いんだ。
儚くて途方もない” ”の願いを聞いてくれる者は、その場に誰一人としていない。ポツポツと涙が降り掛かってくるが、泣いて欲しいのではないし、決して自分の為に零してくれているものでもない。容赦なく目や鼻の中にまで入り込んでくるのに、防ぐ事が出来ない事実を思い知らせるだけ。
ゴホッと咳をすると、鉄味の洪水に飲まれた。精一杯の力で伸ばしたその小さな手は、結局空も希望も、何一つ掴む事はなく、赤い水の底に落ちていった。