4・レクリエーション!④
「その、悪かった。軽いノリで言ったつもりだった」
「え! ……ううん、アタシも熱くなっちゃって。みんなを驚かせちゃったわ」
「……」
耳とひげををしょんぼりさせるミント。「そうよ! 反省してよね!」などとつんと澄まさず、自分も悪かったという反応を示した事にアッシュが違和感を感じる余所で、シフォンの方はというと、カルラの両手を握って話をしていた。
「カルラちゃん、小声でもいいから喋ってみましょ。ボールに向かって喋ってもいいの。あなたの友達は耳がいいから、どんな音でも拾ってくれるわ。ね、ミントちゃん」
カルラがミントを見ると、頷きが帰ってきた。シフォンが元の場所に戻ると、カルラは左右を見回した後、ボールに目を落とした。
「さあさ、みんなゲーム再開よ! 残り時間は一分を切ったわ! 誰が最初にボールを破裂させちゃうのかしら?」
手を叩く音と共に発せられたかけ声に、「優兎」と合わさる声が二つ。「か、からかわないでよ!」と、赤面する者に多くの視線が集まっているところで、ボールを持って佇んでいたカルラは喉をゴクリと鳴らした。
「ご、『ゴズコックサテライ(音楽)』」
「『イサ(歌)』」にわかに頬を上げたミント。
「さ~……、『サンカロフィ(素晴らしい)』!」
「『フィ(肯定)』」
「一字も有りなのか?『フィー(まあまあ)』」
「その辺のシリーズ使い始めると、ゲームがおかしくなるよアニキ。別のにして」
「フィ~(微妙)。そんじゃあ『フィディア』」
「ティムの身内の名前じゃんか。友達や親戚とかの名前ってどうなの優兎?」
「グレーなところだね。国王や学校の先生の名前みたいに、この場のみんなが知ってる人ならセーフかもしれないけど、シフォンやカルラさんは会った事ないからダメじゃないかな」
「フィ~~~(不満)。なら『フィシェロ(赤身肉)』でどうだ!」
アッシュが優兎に向かって判定を求めると、優兎は「フィ」と返した。
次はジールの番になるのだが、チラとタイマーを確認すると、アッシュがもたついた影響によって制限時間は十数秒まで迫っていた。
同じタイミングでタイマーを目視した優兎は、この勝負がジールの負けで終わりになるだろうと予測した。ここでジールが答えた場合、次にボールが渡るのはカルラになる。先ほどの騒ぎがあった手前、自分なら空気を読んで負けを請け負うなと思ったのだ。
実際はどうなったか。ジールは一瞬考える間を置いたものの、
「パス」
そう言って軽やかにボールをカルラへ投げた。
「え! あっ!」
バァンッ!
ボールは慌ててキャッチしたカルラの言葉を待たずに破裂。キラキラと光沢のある紙テープがカルラの髪の毛に引っ掛かった。
ボールを受け取っているので、この一回戦はカルラの負けである。
「わおっ! ジール君潔いわねえ! あそこでパスを使うなんて、やるじゃない!」シフォンが手を叩いて褒める。
「どうも」 事も無げに言うジール。「ゲームがちゃんと成立してたし、サクサク準備して二回戦やろうよ。――次、スタートするの破裂させちゃった人だから、『り』で始まるの考えときなよ、カルラ」
「私が……?」
「そう」
ジールはタイマーをセットし直しに動き始める。優兎は感心した。腫れ物に近い状態のカルラに対してドライと捉えられかねない対応をしたかと思いきや、勝ち負けに関してもからっと澄ませたように見えたのだ。肩を張る程のものではないと印象づけたのは大きいだろう。実際、その後カルラに負けた事を引きずっている様子は見られなかった。
カルラが『り』から始まるワードを考えている間に、二回戦に向けての下準備を始める各々。優兎はシフォンのやり方を参考に、クラッカーの中身を取り出す作業を手伝った。
「疑問なんだけど、そもそも何でクラッカーなんて持ってるの? 家出の時って、必要最低限のものしか詰め込まないイメージなんだけど」
「滞在先で誕生日パーティがあった際にお祝い出来るじゃない。もしもを想定して準備して、圧縮袋に入れちゃえば何とかなるのよ」
「クラッカーを圧縮袋に? ええ……?」
「ビジュアルを気にしなければ、パンとかお菓子とかもいけるわよ」
シフォンはカールした紙切れの両端を引っ張ったりして、悩ましげに唸る。
「うーん、こんな紙切れ程度じゃあ、ドキドキもハラハラも罰ゲーム感だってちっとも足りないわ! もっといろいろ混ぜちゃおうかしら! ――カルラちゃーん! ボールの中に少しだけ水を入れてくれるー?」
「ちょ、ちょっとシフォン!?」
驚きの提案に、優兎達の作業がストップする。シフォンはノリノリで、ボールを渡しながらカルラに「負けちゃっても全力でフォローしてあげるから任せて!」と言って押し通そうとしている。
「オレは別に構わねえぜ」 アッシュが反応した。「同じくもの足りないと思ってたところだ。水の他にチョークの粉とか混ぜたらどうだ」
「お洋服が汚れちゃうけど……アッシュ君、おどけたピエロの服とか、ひげ付き鼻眼鏡とか、ひらひらの可愛いスカート履いて一時間過ごす覚悟があって言ってる? ひひひ」
「格好も変えようってか。……一日じゃないだけマシだな。いいぜ、乗った!」
「あなた達二人で勝手に盛り上がらないでちょうだい!」 ミントはヒートアップしていく彼らを叱った。「放課後ならともかく、一時間目にやるにしては罰がハードだわ!」
「今日のスケジュールは前半が全部リブラ先生担当だし、大丈夫だろ。負ける奴がカルラだろうがお前だろうが、誤摩化すくらいはしてやらあ。――それにいざとなりゃあ、ある程度結果はコントロール出来るだろ?」
アッシュの目が怪しく光り、悪巧み満載の顔でまじないインクを浸したペン先を走らせる。ジールは理解した顔を見せ、ミントも遅れてドキリとした。




