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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【4・金昏の遺産 編(前編)】
197/238

4・レクリエーション!③

 

【魔法界版・しりとりキャッチボールのルール】

 〈内容〉

 ・お尻の単語を繋げていきながらボールを回す。

 ・しりとりの『り』からスタート。

 ・制限時間は五分。『ん』がついたり、時間オーバーした時点でボールを持っていた人の負け。先に出た単語を再度使用した場合も負けとなる。

 ・パスは一人一回まで。


 〈細かなルール〉

 ・伸ばす(おん)『ー』がお尻に付く場合は、その前の単語で始める(『ルビー』なら『ビ』)。黙字もくじがつく場合も同様。

 ・『シャ』、『シュ』、『ショ』などの小文字が付属するものはそのまま一字と見なす。

 ・頭の文字に使われる頻度の少ない『ヘゥへァへ』、『ミェィ”ニャル』、『ペッポコリ』がお尻に付くようなものは避ける。

 ・一般に知られている範囲での古代語使用は可。人間では発音困難・お尻の音が分かりづらいものが多い為、獣人語は禁止。獣人語由来の単語使用は可。

 ・地球出身組はハンデとして動詞(話す・歩く等)や接続詞(そして・しかし等)といった使用は認められるが、母国語は禁止。

 ・わざとボールを回さずに持ち続ける焦らし行為は禁止。なるべく手早く回す。



「うんうん! 追記も済んだし、ゲームのルールは大体こんな感じね! ワクワクしてきたわ!」


「小テストは何回か受けた事あったけど、自信ないなあ。毎回僕でゲームが止まっちゃわなきゃいいんだけど」


 カルラが書いた黒板の文字を見上げるシフォンと優兎(ゆうと)。前方の教卓では見えやすいような位置にジールがタイマーをセットしており、アッシュの方は丸型の専用紙にペンで何か文字を書いていた。ゴムボールのそばに置いてあるアッシュ持参のインク瓶の中身には、キラキラと(またた)いているものが混じっている。


「アニキ、それまじない用のインクじゃん。誓約書も無しに一生徒が持てる代物じゃないよね。一体どこからくすねてきたのさ」


「まあまあまあ。普段っから使ってるわけじゃねえし、これだって単にボールに命令書き込むだけだろ? どういう時に破裂すりゃあいいかってな。闇で流れるような紋無(もんな)しを利用する奴らに比べたら可愛いもんだぜ」


「ミントがもの申したげにこっちを睨んでるよ」


「放っとけ放っとけ。んな事より、『ん』と『同じ単語』以外の細かい奴はどう書きゃあいいんだ? やたらめったら書き込むと許容量越えちまうんだが」


「『アウト』って大声で叫ばれた時に破裂でいいんじゃないの」


「それだ」


 命令を書き込んだ紙をゴムボールに転写し、準備完了。教室の空いたスペースに、六人は輪になって広がった。順番は席順で、時計回りに前列左端の優兎、アッシュ、ジール、カルラ、ミント、シフォンと一周する手筈だ。


「ボール持ってんのオレだし、オレから初めるぞ? 優兎、一番順番が遅いお前がタイマー動かしてくれ」


 アッシュは言いながら周りを見渡す。異議を唱える者はいない。


「んじゃ、スター()! 『金昏(()ンド)』」


 バァンッ!!


 ゴムボールが大きな音を立てて破裂した。中からシフォンが仕込んだ色とりどりの紙テープが飛び出してくる。

 六人は呆然とした。


「即行で終わったんだけど」


「何が起きたの? もしかして『スタート』も単語として認識されちゃったのかしら」


「マジかよ! 今のは無しだ無し!」


 ジールとミントに突っ込まれて、アッシュがやり直しを宣言する。膨らませる前のぺったんこのゴムボールがまだいくらか残っていたので、シフォンが新たにクラッカーの中身を抜き出し、ミントの魔法で膨らませた。ジールの助言を受けながら、アッシュが命令を書き込む。


「出来たぜ。時間経過と『アウト』って大声を出した時に爆発するよう仕掛けたからな。今度は大丈夫だろ」


「最初から始める場合、使われた単語もリセットって事でいい?」優兎が意見を求める。


「今回はそれでいいでしょうね。プレーするたびに優ちゃんとシフォンちゃんが不利になっちゃうもの」


「そんなら同じ単語でラクしてやるぜ。スタート! からの、『金昏(リンド)』!」


 アッシュがジールに向かって片手でボールを投げる。今度は破裂せずに、すっぽりと相手の両手に収まった。


「『ド』か、いろいろあって悩むな。『ドフィス(食用の根っこの総称)』」


 ルールによっては『ド』を『ト』と見なしてもいいという救済措置もとられたりするのだが、魔法界においては濁音・半濁音が頭にくっつく単語は豊富にある。難なく答えてみせたジールは、カルラにボールを投げた。


 が、受け取ったカルラは硬直してしまった。ピッタリと閉じた唇を閉じたまま、そそくさとミントに回す。


「な、何も言ってなかったと思うけど、パスって事でいいのかしらね? 『スイーティリア(花の名前)』」


「よし来た! あ、あ、あ……『アルト(氷/氷の聖守護獣)』!」


「『トルロード鉱石クラム』。散々苦しんだからすぐに思い付いたよ」


 優兎から一周してきたボールを受け取るアッシュ。『ム』がつく語として『ムーヴ・ベイ……』まで口にして、ギリギリ踏み止まった。


「『魔法台(ムーヴ・ゲイト)』だから次は『ト』か。『トラゴ』」


 ジールがカルラにボールを投げた。しかしカルラはボールをキャッチし損ねてしまい、避けた机の方まで転がっていくボールを追い掛けていく。

 戻ってきたカルラは浮かない顔をしていた。言葉が思い付かないというよりは、自身に集中する視線に耐えられないといった様子。口元を震わせ、逃げ惑うようにあっちこっちに目線を動かしている彼女に対して、五人は悟った。優兎やシフォンよりも、彼女の方がゲームに不利かもしれないと。黒板にルールを書く係を普通に受け持ったあたり、少なからずやる気はあったはず。それでも、授業以外の場面だと一層口数が減ってしまう彼女にとっては、たった一言でも勇気がいるのだろう。


 クールでもの静かなわけじゃない。これまでの様子から、カルラは()()()()()()()()のだと、優兎はここで初めて理解した。


「口数が少ねえ分、オレも普段は何も言わねえが、流石に今回はミントに喋らせるのは無しだぜ。アウトかどうかの判断もつかねえしよ」


 見かねたミントがカルラに寄ろうとすると、アッシュがすかさず釘を刺した。ミントはゲーム開始前に交わした優兎との会話を思い出してちょっと迷ったあげく、控え目に反論する。


「こんな様子じゃあ、みんなで楽しく遊べないわ。アウトならアタシがちゃんと宣言する。友達だからとか、そういう贔屓(ひいき)はしないって誓うわ」


「ったく、カルラに甘い奴だな。対等な関係ってより、(かば)ってやらなきゃならない程の弱い奴って下に見てんだよお前は。気を回しすぎなんだよ。牙も爪も引っ込めてじゃれるネコがどこにいるってんだ」


 彼は単純に愚痴を零しただけなのかもしれない。だが種族の事を突かれたミントには、これが痛い程響いた。みるみる毛が逆立っていき、尻尾が倍の太さに。


「完全な獣だったら、アタシだって苦労しちゃいないわよッ!」


 獣の威嚇めいたがなり声に、アッシュやその周りまで圧倒された。完全な獣とも、人間とも、獣人としても歪な気持ちを抱えた者の叫び。窓ガラスすらもガタガタッとその体を震えさせ、しいんとなってしまった教室を静観した。


「ストップストーップ! 二人共落ち着いて。遊びから遠ざかっちゃってるわ。こうしてる間にもタイマーは動いているのよ」


 雰囲気を取り戻すべく、直ちに静寂を破ったのはシフォンだった。シフォンはさり気なく隣りにいた優兎の肩をタッチしてから進み行く。頭が空っぽであった優兎はその瞬間、フォローの手助けを任されたのだと意図を汲み取った。――そうだ、僕も取り持つ力があるって褒められたじゃないか。何をぼさっと見てるんだ!


「あ、あんまりいろいろ話されちゃうと、前に言った言葉が何だったか忘れちゃうなあ。ジール、何て言ってたっけ? ドラゴンだっけ?」


「優兎じゃないんだから。『トラゴ』ね。カードゲームの一種。ドラゴ()なんて言ったら一発でアウトになるから注意しなよ」


「え? ああそう……え!? そんな! 『ド』なんて回されたら、絶対条件反射で出て来ちゃうよ!」


「……ボールの在庫を危惧(きぐ)して言っておくけど、スライムとかエクスカリバーとかも通用しないからね。母国語に分類するから」


「あれ? 僕、もしかして最弱候補筆頭……?」


「プフッ!」


 優兎とジールの真ん中で吹き出す声が聞こえた。二人が音のした方向を振向くと、アッシュが口元に手の甲を押し当てていた。複雑そうに咳き込んでいると、音に反応したらしいミントもこちらを見ている事に気付いた。

 アッシュは気まずそうに耳裏を掻きながら切り出した。



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