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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【4・金昏の遺産 編(前編)】
193/239

2・自分の知らない女の子③

 

 食堂の出入り口が閉まるのを見送った後、優兎(ゆうと)は自室へ戻るべく魔法台を目指した。夕食後も修行の続きをやる予定であるが、その前に明日の授業の準備を済ませておこうと思ったのだった。


『十……九……八……――』


(カウントしたところで駆け足にはならないって。早めに終わらせるから、あと少しだけ待っててよ。くたびれた上に寝起きの頭だと、うっかり違う教科書を持って行っちゃったりするんだ。何だったら、ユニが()()まで僕を運んでくれたっていいんだけど?)


『それは最終的な着地ポイントが自室であれば、どのような形でも構わんという意味だよな?』


(持ち物に小説のノートが紛れてた時なんかは焦ったなあ。ああいう事は二度と起きないように気を引き締めないと。厳しめの先生に見つかりでもしたら、『授業中に関係ない事をするんじゃない!』って没収されちゃうかもしれないし)


『母国語と書き分けているだろう。そもそも読めるはずがない』


(あ、そうか。おまじない効果で当たり前のように出来てたから忘れてた)


『だがいい事を聞いた。次回に活かそう』


(おまじないって悪霊も(はら)えるのかな――わっ!)


「きゃいっ!」


 脳内会話を繰り広げながら、夜用に絞られた照明がぽつぽつ灯る廊下を歩いていた矢先。売店の区画を曲がったところで、揺れ動く(おぼろ)げな光を感知した優兎と、光を携えた数歩先の人物は、突如人が現れた事にお互い驚いた。


 しかし、脳内会話に集中していたとはいえ、ここは魔法台から食堂へ通ずる道。他の生徒が来るかもれない可能性を視野に入れていた優兎側は、即座に反応して足を止める事が出来た。一方で、相手側はそうもいかなかったらしい。提げていたランタンの光がくるっと回転して、転倒する持ち主の姿を断片的に映し出した後、ガシャンッ! と叩き付けられる音が優兎の耳に届いた。


「(ぶつかったわけじゃないのに、随分派手に転んだな……)リブラ先生……ですよね?」


「うう~ん、いたたた……。あらあらぁ、その声は……へんげもんげ君?」


「優兎です」


「あらぁ、優兎君。こんばんはぁ」


 かろうじて耳から下がっている状態の眼鏡を手探りでかけ直し、暗がりの中で微笑む。優兎は「お怪我はありませんか?」と声をかけながら、リブラの右手を引っ張り上げた。


「大丈夫よぉ。ごめんなさいねぇ、私ったら、ぼーっとしていたみたい」


「僕の方こそ不注意でした」 リブラを立たせると、優兎はすぐさま横様に倒れていたランタンを拾った。「校内の見回りですか? ご苦労様です」


「一日と五十分遅れだけどねぇ、ふふふふ~。優兎君は夕食を終えた帰りかしらぁ?」


「そんなところです」


 ランタンを返すと、軽く別れの挨拶をして、二人はすれ違った。が、リブラは何を思ったか、すぐに立ち止まる。


「ん~、寝起きで注意力が落ちてるみたいだから、優兎君、良ければ私と一緒に見回りを手伝ってもらえないかしらぁ?」


「えっ、いいんですか? 是非っ!」


『即決か貴様』


 ユニの声を無視して、優兎は夜の校内を廻れるというわくわくを胸に、駆け足でリブラの元に向かった。



 ――2・自分の知らない女の子 終――


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