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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【3・優兎の日常 編(後編)】
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11・潜行(後編/終)

 

 時はオラクル同士の交戦を終え、優兎(ゆうと)がまだ深い眠りについていた頃。〈ノズァーク城〉へと戻っていた霧夜も、自室代わりに使っている個部屋で休んでいた。一人では余る大きな布団の上に、帰って来たままの格好で靴も脱がずに仰向けになっており、窓辺から漏れ出す青の光によって露わになった、空気中に漂っている(ちり)(おぼろ)げに眺めている。寝具一式は城が落ちぶれてから長期にわたって放置されていたもので、柔らかさなんてとっくに失われているわ、カビくさい匂いはするわで寝心地は最悪のはずだったが、学校側に宛てがわれた部屋のベッドよりは気が休まる……というか、どことなく自分に相応しいような気がしていた。理由は考えないようにしている。


(……)


 霧夜はトレーニングホールであった出来事を思い返した。優兎が三代目に選ばれた意味や、人が変わったかのような思わぬ行動に、ガラにもなく取り乱したこと。

 自分らしくなかったと言えば、その後に取った行動は更に要領を得ない。優兎の殺害を決めたのに、実行せずにこうして戻って来てしまった事だ。部外者が出しゃばって来たのを、理由をつけて退散するにはちょうどいいと思ってしまったのだ。最近始末した魔族の命乞いは何一つ耳に入らず遂行出来たのに。


(今更片を付けに戻ったところで、殺しの宣言をした以上、当然警戒されているだろうしな。少し時間が必要だ)


 霧夜は目の前の光景から顔を背けた。


 朧げな光に背を向けてから(しばら)く時間が経った。生気のない寝具と一体となった霧夜がいる部屋に、ノイズのような声が微かに聞こえるようになる。ザルニュケプトだ。塵や(すす)等の体を持ったトゥルニュケプトの別種で、どこかの隙間から入り込んだらしい。廃屋や廃墟に出没するが、こちらも人畜無害な魔物だ。


 ザーーッ、ザッ、ア"ァーー……


 強いて言えば、存在が少し不気味な程度か。


 ザルニュケプトがベッドの下にたむろし始める。汚れていて静かな場所を好むため、突如として頭上で軋んだ物音が響くと、彼らは四方に散った。

 体を起こした霧夜は奥の窓を睨みつけると、魔法陣を展開。窓の外側にバリアを被せた。


「わっははははーー! イグサス様、颯爽(さっそう)とさん――」


 威勢のいい声と共に、男が窓を蹴破ろうとする仕草を見せる。だが窓は既に防護済みだ。よって声の主は窓を割って突入する前に激しくガラス面に叩き付けられる結果となり、「ぐきゃっ!?」と叫びを上げると、崖の底へ真っ逆さまに落ちていった。


 一拍間が開くと、今度は部屋のドアがノックされた。ノブの捻る音と共に、ベリアが姿を現す。


「用件は今死んでいった奴と同じか」ベリアが口を開く前に霧夜から尋ねる。


「そうよ」


 遠くの方で「おおい! ひっでえじゃねーかよクロ(すけ)ーー!」というツッコミが入るも、二人は無視。ベリアの影からバラがひょこっと顔を出す。


「みんなでピクニックよピクニック! 陰気臭さの塊みたいな青い石を集めに行くのよ!あたいが先導する係でえー、ベリアはお弁当係であんたは荷物持ち! なんちゃって! ――あ、あの子は現地集合になりそうね。そろそろ本格的に動くそうだから、肩慣らしに雑魚処理は任せろだって。血の雨が降りそうだから、傘は必須かも? あうう、殺されちゃう魔物達がとっても可哀相……!」


 バラは悲観しながら、霧夜の部屋から逃げて来たザルニュケプト達に目をつけると、一匹を足で踏みつけた。足首を捻らせてから足を上げると、当然煤の痕が床に染み付いていた。死んだのだ。それを見たバラは、何かが込み上げる寸前までいったものの、やっぱり何ともならなかったみたいなブスッとした表情になった。


 大げさなくらい不機嫌そうに溜息を吐くと、ベリアの肩越しに「オレ様の事が可哀相だって?」とベランダの手すりに足をかけて這い上がろうとするイグサスの姿が見られた。バラは緩んでいた口元を引っ込めてギロッと睨むと、ベリアを押しやって彼を突き飛ばしに向かった。イグサスはまた落ちた。

 霧夜とベリアは改めて向き合う。


「俺はお前らに加担するつもりはねえし、足掻こうとも思わない」


「多少は手を貸してくれたって良いでしょう。やれる事はやっておきたいの。ひょっとしたら徳を積む事になるかもしれないわよ」


「冗談だろ」


「そうね、バカバカしいわ」


 バラが乱していった服を整え、溜息をつくベリア。霧夜は鼻であしらおうとしたが、暇を作りたかった事を思い出すと、ベリアの横を通り過ぎて階段の方へ向かっていった。ベリアはにわかに安心した表情を見せ、彼の後を追っていった。



 ――「3・優兎の日常 編 (後編)」 終――


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