10・聖剣クロスカリバー③
流れ作業のように、およそ一時間ぶっ続けで木の棒に魔力を注いでは破壊、注いでは破壊するという失敗を繰り返した優兎。木の種類や固体差によって魔力の許容量が異なるのも、一筋縄ではいかぬ要因だ。魔力の付与が弱すぎると、武器ではなく蛍光灯もどきになってしまうし、強すぎると当然壊れる。木の棒を握る手も、思わず離してしまうくらいビリビリする。どんな棒でも壊れないような、ちょうどいい塩梅を見つけるか、薄くバリアのようなコーティングを施すか……。優兎は熱心に考える。
破壊するたびに無言で次を要求する優兎に、ユニの堪忍袋の緒もズタズタで、はち切れる寸前だった。が、ふとした瞬間、木の棒に満遍なく魔力を行き渡らせるのではなく、先端にだけ集中させるのが武器としての性能としても節約面でも効率的であると着想を得る。数本の犠牲を経て、ようやっと棒の上半分が光り輝く、ライトセイバーのような武器を作る事に成功した。
「出来たあああああっ! ちょっとへんてこだけど、うん、悪くないっ!」
ほら見て! と出来立てほやほやのライトセイ棒をベリィに見せてあげた。ベリィは眩しさにうっと一瞬だけ顔を背けた後、その場でピョンピョン飛び跳ねて、優兎と共に喜びを分かち合った。
「貴様……このボクにゴミ拾いなんぞさせたあげくに感謝の言葉一つも無しとは、良い度胸だな……」
ホール外のちょっとした掃除をさせられた影の功労者は、盛り上がっている光景を前に恨み言を呟く。捻くれた性格故、木の棒以外にもめん棒や警棒や遊具の鉄棒、(見ず知らずの)赤ん坊という洒落もきかせて優兎に寄越してやったのだが、「ふざけてないでちゃんとしてくれるかな。こっちは真剣にやってるんだから」と真面目なトーンで叱られたのだった。
「初期段階がクリア出来たんだから、次は魔法だけで棒を作らなきゃね。これまでの経験を参考に、下半分は魔力を控え目に、上半分は強めにって感じかな」
棒の魔力を解いて、行動に移す。光の塊を出現させると、手の動きと連動させて左右に引き延ばす。実際の木の棒を手にしたことでイメージしやすくなったのか、棒の形であるにも関わらず、初期に作った剣よりもしっかりとした形を作る事が出来た。
「やったっ! 触るとピリピリするけど、ちゃんと握れるものになってるぞ! どうしよう! 僕、結構才能あるかも! ――で、次は逆十字の形だったよね。それが出来たら剣の形にして……ああでも、それをやる前にどんな形にさせたいのかハッキリとビジョンを作っておかなきゃダメだよね。霧夜みたいな幅広の刀身か、鞘に納まる物を作るか、ロングかショートか、あと重さも再現させて――って、本物を握った事がないから、どれくらいの重量があるのかさっぱりだな。ねえユニ、僕のお小遣いあげるから、地球へ飛んで本屋さんで剣の資料集を――」
ユニは白熱する優兎の頭上に再びタライをお見舞いし、無駄口とパシリをキャンセルした。
その後も時間を費やして剣の創作に没頭する優兎。実際に振ったり、魔力の量を調節したりして、逆十字形の魔法維持に努める。日が暮れて見回りの先生に注意されてからも、孤島に場所を移して続けた。ユニが飽きてどこかへ消えても続けた。その間、口にしたのはゼリィ玉三つとクケット一齧り。ベリィがフォローしてくれなければ、空腹である事も自覚出来ずに倒れていたかもしれない。
一日の終わりを目前にして魔力が尽き果てると、茂みが密集した場所でベリィを抱き締めて眠った。そうして僅か二時間半で、冷たい風を目覚ましに起床。おやつのつもりで包んでいたものを食べ、再度集中した。魔力の浪費が激しいので、コストカットに挑戦。維持を続けながら研究ノートにメモ書きするという事を行っていたが、いつの間にかノートを開かずに地面に直接指で文字を書きなぐるようになっていて、ベリィが代わりに鉛筆を取り、文字の形をノートに並べていく。
日の出と共にユニがフラッと戻って来た頃には、優兎は柄の部分が木の棒で、飾り気のない無骨なガードと鉄色の刀身がついた剣を掲げていた。
「聖剣クロスカリバー」
小枝と土埃に汚れた優兎はユニに気付くと、ニッと誇らしげにその名を口にする。
「意味は『明けの剣』。憧れのエクスカリバーにしたかったけど、少々不吉だし、何より僕専用の特別な剣だからね。昨日折りまくった生き残りの棒を軸にして、グリップの部分はそのままに、ガードから上の部分をショートタイプのアイアンソードみたいな、さっぱりとした見た目にしたんだ。今はこれが限界」
朝日を浴びた片手剣を一振りすると、魔法が解除され、真っ直ぐに伸びたただの木の棒へと戻った。魔法で一から十まで剣を作成するより、木の棒という軸にある程度頼った方が魔力を極力抑えられるという解答に至ったらしい。
「聞いてもいない事をペラペラと」
ユニは風に揺らめく髪を掻き揚げ、素っ気無く言う。一度における浪費だの、実力もわきまえずに装飾を凝ろうだの、重さにまでこだわって欲を満たそうとしているだのと、昨日までなら指摘出来たはずの部分が解消されていた事への嫌みだった。




