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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【3・優兎の日常 編(後編)】
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5・恋のお手伝い⑥

 

「初めて魔法で戦ったけど、こんなにも疲れるものなのねえ。魔法にガンガン体力を奪われていっちゃう感じがしたわ。ハァ、お腹すいた~!」


「そうね。お昼も近いし、シフォンちゃんの要望に応えてお昼休憩を挟もうかしらね」


 ミントがバスケットを開ける動作を見せると、シフォンは「やったあ~」とへろへろなバンザイをして、ダンゴムシみたいにうずくまった。今は本当に限界のようだ。破壊力がある分、体力消費も大きいのかもしれない。


 それはまるでかつての誰かさんを見ているようで、ミントはチラリと目線を動かした。視線が注がれているとも知らず、優兎(ゆうと)は「あっ」と声を上げる。


「その前に、僕、ちょっとゼリィ達の様子を見て来るよ。先に準備してて!」


 戦いへと発展する直前、魔族の暴挙に遭っていた事を思い出した優兎は、その場にどさりと(かばん)を置いて走り去った。ミント達やキャロルが声がけする最中、ベリィだけが鞄からピョンと勢いづけて優兎に飛び乗る。

 小さくなって行く優兎の後ろ姿。ミントは「まったく、あの子も一度言ったら聞かないんだから……」と溜息を零した後、フッと笑ってシートを取り出した。


 記憶を辿りながら優兎が開けた草地に到着すると、ゼリィ達の無事を確認出来た。赤いゼリィ――恐らくベリィの分身だろう――が優兎の姿に気付き、嬉しそうに手を振っている。肩に上ったベリィも手を振り返した。


「ハァ、取り越し苦労だったか。よかった……」


 残っていた気力を出し切るように息を吐き、しゃがんで頬杖を突く。大きな足跡で草が踏み倒されていたり、戦いによる傷跡がいくらか残ってしまったが、逃げたゼリィ達は再びこの場所に集まっていた。彼らの平穏が取り戻せたなら、力の限りを尽くした甲斐があったというものだ。


「あんな事があったのに、何事もなかったみたいに歩き回っちゃってさあ。……はは、その強靭な精神がちょっと羨ましいな」



 ――その目で死を看取った時、貴様は一体どうなるのだ。



 思いがけず口にした言葉が発端となって、ユニに言われた事が頭の中に浮かんでしまい、優兎はかき消すように首を振った。自分の中にはきちんとした解答があるのだ。今、そんな最悪な()()()()を考えてどうする、と。

 そして誤摩化すように、ゼリィ達がほのぼのと過ごしている様に目を向けた。しかし自身の事に頭がいっぱいになっていたのが(あだ)となって、優兎は突然の妨害に対処出来なかった。


 光球が激突して宙に投げ出され、「は……?」と理解が出来ぬまま、緑の中に自分の影が広がって行く。

 優兎は葉の生い茂った茂みの中に、背中から落ちてしまった。


「う、ぐっ……な、何で……」


 首を伸ばし、切り傷を作っていない方の目をこじ開けると、襲撃によって切り開かれた通り道からフラフラと揺れる青い巨体が見えた。


「やめろ! 勝敗は……うあ"ッ! もう、ついただろう!」


 もがこうとすると体重で沈み、背中や腕、足などの周りから小枝のバキバキ折れる音がした。皮膚に容赦なく食い込んでくる枝があり、近付いて来る恐怖対象と合わせて思考回路が乱される。


 痛がりながらも半ば強引に草地に転がり出ると、全身に大きな影が被さった。拳が飛んで来る寸前に横へと転がり、こちらもお返しを、と魔法を宿す。体に残るダメージから推定して、三……いや、一発が限度かもしれない。ならば冷静にタイミングを見極めて、この一発に残りの魔力をすべてぶつけてやるつもりで……っ!


 その時、優兎と魔族の間に赤い物体が二つ立ち塞がった。


「! ベリィ、何を――うわっ!」


 優兎が驚いていると、自分達がいつの間にかゼリィ達に囲まれていたという事にまたもや驚かされた。

 そしてベリィの元に続々とゼリィ達が飛び込んで行き、溶け合ってぐんぐんと上へ伸びて行く。二股の足のようなものが出来、盛り上がった筋肉を付けた腕が生えたりと、それは明確な形を成して行き……そうして完成された姿に、魔族は目を大きく見開き、血塗れた唇をピクピクとさせた。


 ベリィ達が総出で形作ったのは、魔族を模した姿であった。全身が真っ青であるのも、膨れ上がった筋肉や浮き出た血管、体中の醜く垂れ下がった皮膚も細部まで再現されている。いくつか違うのは、怪我の一切がない点と、巨体の魔族が見上げる程にビッグサイズである点。たくさんのゼリィの寄せ集めである為、一回りも二回りも大きい。

 決定的なのが、両目がゼリィ本来のままであること。強そうな外見の割りに可愛い目をパチパチと瞬かせているものだから、緊張を解いてはいけない状況なのに、危うく気が抜けてしまいそうだ。


 しかし、合体したベリィ達を見た魔族の表情は、みるみる歪んで行き――


「ひ、ヒギイイイイイッ!!」


 全身から汗を噴き出すと、こちらに背を向けて走り出したのだ。道端の石にも気付かぬ程の慌てっぷりで、道中でつんのめっている。理不尽な主張と想像以上のしぶとさを持ち合わせていたあの魔族が、小者ばりの醜態をさらけ出すなんて……。優兎は空いた口が塞がらなかった。


 林の奥へ消えて行った事を見届けると、優兎の元にミント達が合流した。


「優ちゃん大丈夫!? さっき大きな音がしたけれど――うみゃあっ!」


 ミント達は魔族の形をしたベリィ達を見ると、反射的に身を引いた。ベリィ達はいつもの調子でピョンピョン――(いな)、今は体重が増えたので、どっすんどっすんと震動させながら優兎の周りを飛び回っていた。



 ——5・恋のお手伝い 終——


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