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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【3・優兎の日常 編(後編)】
151/239

1・シフォン③

 

 四時間目の終了後。優兎(ゆうと)、アッシュ、ジールが売店に並んで昼食を購入すると、シフォンが三人の前に現れた。「ちょっと優兎君を借りてって良い?」と親分のアッシュに許可を求めるシフォン。優兎としては勿論オーケーだったので、うわずった気持ちを隠しながら二人と別れた。

 中庭に入って、天窓を覆う程の葉をいっぱいに広げた巨木を背に、ベンチに隣り合って座る優兎とシフォン。前回を反省して、今回は距離を気持ち縮めて座ってみる……が、少し腕を動かすだけで触れ合ってしまいそうで、やっぱり落ち着かない。そんなドギマギの状態でチラチラ(うかが)いつつ、「突然呼び出したりして、何か用?」と言うと、シフォンはフッと笑った。


「用って程のものじゃないのよ。例えば、あたしのこの服についての感想とかね! どう? 似合ってるかしら」


 立ち上がったシフォンは優兎の目の前まで来ると、くるりと回ってから上品にカーディガンの端を摘んだ。彼女の格好はお姫様のようなひらひらの長袖をしたベージュ色のカーディガンを始め、ワンピースとかぼちゃパンツを足し合わせたインナー、縞模様(しまもよう)のソックス、ブーツと帽子というものだった。ブーツと帽子、インナーの黄色が目立つのだが、(ほが)らかな性格のシフォンのイメージにピッタリの色である。


 優兎は率直によく似合ってると伝えた。だがしかし、シフォンの反応は半笑いだ。


「――なーんて。本当はね、同じ地球人として、話の通じる人と息抜きがしたかっただけなのよ。利用しちゃってごめんなさいね」


 そう言うと、シフォンは空気が抜けたようにすっとんと座った。背もたれに寄りかかって、天窓から除く空を見上げる。


「ぜ、全然問題ないよ!」 優兎は千切れんばかりに首を振った。「明るく振る舞ってるように見えたけど、実は緊張してたんだ?」


「たはは……やっぱり初日はね。初めて話す人ばかりだから、かなりエネルギーを消耗するの。もうお腹ペッコペコよ!」


 シフォンはカブッと昼食の菓子パンに(かぶ)り付いた。……意外だ。自分なんかには真似出来ないと思うような行為をいとも簡単にこなしていたとばかり。優兎も釣られて、最近ちょっとハマっているつくねソーセージに自由なソースをかけたホットドックを口に運んだ。


「せっかくだし、いろいろ聞いても良い? その、君の名字の事とか……」


「そうよね、優兎君は気付いちゃうわよね、へんてこだって。シフォンは本名なんだけど、ミドルやファミリーネームの方はちょっとした遊び心なのよ。地球人のあたしらからすれば明らかに奇妙だって分かるけど、そんなこと、魔法界(こっち)の人達はきっと分からないでしょう? それをさも当然のように呼び親しんでくれたら面白いなっていう、言っちゃえば自己満足ね。因みに、ぜーんぶあたしの好きな食べ物!」


「チョコチップメロンパンも?」


「日本に別宅があって、何度も滞在していたの。だから日本の文化には割と親しみがある方。優兎君の出身国でしょう?」


 シフォンはウインクした。優兎は(うなず)きながら、そう言えばお嬢様だったな、と思い出す。


「シフォンはどういった経緯で魔法界に来たの? 魔法界を経由する魔法台は、うまく隠されてたと思うけど」


「えーっと、まず始めに、()()をしたのよあたし」


「初っ端から飛ばして来たな……」


「適当に駅の方角を目指していたら、突然足元にぽっかり穴が開いて、落ちちゃったの。気付いたらこっちの世界に来ていたわ」


「ちょ、ちょっ……! 急展開すぎる! 何、どういう事!?」


「簡単簡単。下水道工事で(ふた)の開いてたマンホールに足を取られたってだけ。ロマンチックとはほど遠い匂いがしたけど、別世界に辿り着いたって知った時は、『不思議の国のアリス』の主人公になったみたいでわくわくしたわね!」


 しかも、落ちた先が偶然にも校長室の煙突であったというから驚きだ。外から帰って来たばかりで、ゆったりとイスでくつろいでいた校長は飲んでいた茶を吹き出すわ、シフォンは吐き気諸々(もろもろ)のせいで気を失うわ、落下の衝撃によって暖炉上に飾っていたものが全部倒れておしゃかになるわで大変だったらしい。その後校長にいろいろ世話になり、魔法が使える事を知ったシフォンが魔法の勉強に興味を示して頼み込んだ結果、今回学校に通う事が叶ったというわけだ。優兎と出会った頃には申請待ちをしていたという。


「じゃあ、僕と同じで客人扱いでやっかいになってるんだ?」


「ううん。今のクラスの方がちょうどいいだろうって事で入れられたけど、ここの一年生達と同等よ。卒業までやっかいになるつもり」


「卒業までって……三年だよ? 手紙ぐらいしか連絡手段がないのに、そんなにも長い期間家に帰らないつもりなんだ……?」


「パパとママの事は今も変わらず愛してるわ。でも、カーッと反抗したい気分になっちゃったのよ。気持ちの整理がついてないから、今は突っ込まないでくれるとありがたいわ」


 えへへと頭を掻くシフォン。掘れば掘るほど意外な事実が浮かび上がってくるもんだ。「逆に、優兎君はどういった経緯で?」と尋ねられると、優兎は溜まった魔力を発散させる為であること、自身も校長に世話になったことを明かした。勿論、持病の詳細は隠して。


「へえー、療養の為に魔法界に、ねえ。普通にお呼ばれされたわけじゃないんだから、あたしも優兎君もお互い様じゃない。仲間ね!」


「シフォンが使える魔法は雷だって言ってたよね。経緯は突拍子もないけど、元々魔法使いの素質があったからこっちに来られたって事なのかな。血縁者に不思議な力を使う人がいたとか、何か思い当たる節はある?」


「特には〜……ないんじゃないかしら。空飛ぶホウキで出勤とか、あやしい薬を作ってたりとか、そういうミステリアスな行動はしてなかったし。でも、小さい頃から何となく予兆みたいなのはあったわね。背中のスイッチを押すとおしゃべりする電池式の人形って知ってる? あれの電池が空っぽになったと思ったら、ちょっとだけ使えるようになってたり、調子の悪い電化製品を『動け!』って言いながらチョップすると動くようになってたり、些細な事なんだけど、あたしってラッキーかも! って思うような事が起きていたのよね」


「電力に関するものに魔力が作用したわけか。便利そうでいいなあ」


「刺激を求める人に現れやすい属性だとかナントカカントカって聞いたわね。レモンとか電気ナマズとかが好きな人って事かしらね? イマイチピンと来てないんだけど」


「そういうわけじゃないと思うな……」


 アイスを一緒に食べた時にチャレンジ精神の旺盛(おうせい)さが見受けられたので、シフォンに合っている属性だと思えた。


「ふっふん。校長先生が言うには、かなり珍しい属性らしいわよ~? ――と言っても、光属性との区別が付きにくいからっていう、何ともおマヌケな理由からなんだけど。激しくチカチカする光は雷と混同される事があるらしくって、雷の魔法だと思っていたものが、実は違った! って事もあるんですって。だから今も正確な魔法使いの数が分かってないとか」


「ははは、たまにそういう抜けてるところがあるんだよなあ、魔法界(ここ)って……」


「だけど、あたしのは正真正銘! 何せ魔法学校の校長先生のお墨付(すみつ)きだもの。上級にも匹敵する程の破壊力がある属性だって褒めてくれたんだけど、上級ってなあに?」


「光、闇、火、氷、風、地の六属性の事だね。この六つは()に当たるものだから、他の魔法よりも威力が高いんだって。それらに並ぶ程だなんて、凄いじゃないか!」


 優兎は若干大げさに褒める。が、シフォンは「ん~」と(うな)った。


「それが、一長一短みたいなのよね。魔法を発動するまでのチャージ時間が多めにかかるし、使いこなすのが難しくって、変なとこに落っこちちゃうの。まだ慣れてないのねきっと。校長先生に魔法を見てもらった時なんか、ドジってマントに穴を開けちゃった!」


(校長先生!)


「雷なんだから、せっかくだし派手にドッカンドッカン撃てるようになりたいものだわ。――とっ!」


 シフォンの元に突然、ゴムボールが弧を描いて飛んで来た。シフォンは両手で見事キャッチ。中庭で遊んでいる四人組の子供達がいるのだが、方向を誤って飛ばしてしまったようだ。その内の一人が「おねーちゃーん、こっちに投げてー!」と手を振っている。


「いいわよー! その代わり、あたしも混ぜてくれるー?」


 手を振り返したシフォンはボールを投げると、菓子パンの残りを急いで口の中に押し込めた。


「ゴクンッ! じゃ、あたし行くわね。付き合ってくれてありがとう、優兎君」


 くしゃっとした袋をポケットに突っ込み、子供達の方へ駆け出していく。初めて話す人だとかなりエネルギーを使う、みたいに言ってなかったっけ? 自分から初対面の人に突撃していく彼女に、優兎はおかしくなってクスクス笑った。


 初めて話す人……同じ地球人として……――ん?



 ――だから日本の食事や文化には割と親しみがある方。優兎君の出身国でしょう?



 ふと、シフォンの発言を思い返して優兎の笑い声が止まった。あれ? 地球出身とは言ったけど、日本人だとは一言も教えてなかったような?


「シフォン、最後にこれだけ教えて! どうして僕が日本人だって分かったの?」


 優兎は立ち上がって大声を出した。優兎の声を耳にしたシフォンは、軽やかに振り返った。


「顔の感じも特徴的だけどおーっ! 日本の男の子って、何となくもじもじ君が多い気がするからあーっ!」


 大声で言い返すと、シフォンは走り去っていった。


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