7・日々に新たなり⑧
しばらくして、裁断する前の大きなラッピング生地と、店長が身に付けているのと似たような花飾りを貰って戻って来た優兎。戻ってくると女の子は大分体調が回復してきたようで、正座の状態で、伏せをしているオオカミとその頭上に乗っかっているベリィに手を伸ばして撫でていた。
「ショール系統は子供サイズしかないみたいで、こういうのしか通気性のあるものは用意出来なかったんだけど……」
「いえ、構いません。何から何までありがとうございます」女の子は生地を受け取った。立ち上がると、優兎より少し背が低いくらいだった。
「それでその……着替える間、目を伏せていただけると助かるのですが……」
「え? ああ、そうか。嫌なんだったよね、分かった」
優兎は慌てて塀の後ろに回った。衣擦れの音が聞こえると、妙に胸がドキドキしてしまう。
音が鳴り止むと、真っ白なラッピング生地を頭からすっぽり被った女の子がこちらへ回り込んで来た。ローブを着ていた時より顔やワンピース姿が露わになっているものの、問題の腕はうっすら肌色が見える程度に収まっている。
「どうですか? ちゃんと肌は隠れているでしょうか」
透き通った瞳の女の子は恥ずかしそうに口元を隠して言った。もう一方の手は生地が落ちてしまわぬよう、端をぎゅっと握っている。花飾りで留めていても心許ないのだろう。
「バッチリ! あ、ローブ持つよ。これで涼しくなったかな。暑苦しくはない?」
「はい。とても涼しいですし、軽くなりました。買い取らせていただきたいのですが、これはおいくらでしょうか?」
「気にしなくていいよ。店長も返さなくていいってさ」 優兎は受け取ったローブを腕にかけた。「僕の名前は優兎。ユウト・テルアキ。君は?」
「名前……、私の、名前は――」
女の子は迷ったように俯いたが、裏のなさそうな優兎の顔を一目して意を決した。
「――オルハジオです。私の事はオルハとお呼び下さい」
「オルハって言うんだ。元気になってよかったね、オルハ」
優兎が笑いかけると、オルハは目を見開いてさっと顔を伏せてしまった。ありゃ、気さくに呼びすぎただろうか?
若干気まずくなってしまったので、優兎は空気を変えるべく別の話題を探す事にして、オルハに身を寄せているオオカミに目を止めた。
「ああ……そう言えば、ここへはそこにいるオオカミに連れられて来たんだよね。随分懐いているようだけど、もしかして君がご主人様だったのかな」
「あっ! はい。私の守護獣です」 オルハは目が覚めたようにビクッとした。「あなたが優兎様を連れて来てくれたのね。どこへ行ったのかと思っていたら……ありがとう」
「グルル……」オルハに下顎を撫でられると、オオカミは満足げに喉を鳴らした。
「見ず知らずの僕に頼ってきたって事は、外から来たのかな。この町へはどんな用で?」
「クレアンティーヌという友人と一緒にお買い物をしに」
「今この場にいないって事はつまり、はぐれちゃったわけだ。看板はあちこちに設置されてるけど、それでも自分がどこにいるのか分かんなくなっちゃうもんなあ」
優兎は目線を上げて言おうかどうか迷った後、口を開いた。
「よければなんだけど、僕も友達探しを手伝っていいかな?」
「え!」 オルハはまたもや体をビクッといわせる。「あい、いえ、あ、お気持ちは嬉しいのですが、これ以上優兎様にご迷惑はかけられません……」
「迷惑だなんて全然思ってないよ。また体調を崩さないとも限らないしさ。君の友達を見つけ出したらすぐ去るよ」
「店長さんがどうのとおっしゃっていましたけど、お仕事は大丈夫なのですか?」
「うん。ローブの代わりを頼むついでに話を付けて来たんだ。休憩時間を延ばしてもらえないかって。そしたら『花は丁重に持て成して差し上げろ』なんて言うんだ。しびれちゃったよ」
優兎はぎこちなく笑う。 ベリィやつぼみのような小動物系にはぐいぐいいけるのだが、人間の、それも年の近そうな女の子に自分の意見を持ち出すのは随分と勇気がいる様子だ。
気になる相手の返事は、「では、よ、よろしく、お願いします……」だった。
—— 7・日々に新たなり 終ーー




