5・課題の追加②
窓ふき掃除をしていたエルゥ族からちゃんとした皿を借りた優兎は、喋り出したつぼみについて何か知らないかと、アッシュ宛に相談の手紙を送る事にした。相談相手として適任なのはジールやミントなのだが、彼らは卒業試験から結果発表までの連休を利用して、実家に戻っているのだ。だがアッシュはそのまま学校に残っていて、好きにブラブラしていると聞いた。
アッシュからの手紙は思ったよりも早く届いた。食堂で朝食を済ませてから部屋に戻ると、ドアの隙間に封筒……ではなく、くしゃくしゃのお菓子の包み紙が挟み込まれていた。
『オレに頼るな。』
だよなあ……。しわで一層読みにくくなっている雑な文字を見て、優兎は肩を落とす。しかしまだ続きがある。
『正直なとこ、オレもメンドクサイ種族だって事くらいしか知らないんだよな。けど、カルラなら知ってるんじゃねえの? あいつも多分学校に、あ、もう書けねえ。じゃ、頑張れ。』
アッシュの言葉に従って、カルラの部屋を探す優兎。部屋の番号を聞いていないので、各階ごとに下りて、部屋割りのボードから確認して探し出した。
「多分、もう起きてるよな……。人気のないような時にバッタリ会ったくらいで、あれ以降朝食の時間には見かけてないもんな」
そう言いながらドアの前に立ってみたものの、優兎はどう切り出してよいやら少し迷ってしまった。なんせ倉庫組の中で唯一まともに会話した事のない人だ。ミントには心を許しているようだが、普段は人から距離を置いていて、教室では静かに読書している印象。一人の時間を好むタイプの人だ。かつて学校に通っていた時分を振り返ると、そういう人はクラスに一人はいたので、何ら珍しい事ではないのだが……。
記憶が正しければ、たった二回しかカルラが喋ったのを聞いた事がなかった。一つは古代語の朗読で、もう一つは食堂で拒絶された時……。
あの時の事を思い出して、優兎は余計に気が重たくなってしまった。謀らずとは言え、あそこで驚かせて溝を深めてしまったのは痛かったと思う。
優兎はフクザツな思いを抱えて、ドアをノックした。
「あの、同じクラスメートのユウト・テルアキなんですけど……。カルラさんも学校に残っているって聞いて、その――」
郵便受けを開けて話しかける優兎。
返事はない。ゴクンと喉を鳴らした。
「植物が絡み付いた石の種の事、教えて欲しくて! 何か詳しい資料が載った本とか、知りませんか?」
先ほどよりも声を張ってみた。聞こえていると良いのだが。
体感二分くらい待ち、それでダメなら諦めようと決めて、佇む優兎。すると、一分くらい経った後だろうか。ドアの奥でバタンと、向こう側の郵便受けが開く音がした。反応があったぞ!
「……ご……さい」
「! 何ていっ――」
バタン。よく聞こうと屈んだ直後、郵便受けを閉められた音がした。
反応があってもこれでは、明確に避けられているという証拠であり、これはこれでへこんでしまう。優兎は深々と溜息をついた。
「うーん、ダメだったか。思ったよりこの溝は深そうだなあ」
取り返しがつかないくらい深かったらまずいなあ、なんて考えながら、とぼとぼと歩き出す。
ガタッ。
「!」
背後でまた音がした。部屋のドアの横にある、洗濯物カゴを引き出す扉からだった。
恐る恐る取っ手に手をかけると、鍵が開いていて、扉はすんなりと開いた。小部屋の中に置いてあったのは、古風な装丁の本が一冊。しかも、ご丁寧にしおりが挟んであるではないか!
「あ、ありがとうございます! 後で必ず返しますからっ!」
優兎はカルラから優しくされた事にやたら嬉しくなってしまい、膝をつくと、扉に向かってお辞儀をした。端からすれば変な構図だが、優兎は気にせず本を抱きかかえると、走り去っていった。
カルラはその時、扉脇の壁を背にして立っていた。優兎が遠ざかっていくのが聞こえると、物憂い表情を浮かべて、自分も扉から離れた。




