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ムーヴ・べイン  作者: オリハナ
【3・優兎の日常 編 (前編)】
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5・課題の追加②

 

 窓ふき掃除をしていたエルゥ族からちゃんとした皿を借りた優兎(ゆうと)は、喋り出したつぼみについて何か知らないかと、アッシュ宛に相談の手紙を送る事にした。相談相手として適任なのはジールやミントなのだが、彼らは卒業試験から結果発表までの連休を利用して、実家に戻っているのだ。だがアッシュはそのまま学校に残っていて、好きにブラブラしていると聞いた。


 アッシュからの手紙は思ったよりも早く届いた。食堂で朝食を済ませてから部屋に戻ると、ドアの隙間に封筒……ではなく、くしゃくしゃのお菓子の包み紙が挟み込まれていた。



『オレに頼るな。』



 だよなあ……。しわで一層読みにくくなっている雑な文字を見て、優兎は肩を落とす。しかしまだ続きがある。



『正直なとこ、オレもメンドクサイ種族だって事くらいしか知らないんだよな。けど、カルラなら知ってるんじゃねえの? あいつも多分学校に、あ、もう書けねえ。じゃ、頑張れ。』



 アッシュの言葉に従って、カルラの部屋を探す優兎。部屋の番号を聞いていないので、各階ごとに下りて、部屋割りのボードから確認して探し出した。


「多分、もう起きてるよな……。人気のないような時にバッタリ会ったくらいで、あれ以降朝食の時間には見かけてないもんな」


 そう言いながらドアの前に立ってみたものの、優兎はどう切り出してよいやら少し迷ってしまった。なんせ倉庫組の中で唯一まともに会話した事のない人だ。ミントには心を許しているようだが、普段は人から距離を置いていて、教室では静かに読書している印象。一人の時間を好むタイプの人だ。かつて学校に通っていた時分を振り返ると、そういう人はクラスに一人はいたので、何ら珍しい事ではないのだが……。


 記憶が正しければ、たった二回しかカルラが喋ったのを聞いた事がなかった。一つは古代語(リューン・ネルゴ)の朗読で、もう一つは食堂で拒絶された時……。

 あの時の事を思い出して、優兎は余計に気が重たくなってしまった。謀らずとは言え、あそこで驚かせて溝を深めてしまったのは痛かったと思う。

 優兎はフクザツな思いを抱えて、ドアをノックした。


「あの、同じクラスメートのユウト・テルアキなんですけど……。カルラさんも学校に残っているって聞いて、その――」


 郵便受けを開けて話しかける優兎。

 返事はない。ゴクンと喉を鳴らした。


「植物が絡み付いた石の種の事、教えて欲しくて! 何か詳しい資料が載った本とか、知りませんか?」


 先ほどよりも声を張ってみた。聞こえていると良いのだが。


 体感二分くらい待ち、それでダメなら諦めようと決めて、佇む優兎。すると、一分くらい経った後だろうか。ドアの奥でバタンと、向こう側の郵便受けが開く音がした。反応があったぞ!


「……ご……さい」


「! 何ていっ――」


 バタン。よく聞こうと屈んだ直後、郵便受けを閉められた音がした。

 反応があってもこれでは、明確に避けられているという証拠であり、これはこれでへこんでしまう。優兎は深々と溜息をついた。


「うーん、ダメだったか。思ったよりこの溝は深そうだなあ」


 取り返しがつかないくらい深かったらまずいなあ、なんて考えながら、とぼとぼと歩き出す。


 ガタッ。


「!」


 背後でまた音がした。部屋のドアの横にある、洗濯物カゴを引き出す扉からだった。


 恐る恐る取っ手に手をかけると、鍵が開いていて、扉はすんなりと開いた。小部屋の中に置いてあったのは、古風な装丁の本が一冊。しかも、ご丁寧にしおりが挟んであるではないか!


「あ、ありがとうございます! 後で必ず返しますからっ!」


 優兎はカルラから優しくされた事にやたら嬉しくなってしまい、膝をつくと、扉に向かってお辞儀をした。端からすれば変な構図だが、優兎は気にせず本を抱きかかえると、走り去っていった。


 カルラはその時、扉脇の壁を背にして立っていた。優兎が遠ざかっていくのが聞こえると、物憂い表情を浮かべて、自分も扉から離れた。


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