第一話 『過去 〜キッカケ〜 I 』
「オレが好きなのは…夕紀、お前だよ」
僕が彼女――秋本夕紀――と出会ったのは、そう。小学校六年生の時だった。幼馴染と呼ぶにはもう遅いけど、かと言って幼馴染じゃないと言える年齢でもなかったように思える。
そもそものきっかけは、僕がその頃よくつるんでいた並木春介というやつが、夕紀の友達である夏原香帆を好きになったことだった。春介は恋にはあまり積極的なやつではなく、いつも奥手で、なかなか恋愛が進むことがなかった。そんなわけで、僕が一肌脱いでやろうと思ったわけだ。
そして、その為にはまず一番最初に親しくなる必要があると僕は考えた。では、何をすればいいか。そう考えた末に出た答えは、香帆のメールアドレスを手に入れることだった。
「さて、一通りの作戦はできた。これでいくけど、何か意見あるか?」
僕が尋ねると、春介は頷いた。
作戦は実に単純なもので、ただやたらと堅苦しいのが問題だが、これでまあ聞き出すことはできるだろう。
「じゃあまとめさせてもらうと、まずお前が夏原を放課後、下校し終わってなかなか人が通らない低学年の下駄箱のところに呼び出す。そこで上手くメアドを聞き出せ。ちゃんと話題作ってから話していけよ。あと、あんまり堅くなるなよ。緊張するとは思うけど」
「お、おう…」
朝、登校しながら僕らは今日のメールアドレスを聞き出す作戦のことについて話していた。それは十月のとある日のことで、今年は十月からすでに凍えるような寒さだった。その為、僕たちの声は、ほんの少しだけぶるぶる震えている。
その後、学校に着いた僕らは――クラスが違う為――それぞれの教室に別れた。とはいっても一組と三組なのでそれほど遠くない。次の会合は二時間目と三時間目の間の長めの休み時間だ。
一時間目の道徳の授業は自習となった。やることも特になかったから、僕はずっとぼーっとしていた。今日の帰りはどうなるかなあとか、ちゃんと成功するかなあとか、そんなこと考えてたがすぐにまた頭の中が空になりそうになる。まあ一年に一回くらいこういう日があったりするものだ。なんか集中できないのだ。
そんなつまらない道徳も終わり、二時間目に突入。教科は算数。僕の大嫌いな教科だ。今はグループで授業をする塾に通っているのだが、三年生の頃から五年生の頃まで、僕は公文式の塾に通っていた。その理由が算数が苦手だったからである。そしてその算数苦手の対策は結果、計算力は高めてくれたものの、文章題や図形問題の対策まではできなかったのである。そういうわけで、算数は大嫌いだった。だからこの授業は面倒くさいので気持ちだけさぼり。ノートはちゃんと取るんだよ、ノートは。
そんな怠惰な態度で臨む授業も終わりが近付き、休み時間がやってきた。チャイムが鳴り終わり、授業終了の挨拶を終えると、僕は席を立ち、春介のいる一組に向かった。そこで一組のヤツに恭介を呼ぶように頼んでみた。
「悪い、平田。春介呼んでもらえるか?」
「ああ、いいよ。ちょっと待ってて」
平田はそう言うと春介を呼んでくれた。
呼ばれた春介は教室から出て、そして僕らはいつもの階段の踊場に向かった。
「さて、ちゃんと夏原に放課後来るように言ったか?」
「ああ、朝の時にちゃんと言った」
「なら上出来。あとは放課後を待つだけだな」
「そうだな…ははは…」
春介は少し不安そうな表情を浮かべる。
「なんか楽しみだな? うはは」
僕は意地悪い表情で春介を見た。春介はやめろよーというような顔でこっちを見る。やれやれ。本当にシャイなやつだな、こいつは。
すると、春介は突然真剣な顔つきになってこちらを向いてきた。そして、春介が口を開く。
「あのさ、冬也。放課後、一緒に付いて来てくれないか?」
「は? 何言ってんだよ。そんなことしたら台無しになるだろ」
突然の提案に僕は戸惑った。恭介の目を見てみると、その目は先ほどと変わらず真剣な目をしていた。
「マジ頼むって。な?」
「うーん…」
少し考えたあと、僕は一緒に行くことにした。正直言うと、一緒に付いて行くのは結構面白そうだった。というか付いて行こうかなあとか最初は思っていた。だけどその場の雰囲気のこととかも考えて自重していたのだ。しかしまあ、頼まれてしまっては付いて行きたくなる。
そんなこんなしてる間に、休み時間終了のチャイムが鳴った。
「あ、鳴っちまった。またな、春介」
「え、うん。また」
別れを交わしたあと、僕たちは互いの教室に戻った。
その後、三時間目、四時間目と来て、その後昼食。昼食が終わると掃除の時間で、それが終わってやっと昼休み時間に入る。昼休みが始まると、僕はまた春介のところに行き、放課後に向けての最終の中の最終確認。それが終わるとチャイムが鳴り、五時間目の授業が始まる。
その五時間目も、残り五分となっていた。
普段なら眠くて仕様がない時間なのだが、今日ばかりは放課後のことで頭がいっぱいになっていた。自分のことではないのに、なぜか無性に緊張してくる。きっと春介も同じように、いや、きっと僕以上に緊張しているはずだ。あと少し。あともう少しで帰りの会が始まる。それが終われば…。
帰りの会が終わると、僕は即行でリュックを背に抱え、教室から出て行った。向かう先はもちろん一組の教室。だが、一組に向かう必要はすでになく、春介は廊下にいた。どうやら同じことを考えていたらしい。そして、僕らは互いの顔を見て頷き合い、低学年の下駄箱のところに向かった。
足が、軽やかに動いていた。
こんにちは。作者の雲井月哉です。
まだまだ未熟者なので、もしよければアドバイス・感想等お書きください。
全て参考にしていきたいと思います。




