第99話 少年
「そう言えばエドさん。朝からウチの玄関前に子供がいるのですが、知りませんか?」
「知りませんよ。少し見てきますね、」
俺はリアを連れ玄関を出る。するとセリーナさんの言う通り、木々の幹に体を預けながら寝息をたてている子供がいる。
「リア、知ってるか?」
「知りません。エドさんは?」
「俺もだ。起こすか、、」
俺は子供の所へ歩いていくと、あと少しの所で子供は体を震わせ飛び起きた。
「っ!」
「起きたか。お前はなんでこんな所にいるんだ?」
飛び起きた子供は俺のことを警戒していたが、俺が普通に喋りかけたこともあって緊張を解く。
「貴方は、、、?」
「俺はこの家の客人と言う所だな。それにしても、お前は誰なんだ?」
「僕は、、、、」
「孤児か?」
「はい、、、」
「ここが何処だか分かってるのか?」
「はい。長様の御自宅です、」
「何故こんな場所にいる?」
「実は、、僕は強くなりたいんです!」
「そうか、、、、なら、長にでも紹介するか」
俺は立ちながら呟くと、少年に目を戻し喋りかける。
「名前はなんだ?」
「僕は、アーロンです。」
「分かった。アーロン、俺がここの長にお前を紹介してやろう。」
「あ、ありがとうございます!」
少年、、いや、アーロンは礼を言うと頭を深く下げた。
「行くぞ。」
俺は少しアーロンとある人を重ねていた。ある人は純粋な目をして、俺に話し掛けてくる。俺はある人と重なるこの少年を手伝ってやりたかった。
「と言うことで、アーロンを頼めませんか?」
「エドさん、、流石に夫がまだ起きてない今、私一人で判断するのは無理なことです。しかし、私個人では是非歓迎しますよ」
「ありがとうございます。奥様、」
「アーロン、、長はまだ当分起きてこないだろう。少しの間、この部屋で待ってると良い」
「分かりました。エ、ドさん。ありがとうございます」
俺とアーロンの会話に
「別にいいさ。それよりも、アーロンは本当に竜人か?」
俺の問いにビクッと肩を震わせ、ゆっくりと俺の方へ向く。セリーナさんは今ここにおらず、丁度いい。
「は、はい、」
不自然に声が裏返り、明らかに動揺している。そしてそれが問いに対する返答を物語っていた。
「本当か?」
俺は真っ直ぐな目に一瞬曇りが見えた。俺は目を離さず無言でその目を見つめた。
「、、、、」
「、、、、」
「こ、混血です。」
「そうか、、、」
やはり予想通りだ。この穏和な竜渓郷で孤児であるのはおかしいと思っていたが、やはり事情があったようだな。
「つ、追及しないのですか?」
「?」
「混血の不純な僕のこと、蔑まないのですか?」
「蔑む、か、、、」
「?」
「蔑むなんて、そんなことはしないさ。俺の周りは事情のある奴ばかりだからな。それに、アーロン、お前のような子供にそんなことをしては、人として腐ってしまうからな。」
「エドさんは、いい人ですね、、、」
「そうか?」
「はい。僕なんかを、、僕なんかを気にかけて下さったのですから、、、」
「アーロン。お前のその考え方は止めろ。お前は取るに足らない存在ではない。自分をそのように悲観するな。」
「、、、」
「そうだ、、、アーロン、お前は強くなりたいと言ったな?」
「はい、、、」
「セリーナさん、、ここの庭を借りてよろしいでしょうか?」
「はい、結構ですよ。ここの庭は無駄に広いですからね」
「ありがとうございます。アーロン、俺が修行をつけてやろう。」
「ほ、本当ですか!?」
「本当だ。俺はこれでも自分の実力は高いと自負している。アーロン、どうする?」
「ぜ、是非お願いします!」
「よし、そう来なくちゃな」
俺はリアとアーロンを連れると、屋敷の裏にあると言う庭へ歩いていく。
「広いなぁ、、、」
「はい。ボク達じゃまわるだけでも時間が掛かりそうです、、、」
広さは小さな村が一つ入りそうなくらい広い。そして庭の真ん中には草を刈った長方形型の場所があり、その他にも木々は整えられていたり、風情のある池は魚達と共に綺麗な水で満たされていた。
「ここが、、、最適だな」
「そうですね。それに、他の所は傷つけられませんしね」
「そうだな。」
俺は長方形の中へ入ると、それに続きアーロンも中へ入る。リアは俺達の中央にたち審判の位置に立つ。
「アーロン、、とりあえず何処までやれるのか、掛かってくるといい」
俺は構えずに両手を広げる。アーロンは恐らくは戦闘なんて習ったことないのだろう。拳の威力は高いのだが型がなっていない。
「、」
拳に優しく手を添えると、それの威力をそのまま下へと逃がす。すると拳は地面を大きく抉りその勢いでアーロンの体は一回転してしまう。と思うと、、
「やあっ!」
回転した勢いを殺さずもう片方の拳を俺に向けてくる。これには驚き俺は思わず避けてしまった。
「うわっ!」
さっき止められたこともあってアーロンは受け身をもっておらず、派手にこけてしまった。
「痛て、、」
「大丈夫か?」
「は、はい。」
アーロンは手を隠して返事をする。
「どうした?」
「?」
「手だよ、、見せてみろ」
アーロンが手を見せると、戦闘に慣れない両手は血だらけだった。戦闘に慣れない柔い手は、やはり自分の力を受け止めきれなかったようだ。
「リア、頼めるか?」
「はい!」
リアがライフを取り出し翳すと、傷はみるみる回復し血の跡までもが消えた。
「俺がここにいる間は鍛えてやる。」
俺はポンポンと頭を叩くとアーロンに手を貸した。