第94話 竜渓郷
「す、凄ぇ。見たか?あの騎士長様を一発で、、、」
「おい、お前!そんなこと言って、もし見つかったら、、、」
「そ、そうだな。けど、奴等の実力は本物だぜ!」
「、、、、」
あの人は強い。ここにいる誰よりも。きっと騎士長様が本気でやってても負けた。長でさえ負けた。僕は無言で立ち上がると、さっきの人の後をこっそり追いかけた。
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「長、、、長!私です。セフィーです!」
「留守、か?」
「違うと思うよ。もし留守でもお母さんがいるし、、、」
「そうか、、なら、少し待ってみよう」
長の家の扉を叩いて少したった頃、中から足音が聞こえて扉が開いた。
「お母さん!」
「っ!」
「ただいま!」
「セ、セフィーなの?本当にセフィーなの!?」
「うん。私だよ、セフィーだよ!」
パチンッ!
「へっ、、、」
「何処行ってたの!心配したでしょ!」
「ご、ごめんなさい。」
「もう、貴女は、、、、けど、」
「、、、」
「帰ってきてくれて、ありがとう、、、」
「う、うん。」
セフィーはイビツな笑みを浮かべると俺に目を向ける。
「貴女は、セフィーのお母さんですか?」
「そうですが、、なにか?」
「長は、ご在宅ですか?」
「いいえ、、夫なら魔獣討伐に出掛けていますが、、、」
「?」
「魔物のことですよ!」
「あ、そうか。では、待たせてもらってもよろしいですか?」
「は、はい。私は良いのですが、失礼ながら貴方は何方でしょうか?」
「んー、、、龍人でしょうかね。」
「私達の同胞ということでしょうか?」
「少し違いますね。けれど、その解釈で結構です。」
「そ、そうですか、、、」
「では、待たせていただきますね。ありがとうございます」
「っ!?」
少し強引な形で待たせてもらうことにしたが、こうでもしないと終わらないだろう。
「エドさん、ちょっと強引過ぎませんか?」
「仕方ないだろ。恐らくはこれくらい強引にしなきゃ、警戒して待たせてもくれなかったろうしな。」
「エド、私が頼めば良かったんじゃない?」
「まあ、そうなんだが。後々面倒な気がしてな」
「んー、、そうなんだ。分かった!」
ボーン、ボーン、、
竜渓郷全体に鐘の音が鳴り響いた。しばらくすると、正面の門が開き外から、大勢の竜人達がなだれ込んできた。
「ど、どうしたんですか。」
「ま、魔獣が強すぎて、今、長一人で、、」
「ふぅ、、」
俺はゆっくりとなだれ込んでくる竜人の間を歩いていった。リアもセフィーもまだ俺がいないことに気付かない。相手の推定ランクはS中間、もしくは上位。この竜人の里は一瞬で壊滅させられる程のランクだ。
「これは、、、」
魔物は門から然程離れておらず、戦いの余波は門を軋ませるには十分だった。
「やられたか、、」
魔物はおよそ十メートルにも及ぶ大きな獣。その体は硬い鉱石で覆われており、赤い目はしっかりと俺を見据えていた。そしてその鋭い牙には、新しい血の跡が見てとれた。
「グオオオオオオオオオ」
その遠吠えと共に巻き起こる竜巻には、なんと氷が混じっており、多属性を操れることを証明していた。
「ふぅ、、やはり五大属性の力だな、、」
「グォォォォォォ」
獣は大きく手を振り上げると、俺に向けて振り下ろす。
「!」
龍神化、、、獣の豪腕による攻撃は、俺の片手に抑えられると、そのまま闇に侵食される。
「っ!」
流石Sランク。闇の侵食は途中で止まり、なんとも無かったのように元通りになる。
「グオオオオオオオ」
氷の嵐は俺を中心に渦巻くが闇を纏う俺には効かない。
「、」
闇裂・改を腰に構える。
「グオオオオオオオオオ」
「、」
その闇裂・改に闇を纏わせ収束させる。
「グオオオオオオオオオオオオオ」
「、」
意識を集中させ体に力を込めた。
「グオオオオオオ」
「っ!!!」
抜刀術。刀という武器には色々あるが、やはり闇裂・改で威力がでるのは抜刀術だ。黒く染まった斬撃が鋭く飛ぶと、魔物の体を真っ二つに切り裂く。
ドコーーン、、、
斜めに切り裂かれた魔物の体が滑り落ちて、大きな音と共に砂煙を巻き上げた。
「もらうぞ、」
斬撃で切り裂いた部分から侵食を始めた闇は既に魔物の体を染めており、すぐに吸収すると竜渓郷へ戻った。
「エドさん!」
「エド!」
そうだ、、二人には言わずに出てきてたな。
「二人共、どうした?」
「分かってるでしょう?」
「エド!」
「ごめん、、、」
「エドさん、今度からはちゃんと言ったくださいね!」
「エド、お願いね!」
「あぁ、、、分かった。」
俺は闇裂・改を結晶に戻すとネックレスに通す。そしてまだ砂煙が漂う外を見ると、そこにまだ確認し難いが人影が見えた。
「あれは、、なんだ?」
「?」
「あれは、、、」
「全員、一応構えろよ。」
「はい、」
「うん、」
それぞれが武器を構えて警戒していると、セフィーが急に武器を下ろして、、
「長!」
その声と共に、砂煙の中から身体中血を流した長が出てきた。