第9話 無詠唱
「まずは、魔法の詠唱は何故必要だと思う?」
「何故かって、、、分かりません。」
「そう、まずはそこからなんだ。そこを理解しないと無詠唱は成り立たない。」
「そうなんですか?けれど、魔法は使えますよ?」
「そう、詠唱は魔力を使って魔法の構造を作る言葉なんだ。だから魔力を使わないで詠唱しても魔法は発動しない」
「炎よ集いて貫け、、、、、ホントですね。」
魔法は発動しなかった。ただ言葉を発しているだけになってしまっている。
「魔法ってのは、魔力で事柄を作る技なんだ。だから、まず始めに属性を唱える。「炎よ」って言うだろ?ここまでは分かるか?」
「はい。では、「集いて」はどういう意味ですか?」
「それは、魔力を対象に結びつける言葉だ。さっきの魔法なら炎で作り出す物だな。俺はこんな感じで槍を使うが、これに魔力を結びつける言葉が「集いて」だ。分かるか?」
俺は片手に闇の槍を作り出しながら、分かりやすく半透明な魔力をつけながら説明する。
「はい。と言うことは、「貫け」は命令ですね!」
「その通り、「貫け」の位置にある言葉は魔法にどういうことをしてほしいかだ。ま、いわゆる命令だな。」
「で、これでどうするんですか?」
「あとは、簡単だ。今言ったことを、魔力を操作しながら行うんだ。一度、意識しながら詠唱付きで魔法を使ってみるといい。その魔力の流れと同じように操作すると、無詠唱が完成する。一度出来れば簡単だと思うぞ!?」
「頑張ります。早く出来るようになって複合魔法もマスターしますよ!」
「それは頼もしいな。頑張れ」
「そう言えば、詠唱が長い物は何故長いんですか?」
「あれは、全部「命令」の部分に入る。長い物は色々と特殊な動きをするが、結局は属性、結び、命令なんだ。その基本は変わらない。それさえ分かれば、魔法は使える」
「そうなんですね。頑張ります!」
リアはそう言うと、目を瞑って魔力の流れを意識しながら詠唱して魔法を使う。俺は邪魔しないようにそこを離れる。
「光の化身よ、我が仲間を見守れ」
指先から光の球が飛び出すと、形が変わり飛龍の姿をとった。
「用心はするさ。飛龍、伝言を頼む。リアが俺を探したら心配ないって、、分かったか?」
「ゴォ、ゴォォォ、」
「よし、いい子だ。」
俺は飛龍の頭を抱き締めると、その場を飛び立った。
「ガゥ、ガウゥゥ」
今日は狼。こないだ吸収した狼の魔物に変化していた。当然、身体能力はオリジナルより格段に高い。俺だって龍だから戦闘本能はある。だから、たまに暴れたくなる。
「ガゥ、ガゥゥゥ」
森林の中を走り回っていた俺は、同族の獲物を見つける。
「ガゥゥゥ」
相手の死角から飛び出した俺は、ガブリと首に噛みついた。
「ガゥッ!」
相手も黙ってはいなかった。体を震わせると俺は振り払われてしまう。しかし、流石狼の肉体だ。着地した瞬間、足の筋肉が収縮するとそのまま体を獲物へと飛ばした。
「ガゥゥ」
今度は良かった。狼の爪は鋭く、相手の肩を大きく切り裂いた。
「ガウゥゥ、」
これを断末魔と言うのだろう。相手はフラフラな状態で大きく叫ぶと、俺に怒りの視線を向ける。
「ガゥゥ、ガウゥゥぅぅ」
これは魔法じゃない。この種族の技だ。だから、俺も雷は雷でも、落雷をおとすだけなら人や龍の状態でも可能だ。
ドカーーーーン!!!!
目の前が眩しく光ると、相手は黒焦げで倒れていた。
「ふう、やっぱり野生には逆らえないな。」
俺は人の姿になりながら、そう呟く。そして、黒焦げだった相手は闇で消し去ると、また、狼になって狩りを続けた。