第19話 獣
「リアさーん?いる?」
フォンセがテントの中を覗くと、端の方にリアさんがうずくまりながら座っていた。
「リアさん。リアさーん、」
テントに入って、顔を覗くがすぐに目を逸らされてしまう。
「!」
ほとほと困ってしまって、立ち上がるとリアさんの耳が真っ赤なことに気付いた。
「リアさーん、、恥ずかしいの?」
少し意地悪っぽく言うと、一瞬顔をあげてすぐに顔を隠してしまった。
「あ、主様だ!」
わざとらしく言ったんだけど、それでもリアさんは体をビクッとさせて顔を上げる。そこをすかさず頬に手を当てると目を合わせる。
「リアさん、、どうしたの?」
「だ、だってエドさんが~、」
「主様がどうしたの?」
「フォンセちゃん意地悪です!」
「リアさん良かったじゃないですか!」
「!?」
「主様がリアさ、、」
「それ以上言わないで。恥ずかしいから」
「リアさん、良かったですね!」
「嬉しいですけど、、」
「どうしたんです?」
「恥ずかしいですよ。だって、だって、、」
「リアさん、、、主様に乙女心が分かると思いますか?」
「思いません」
「ですよね?諦めましょう。」
「、、、、、」
「そう言えば、主様のポーション、何故断ったのです?」
「へ、ダンジョン産のポーションなんて高級な物、ボクには勿体無いと思ったからですよ。それでも、ボクに使ってくれたのは嬉しいんですけど、、」
「フォンセにはまだ分かりませんね。」
「どうですかね、」
リアさんは、以外と早く回復してきちんと喋れていた。
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「ガウウウウウウウウウウ」
複雑に絡まる気持ちを取っ払うように、俺は手当たり次第に魔物との戦闘を繰り返していた。
「キィィィ!!!」
自分の縄張りに入られた魔物は、上空から爪を向けてくる。
「ガウウッ!」
足ごと噛み千切りながら、爪を頭に振り下ろす。激痛に声にならない悲鳴をあげるが、爪を頭に振り下ろされると、潰れるのと同時に止まる。
「ガウウウウ、!」
いつの間にか俺にも生き物のような感情が混じっていたようだ。人一人が死にかけただけで怒りが漏れだすなんてな、、、
「う、うわぁぁぁ、」
そんな叫び声が聞こえて目を向けると、鎧を着けた戦士風の男が尻餅をついて倒れていた。
「ガウウウウウウウウウウ!」
俺にはその男さえ獲物に見えて、噛み付こうと首に飛び付く。
「や、止めて。ガンテを、殺さないで!」
飛び付く俺の前に立ちはだかると、涙を流しながら男を守ろうと飛び出してきた。
「!!!」
俺の前に立ちながら、俺の目を見て訴えかけている。その目をみて、少し理性が戻った気がする。
「、、、」
俺は殺すのも馬鹿らしくなって、背を向ける。
その時、
ヒュッ!
茂みから一本の矢が飛んで、俺の肩を突き刺す。
「ガウッ!?」
茂みの中に目を凝らすと、軽装に弓を持った数人の男達が俺の顔を狙っている。
「!」
その中の一人が合図を出すと、他の男達は一斉に矢を放つ。
「ガウッ!」
矢は多いとは言え五本程だ、避けれないこともない。しかしそれもドンドンと増えているが、、
「!」
二本目が刺さった。今度は背中だった。しかしそれを見た男達は更に矢を出鱈目に放ち始める。数うち当たるというやつか、、、
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
そんな中、一本の矢が二人組に向かう。
「ガウウッ!」
無性に二人組が殺られるのが嫌で、矢を叩き落とす。しかしそれにより、男達に向けていた右腕には大量の矢が刺さっていた。
「ガウッ!」
右腕を噛み千切ると、茂みの中へ飛び込む。
「全員、射て!」
茂みに入る瞬間の俺に、もう一度矢の雨が降る。今度は落ちていた倒木を蹴り矢を防ぐ。しかし、それを掻い潜った矢は俺の体に突き刺さる。
「弓を捨てろ。剣を!」
さっきから合図などをだしてる指揮官らしき奴が言うと、全員が弓を捨てて剣を構える。
「ガウウウウウウウウウウ!!!!」
俺は痛みを取っ払うように叫ぶと、男達を殺る為に走り出した。