第112話 三匹目・天馬
「そろそろ行けるか?」
「はい!魔力も戻りました!」
「私も大丈夫だよ。元々少ない魔力だし、既に回復したよ。」
「よし、、じゃあ行くか!」
次の魔物へと向けて俺達は再び走り出した。次の敵も空を飛ぶが、前よりは殺りやすいかもしれないな。
「ヒヒィーーンッ!!」
三匹目の魔物は怪しく光る赤色の目を持つ白馬だ。ただし、大きな翼が生えているが、、、
「天馬、だな。」
「天馬?」
「神話で聞いたことないか?空を羽ばたく白馬って、」
「あー、、、ペガサスですね!?」
「そうだ。こいつは神界に住まう動物の天馬だ。けれど、、下界の生き物からすると、凶悪な程の戦闘能力を秘めている」
「ペガサス、がですか?」
「あぁ。まあ、殺り合ってみるといい」
「ヒヒィーーンッ!!!」
天馬は物凄いスピードで駆け回りながら、魔法を俺達へ放つ。
「闇技・魔無ノ鎧」
全属性の魔法を操れる天馬だが、その特権も俺の前では意味がない。五大属性は全て無効なのだから。
「リア。魔法戦は今回使えない。俺達の補助を頼む!」
「はい!」
「セフィー、奴には長時間近付くな。蹴り飛ばされるぞ」
「了解。エドも気を付けてね!」
「ああ!」
はっきり言ってしまうと、俺やセフィーの全速力では簡単に天馬へと追い付ける。と言うことで、天馬の首へと刃を振り下ろした。しかし、、
「ぐはっ!」
天馬がそこで静止したかと思うと、光魔法による数本の槍が俺を貫いていた。
「エドっ!」
「大丈夫だ、」
体の属性が若干闇に傾いている俺にとって、この槍は猛毒のついた刃と同じだ。けれど、俺の権能は闇だけじゃない。
「光技・属性転換」
体の属性が一気に傾き、槍は逆に俺の薬となる。体の傷は高純度の槍のおかげで完全に回復する。
「闇技・属性転換、闇の絶界」
体の属性を闇へと変えると、この部屋を小さな闇の世界へと変える。
「ヒヒィーーンッ、」
光属性の天馬にはこの闇の空間はキツイようで、見るからに苦しそうな仕草をする。
「セフィー。闇の魔法を使え!ここなら威力は格段に跳ね上がるぞ!」
「分かった!」
「先に俺がやる。止めは任せたぞ!」
ここはいわば闇の世界。自由自在に操れる手足が広がっているのと同義だ。俺は闇による鎖で四股を拘束すると、
「闇技・閉ザス闇」
意識を闇に葬り去ると、セフィーへ向けて天馬を蹴り飛ばす。
「エド、ナイスだよ!」
セフィーは双斧を構えた姿勢のまま闇の魔法を斧の刃へと込めると、飛ばされてくる天馬へと思いっきり斬りつける。
「よしっ!」
「エド、やったよ!」
喜んで走ってくるセフィーを受け止めようとしていると、セフィーの後ろから不穏な気配を感じ、闇裂・改を居合いの姿勢で構える。
「セフィー!しゃがめー!」
俺の叫び声にビクッとしたが、俺の本気な表情に気付いたのか、踞るようにしゃがむ。
「っ!」
時間がなく、ほとんど力を込められていないが、一応神力を乗せた斬撃を居合いの形式で放つ。するとセフィーの後ろから走ってきていた悪魔は一旦退き体勢を整えた。
「え、、な、なんで!?」
「どうせリリスが何かしたんだろうさ。」
真っ白だった白馬は黒毛に紫色の毛が混じる黒馬になり、美しかった翼は所々が傷付き黒く染まった翼となっている。そして怪しく光っていた赤目はギラギラと光り怪しさを増幅させていた。
「ヒヒィーーーーーン!!!!」
「俺がやる。セフィーは下がってろ。リアは俺のサポートを頼む!」
退くタイミングで放たれた魔法はセフィーの右手を貫いており、とても戦える状況ではなかった。
「はい!」
「うん、、ごめんね」
「気にするな。リア、行くぞ!」
俺は龍神化を、リアは風魔法による浮遊を使い、戦闘体勢をとった。
「ヒヒィーーン!!!」
堕天馬は空を駆けるように俺達へと向かいながら、その凶悪な両足を振り上げる。
「リア、下がれ。俺が止める」
始めに振り下ろされた足を切ろうとしたが、やはり強くなった?堕天馬の足は簡単には切り落とせなかった。
「エドさん、避けて下さい!」
リアのその声と共に体を粒子化させると、リアの横へと移動する。
「修羅に堕ちた貴方は愚か者だ。我、光の代行者なり。貴方に光の救済を、貴方に光の裁きを!」
リアが避けろと言ったのはこれなのだろう。闇に近い俺にはこのような闇特化の光魔法は天敵でしかない。そして堕ちていた堕天馬も光の裁きにはかてず、体は傷だらけで足も引き摺っていた。
「リア、お疲れ様。疲れたろ、」
「はい。まだ魔法は使えるんですが、もう強力な魔法は使えません。」
「もういいさ。あとは俺がやってやる。」
こんな瀕死の敵。わざわざ技を使うまでもないが、敬意を払う必要があるな。こんなボロボロになっても、目はまだ戦意を失っていないのだから。
「闇技・古代ノ常闇」
堕天馬を闇が覆い体を隠す。そして闇が晴れた時にはその体は消えていた。
「リア、おわ、、、て、寝てるか」
右手で抱きかかえていたリアは俺に抱きつくように寝ていた。
「仕方ない。少し休憩だな、、」
俺はセフィーのいる方へとゆっくり飛びながら戻っていった。できるだけ起こさないようにな。