集う有名人たちと最強〈凶〉パーティーの結成
お待たせしました。謎の人物たちが次々と現れます。
彼等は一体何者なのか!?〈後でわかるようになっています〉
ムーンバードは走る。
「急がないと」
街中に現れたモンスターをできる限り早く倒すために。
だが、彼は悔しい思いもしていた。一人で迅速に対応するには限界があると。
それでも彼はその限界に挑戦するつもりである。
それが彼であったのだから。
その彼の耳に悲鳴が聞こえてくる。
振り向くと一組の家族がオーク達に襲われている。
彼は走り出す。オーク達は手にした槍を家族に突き立てる直前。
間に合わない。そう思った瞬間だった。
そのオークの手にした槍が粉々になったのだ。
そして次の瞬間、オークの眉間に穴が開き、崩れ落ちる。
しかも、一体だけでなく、複数一斉にだ。
それをやったのはムーンバードではない。
「この街に来たら会えるかなと期待はしていたけど・・・もう会えるなんて」
それをやった存在が屋根の上から声をかけていた。
タキシードを着て、シルクハットをかぶった彼。顔はムーンバードと同じく仮面で隠している。こちらは顔を全部隠すタイプだが。
黒いマントをはためかせ、右手には大型の拳銃。左には杖を持っている彼。
「…なんでお前がここにいる。怪盗クロス」
彼の名は怪盗クロス。この世界であらゆる謎と情報を盗み、集める怪盗である。
「何・・・この事件の謎に興味をもってね。うっとうしいモンスター達を倒しながら手がかりを探していたわけさ。まあ、その謎の鍵がこれなんだけど」
彼の手には黒い石。
「へえ。それで今回は邪魔するの?それとも・・・」
「共闘でどうかな?原因を知ったら、互いに教えるというのを対価にしたいけどどうかな?」
謎を盗む怪盗としては破格の対応だった。
「わかった。こっちらとしては少しでも手がほしい。それで手を打とう」
「こちらとしても、この街で怪物が暴れてもらうのは勘弁してもらいたいところだったからね」
クロスは謎や秘密を盗む。だが、決して悪党ではない。
彼なりのポリシーはいくつかあるのだ。その一つが・・・人として当たり前の小さな正義感である。
怪盗の癖にいろいろとお人よしなのだ。
「・・・だが、こちらの正体は教えないぞ?」
「残念。かなりほしいものだったけど、今回は諦めるよ。こちらのポリシーにも反するし」
そういって二人が走り出す。目の前には巨大なトカゲのような龍がいた。
その巨体は四足歩行で四つん這いなのに、高さが二階建ての建物よりも高い。
「・・・うん、まさかレッサードラゴンまでいるとは」
「あの様子だと地龍種だね。知性はあまりないようだけど、かなりでかい」
二人はため息をついていた。
「時間が惜しい。さっさと倒す」
ムーンバードが刀で軽く地面をたたく。すると刀が甲高い音を響かせながら光に包まれたのだ。
「・・・へえ。秘剣――月響【げっきょう】の太刀を使うんだ」
「この秘剣の情報は盗まれていたか。まあ、それでも問題はないけど」
光る刀を鞘に納めるムーンバード。
音はその鞘の中に閉じ込められる。
「まあ、見ているだけじゃいけないし、ちょっとしたアイテムでもつかおうかな」
クロスも杖を構える。
そして、そのまま走りだそうとして・・・。
天から稲妻のように何かが落ちてきたのだ。
あたりにまき散らされる轟音と衝撃。その破壊力に地面が揺れる。
体に大穴を開け、絶命する地龍。その穴の中にそれはいた。
「・・・げえ・・・」
「まじかよ」
それは人の形をした白銀のドラゴン。全身の鎧は龍が人の形をとったような姿となっている。白いマフラーのような布は翼のようにはためいている。
手にしているのは幅の広い直剣のような穂先を持つ槍。それが地龍の頑強な肉体に大穴を開け、下の地面にクレーターを作っていた。
「珍しい奴がいるな。」
地面に突き刺さった槍を引き抜きつつ、彼はムーンバードとクロスを見る。
「ムーンバードには会えるかなと思っていたが、もう片方は想定外。だが、逃がした獲物であるのには変わらず」
そんな彼に、上空から岩の体を持つ悪魔―――ガーゴイル達が取り囲むように現れ、襲い掛かる。
その体にふさわしい頑強な体と鋭い爪を持つ手足は驚異だ。
「まあ・・・」
だが彼はガーゴイル達を手にした槍でまとめて薙ぎ払う。
たった一閃。それだけでガーゴイル達は体を横に分割されたのだ。
「今はこっちが優先だ。お前らを狩るのはモンスター達が全滅してからだ」
『・・・白銀の竜騎士』
二人は心底嫌そうに彼の名を告げる。
かつて壮絶な追いかけっこを演じた相手を。
「お前たちを逃がしたことは今でも悔しくてな。まあ、とっととあいつらを全滅させるから覚悟してろ」
「・・・どうする?」
「全滅させ次第、即撤退。あいつは嫌すぎる」
ムーンバードとクロスは相談開始。二人が逃げの一手を打つほどに、白銀の竜騎士はヤバい相手だった。
「同感。不死身の追跡者というのも納得だし・・・ほら」
白銀の竜騎士はそばで血まみれで倒れている五人の人たちに駆け寄る。
呼吸はもちろん、鼓動も聞こえず、ほぼ・・・死んでいたのだが・・・。
「・・・軽治癒」
彼の全身から立ち上る白い光、それが死んだ五人を包み込み、その傷を治したのだ。
そして…五人は目を覚ます。
死んだはずの五人は何が起きたのかわからず戸惑う。
「傷は治した。ここから離れろ」
その言葉に五人はすぐに逃げていく。
「傷は治したって・・・」
「ほぼ・・・蘇生術じゃないか。使っているのは入門用の初等治癒術なのに」
彼は反則的なまでの治癒の使い手なのだ。この術も魔術と同じランクがあるのだが、彼はその使い手として優秀すぎたのだ。
何しろ入門用である軽治癒だけで死んだ人間を十人ほどまとめて蘇生できるのだから。
白銀の竜騎士はこの手の術をすべてマスターしているのだが、最高ランクSを使ったのを誰も見たことがない。
理由は簡単―――使う必要が全くないのだ。少なくともランクDの「治癒」を使うだけで肉体再生が可能となっている。
「さて・・・さっさと倒して・・・」
「・・・へえ、全滅させれば面白いのが見えるか」
『!?』
その場に四人目の声が聞こえてきたのだ。
それは漆黒のローブを纏っていた。頭には鳥の頭蓋骨に鹿の角が生えたような兜をかぶっていた。
目玉のようなネックレスが輝いている。
手には家の窓のような大きな黒い魔導書がある。
「お前は・・・」
「予想外の人物の登場だねえ」
三人ともその相手を対峙したことがあったのだ。
「大魔王が一席―――それも「高貴なる者達」の首領――「聖魔の魔術王」まで来ているか。本当に大事件だな」
大魔王。それは魔印が至高とされる第五段階に至った存在。
魔印はこの世界の万物の源―――マナが蓄えられ、なんだからのきっかけで発現する紅のマナの刻印。
これを持つということはそれだけ強大な力を蓄えているという証でもあるのだ。
それはさらにマナや経験を積むことで成長し、第四段階に達すると人知を超えた力を会得する。そして、第四段階の魔印持ちの存在に畏怖を込めて―――魔王と呼ぶ。
そのさらに上の領域にいる存在が第五段階の魔印持ち――大魔王だ。ここまでくると単独で太国を滅ぼせ、まさに歩く災害となる。
さすがにその数は多くなく、大魔王はこの世界にて二十人だけである。
その一人がここにいる。
「やあ、これはまた珍しい面々ばかりで。勇者王に聖龍、そして怪盗ときたもんだ」
魔王と対となるのが勇者。彼らは体に魔印と対となる青い聖痕をもっている。
これはこの世界にいる精霊神か、その上位に位置する神の祝福で得られる。
勇者の名は魔印と同じく第四段階から呼ばれる。そして、第五段階となると勇者たちの王、つまり勇者王と呼ばれるようになるのだ。
そして、その勇者王に至っているのが怪傑ムーンバードである。
ちなみに、白銀の竜騎士もまた勇者王である。
「安心しろ。私がここにいるのはたまたまだ。怪傑君とは会えたらと思っていたがね。まあ、ゆっくりと語らうのにあの有象無象がうっとうしいからすぐに終わらせる」
そういい、魔導書が宙に浮く。
「使用魔術――七十四と七十五ページ。それに三十三ページと百五ページの魔術を追加」
――――了承しました。
その言葉とともに魔導書が開かれ、そこから無数の術式が展開。
「・・・これは星の属性」
そこからあふれ出すのは強烈な光。それも・・・原初のマナの力といえる星の光だった。
――目標認識。完了。いつでもどうぞ。
「星降りの雨」
その言葉とともに聖魔の大魔王の上で炸裂するまばゆい光の爆発。
その爆発から生まれた流星のごとき無数の光が街に降り注ぐ。
それはまるで流星の雨のようだった。
それが街中のモンスターだけを貫いていく。
「これはランクSの大魔術?それも・・・目標の補足と誘導も?それもあれだけの数を一度に・・・」
「なるほど…魔術王というもう一つの名も伊達ではないということか」
魔術王。
それはこの世界のあらゆる魔術を簡単かつ、アレンジを加えて使用する魔術の王。
魔法使いたちの王といえる存在なのだ。
「さて、どうしてこれだけの猛者がこの街に集結しているのか気になっていたんだよ」
魔術王と呼ばれし大魔王は三人と対峙する。
「ああもう・・・ややこしいことに・・・」
「大乱闘か。上等だ」
「・・・モンスターを殲滅してくれたことは感謝だが・・・街に手を出すなら、だれであろうと全力で止める」
頭を抱えるクロスをしり目に、他二人もやる気を見せる。
「ほう。面白い」
大魔王も乗り気だ。
「・・・逃げたいけど・・・逃げたら悲惨なことになるか。はあ・・・」
クロスは諦めた様子で溜息をつき、次の瞬間・・・。
「・・・しかたない。こちらも腹をくくろう。主義じゃないけど」
全身からすさまじいマナを立ち上らせてきたのだ。
一触即発の四人。
そして、四人が激突しようとしたところで・・・。
彼らの中央に爆発のようなすさまじい衝撃が発生し、街中を大地震が襲っていた。
「なっ・・・ななな・・・。」
「なんじゃこりゃ・・・。」
「ぬう?!」
「えっ?」
その衝撃に吹っ飛ばされる四人。
それを行ったのは角と妙なマジックアイテムな尻尾をもつ巨体の獣人。
それが地面に向けて一本の鉄のメイスを叩きつけていたのだ。
『・・・えっ?』
「ふう・・・。」
それは・・・レノンであった。彼は軽く息を吐き、大きく吸って・・・。
「止めんか馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
『ぬおあああああ!?』
その咆哮はまさに爆発と同レベルの衝撃で、四人はさらに吹っ飛ぶ。
「なっ・・・なあ・・・。ただの咆哮・・・なのか?そんな馬鹿なことが・・・」
魔術王が驚きに目を見開く。
「やっと止まったか」
レノンが四人に話しかける。
「お前たちが戦う理由はない。まったく・・・」
「・・・あれ?もしかして・・・わかるの?」
ムーンバードの言葉にレノンはうなづく。
「いくら変装しても、においは変わらん!!お前たちも知っているはずだ。互いに知らなかったとはいえ、冷や汗を流したぞ」
『・・・・・・・。』
レノンの言葉に四人はしばし考え、互いに他のみんなを見て・・・。
『・・・まっ・・・まさか・・・』
「そういうことだ」
『・・・・・・』
同時に何かに気づいてしまった様子だ。
「まったく、おかげでせっかくの戦利品が一発でダメになってしまった」
メイスを覆っているマナを解除させるレノン。それとともにメイスは粉々に砕け散る。
しかもそのメイスは全部鉄の塊。それが経った一撃振るっただけで粉々なのだ。
阿呆みたいな破壊力である。
『・・・・・・・』
「とにかく一度戻って話し合いだ。ゲートを頼む」
「・・・ああ」
レノンの頼みに魔術王は背後に魔方陣を展開させ、ゲート魔法を展開。
「ムーンバード!!」
そこに皆が入ろうとした瞬間に彼らを呼ぶ声があった。
それはマリアである。
彼女だけではない。ドルミアの姿もある。
ドルミアの方はクロスを見て固まっている。
「何が・・・どうなっているの?」
マリアの言葉に対し、ふいに彼女の前に現れるムーンバード。
その人差し指でマリアの口元を抑え、まだ早いと暗に告げているように。
「そこにいるのはわかっている」
と、建物の間の暗闇に手から羽型の刃を投げつける。
「・・・くくく・・・油断なりませんな」
その言葉とともに現れる影があった。
頭をヘルメットのような奇抜なものをかぶることで隠し、黒いマントを羽織った謎の影。
「・・・嫌な音がする。お前が黒幕か?」
「いかにも。でも、こんなに早く蹴散らされるなんて想定外ですけどね。おかげでこの場は去らないといけなくなった」
謎の男はやれやれと言いたげに首を横に振る。
「それで…あなたの目的は?」
マリアの言葉に対して謎の男は告げる。
「いえいえ・・・たいしたことはありませんよ。ふふふふふ・・・」
男の姿が闇に溶けるように消えていく。
「まだ・・・これからですよ?ふははははは・・・はーはははははは!!」
消えた謎の男を一瞥するマリア。
「・・・はあ。いつの間にかあっちも姿を消しているし」
マリアはため息をつく。
「・・・結構きついよね」
「うん・・・でも、間違いなく何か起ころうとしている。何かまではわからないけど・・・」
マリアのため息にドルミアも夜空を見上げていた。
そして、場はヴィノン宅に戻る。
その場にはレノンに、ムーンバード、クロス、白銀の竜騎士、魔術王の四人がいる。
「さあ、まずは変身を解いてもらおうか」
レノンの言葉に皆がその変身を解く。
怪傑ムーンバードはヴィノン。
怪盗クロスはアノン
白銀の竜騎士はゼノン。
魔術王はガノンへと。
『・・・・・・・・・』
それをお互いに確認し、固まる四人。
「まったく、お前らそんなに有名人だったとはな」
レノンはため息をつきながら座る。
「さて・・・ここからは腹を割って話そうか。何しろ最強〈凶〉のパーティーが結成されていたのだからな」
―――そのようね。なんでこんなことに・・・。
アレスフォーレも姿を見せる。
皆も無言で席に座り、そして、腹を割った話し合いが開始された。
彼らの有名人具合はのちの話で出していきたいとおもいます、
十五年間、必死でやってきた結果です。
ただ、レノンだけはまだ発覚していません。彼も彼でやらかしています。