あなたへ

あなた

　私がそのニュースを見たのは会社の事務所でした。

　埼玉県S市の住宅で火災があり、焼け跡からその家に住むお年寄りとその息子、娘、またその娘の夫とその子供、そして夫の弟が遺体で発見されたというニュースです。

　珍しい家族構成だね、という話で事務所の注目を集めていたのですが、そのお年寄りの43歳という息子の名を聞いたとき、私は一瞬何も考えられなくなりました。

　その人の名を私はよく知っていました。それはいつかの日々、私の隣を歩いていた人、多くの喜び、悲しみを分かち合った人、涙を流し離れた人、そして私の娘の父親である人、あなたの名前でした。