第7話 真夜中、部活動勧誘週間
投稿が遅れて申し訳ありません。次回も遅れる可能性がありますことをお許しください。
その日はなかなか寝付けなかった。何てったって玲にあんな迫られて頬にキスされて。そりゃあ男の子だもん。興奮で寝れないよ。寝付けなかったためベッドを抜け出し部屋のドアを開けたとき、あの切れ込みの扉から玲が入っていくのが見えた。
わざとなのか少し扉が開いている。好奇心でその扉を開けると、そこにはスライダーのような滑り台のようなものがあり、身を乗り出した僕はバランスを崩し、そのまま滑り台を滑っていった。
滑った先には風紀委員が使う訓練棟よりも設備のいい訓練施設だった。しかし咄嗟に僕は息をひそめた。そこで玲がたった一人訓練をしていたからだ。サバイバルナイフを持ち、蹴りを連続技を繰り出していた。玲が僕の存在に気づいたのは一通り戦闘の動きを終え、息を整えた後だった。
「マスター、ついに来てしまいましたか。」
玲は自分の主である僕の存在に驚いた様子もなく、冷静だった。先ほどまで気づかれていないと思っていた僕が逆に驚いた。メイド恐るべし。
「ついに来てしまいましたねって…。お前、扉わざと少し開けてただろ。」
「正直、来てくれて嬉しいんですよ?」
玲は屈託のない笑顔を僕に向ける。彼女がいうには、僕がこの学校に来たときから訓練施設の存在を把握し、ここで訓練していた。一人で行っていたので相手がおらずつまらなかったそうだ。でもマスターである僕は気づく気配がない。だからあの誘惑行動に出たのだという。なんという大胆不敵な行動…。というか気づかなくて悪かったな。
「お前の行動は置いといて、ここはどこなんだ?」
そもそもの疑問を投げかける。感じからして学校の訓練棟みたいな感じかな?
「ここは生徒会専用寮が誇る訓練場です。といっても今は私とマスターだけしか知りませんが。」
「へぇ。内装から見てそうかなとは思ってたけど改めてそう言われると凄いね。だけど玲、こんな時間に訓練していたら身体が心配だ。ちゃんと睡眠だけは取れよ。」
玲は笑いながら
「大丈夫ですよ。これでも睡眠は雅様よりも取っていますから。」
と胸を張った。
「お前、俺達が学校行ってるとき何してんだよ・・・。まあいいか、戻ろう。」
と言い、僕らは部屋に戻っていった。
時は流れてもうすぐ4月も終わりに差し掛かったある日。僕は生徒会の仕事を早く終わらせて、訓練棟に来ていた。あの激闘の後、風紀委員長から時間があったら訓練棟か本部に来てくれと言われており、共に稽古をするようになり、気づいたらほぼ毎日行くようになっていた。今日も道場で委員長や委員達の稽古に付き合う。
「やあっ!」
「そこまでっ!」
朱里先輩の声が響く。いつも僕はやられ役だがそれだけでもいろいろな事が分かる。
「雅君、どう?」
僕が相手をしていた委員会の先輩が不安げな表情で聞く。(女子生徒です。理事長に聞いてみたら一昨年まで女子校だったらしく、男子で有名なのは僕ぐらいしかいないそうで。)
「う~ん、まだ少し素早さがないです。今のだと隙を与えて逃げられる事がありますからね。でも、前に言ったことはできてますからその調子ですよ。」
「なるほど、ありがとう!」
僕の指導は委員会の中でとても人気だった。それもそのはず、僕は一人一人の長所短所をノートにまとめているから。プロではないが犯人の気になったら隙なんてすぐに分かる。この人たちはまだ伸びしろがありそうだ。
何人かの訓練を終えたところで委員長が話しはじめた。
「今日は来週から始まる部活動勧誘週間の話をするから、着替えて本部に集まってくれ。」
委員達は道場を出て隣の更衣室で着替えはじめた。道場には僕しかいない。僕だけいつもそこで着替えるのだ。何故かは・・・言わずとも分かる。何分かして制服に着替えて本部に行くと既に委員全員が集まっていた。僕が座ると委員長が話しはじめた。
「今年もまた、あの馬鹿騒ぎの一週間がやって来る。来週から始まる部活動勧誘週間、俗称馬鹿共の取り締まり週間。今年は雅がいるから大丈夫だとは思うが気を抜くな。雅がいるとはいえ彼は生徒会のメンバーだ。こっちに来れないかも知れないからな。」
「でも、皆さん着実に術を習得していってます。僕があまりここで活躍しないことを願っていますよ。」
と自虐的に言うと皆が笑ってくれた。いつも会議は厳しそうな感じなので和ませられてよかった。
「有望な新入部員の勧誘は今後の部活の勢力図に大きな影響を与える。当然であり遺憾ながら逮捕者も出るだろう。勧誘週間のスタートは一週間後だ。皆それまでに準備、訓練、装備の点検を怠るな。」
「はいっ!!」
委員達の返事を聞き、委員長の解散の言葉で会議は終了した。
すると先輩が僕にこっそりと話しかけた。
「あの時はありがとう。おかげで本部が使いやすくなった。礼を言おうと思っていたのだが言う機会がなくてな。」
「そうですか。それはよかった。」
あの時というのは僕が初めて本部に行ったときの事。本部があまりにも散らかっていたのだ。三ヶ月に一回ほど片付けているらしいが。
「少し散らかっているが気にするな。」
「…委員長。片付けていいですか?この散らかり方は見るに堪えないです。」
許可をもらって全てをあるべき場所へ戻すと、すっかり綺麗になった。
その事でお礼を言われたのだ。別に元に戻しただけなのに。
*****
生徒会専用寮の訓練場、僕と玲は一週間後に控える勧誘週間に向けて組手をしていた。僕はいつも委員長を相手に圧倒しているので近接戦闘には自信があったが、玲も一人で訓練してただけはあって強かった。
「玲も勧誘週間の取り締まりに参加するのか?」
「まだ迷っています。あまり私の存在を露見されても困りますし。」
玲は副会長統率の暗部にいる。現在は玲一人だが明日、暗部に新しい人材が何人か入るらしい。僕もこの学園に暗部がある、その統率が副会長に一任されているという事を知ったばかりだが。
「そうか。じゃあ生徒会室とかに居てもらえるとこっちとしてはありがたい。」
「そうですか。じゃあそこにいることにします。たまに取り締まりに入るということで。」
「了解。勧誘週間楽しみだな。ゾーンとかが出てこないといいが。」
「そういえば、マスターはどんな部活に入るんですか?」
「あ…。まったく何も聞いてない。生徒会って部活入れるのかな?でも入れるなら何か入りたいな。明日聞いてみるか。」
僕らは一週間後の部活勧誘週間の開始を楽しみにしながら、その後の日々を過ごした。
しかしある人間が学校を混乱に陥れようと画策しているなんて事は誰も知る由もないのだった。
ここまでお読みくださり誠にありがとうございます。次回は雅の装備が登場します。この装備は後の話で活躍することになりますので、お楽しみに。
《コルトパイソン ハンター》
雅が扱う拳銃。西部劇などで使われるリボルバータイプの銃でコルト社製。
バレル(銃身)の長さが8インチの銃でハンターと呼ばれる。こちらもオーダーメイド。普段は制服ジャケットのショルダーホルスターの中に収納されている。
《桜林学園生徒会》
雅が副会長を務める生徒会。会長は九条明日香。6人で構成され、生徒会の意見・要望は職員を通さずそのまま理事長に提出される。重要な事柄や設備系の最終決定権は理事長が持つが、他の事柄は全て生徒会が決定権を持つ。他にも落し物の預かりやお悩み相談など、とにかくいろいろやる。