第67話 またまた模擬戦、絶対零度の殺気と再会
「マスター、大変申し訳ありません。お手を煩わせる事になってしまって・・・。」
しょんぼりとうなだれる玲。僕は氷川さんに決闘を申し込まれ、断れる空気ではないのでそのまま承諾、30分後に模擬戦をすることになった。引っ越しのドタドタで疲れているのにさらに僕を疲れさせる原因を作ったことを彼女は悔やんでいるのだろう。
「別にお前が気に病む必要はないよ。売られた喧嘩は買う、ただそれだけだ。」
「しかし・・・」
「もう、ごめんなさいって言うなよ?今相応しいのは別の言葉だ。」
頭に手を置き、優しく撫でてやると、玲は今にも流れ落ちそうな涙を拭い、屈託のない笑顔を見せた。
「はい、頑張って下さい!」
英稜高校は柔道や剣道等の武道系の部活が強い。どこの学校にも武道場はあるがこの高校の武道場はこの地域で一番の大きさだ。
「来ましたね。」
既に道着に着替えていた氷川さんが僕に冷ややかな声で言う。周りには桜庭と審判を買って出た堂島がいた。
「お待たせしました。早速始めましょうか。」
すると氷川さんは訝しい目で僕を見た。何かまずい事でも言ったのだろうか。
「貴方は着替えないのですか?」
「ええ。むしろ着替えない方がやりやすいです。」
「・・・後悔しないことね。」
氷川さんはキッと僕を睨み、そう言い放つと堂島に頷き、頷き返した彼は立ち上がった。
「それでは試合を始める。相手が降参、または私が続行不能と判断した場合にのみ勝敗が決する。武器の使用は禁止、相手には捻挫以上の傷害を与えないこと。従わない場合は私が力ずくで制圧するからそのつもりで。二人とも、準備は良いか!」
「はい!」
「ええ!」
二人の返事を聞いた堂島は右手を上げ、勢いよく振り下ろした。
「はじめ!」
刹那、氷川さんは先手必勝と言わんばかりに正拳を打ってきたが、咄嗟に左手で軌道をずらす。その隙を逃さないかのようにボディーブローを打ち込んで来る。僕は反射的に右手で氷川さんのもう一方の拳を掴む。
「まさか受け止められるとは思わなかったわ。」
「まだまだ。勝負は始まったばかりですよ?」
技と技の応酬が始まり、戦いは熾烈を極めていた。玲は相変わらずクールに微笑んでいるが堂島は何か考え込んでいるようだった。氷川さんに視線を移すと彼女は少しずつ息を荒くし始めた。じわじわと疲れが滲み出ているようだ。僕も体力の消耗は感じられるが肩で息をするほど疲れてはいない。ついに氷川さんは膝をついた。道着ははだけ、下に着ているシャツが見えている。さらに汗ばみ濡れたシャツから下着が透けて見える。正直目に毒だ。
「どこ見てるんですか!?」
「え!?いや、何かすみません!」
そんな赤面されながら怒鳴られたら謝るしかない。
(仕方ない。あんまりやりたくなかったけど、次で決める!)
僕は殺気を放ち、漏れ出た濃い殺気が周囲に漂う。訓練や任務等で僕の殺気に慣れているという堂島や玲でさえも背筋を凍らせる程だ。訓練も何もしていない氷川さんや桜庭にとっては本能的に危機を覚えるほどだろう。
「桜庭、大丈夫だ!何もしなければ彼はこちらに危害は加えない!」
桜庭がダウンした。堂島が必死に彼女の背中をさすっている。吐くならご退出願いたいが。
「ぐっ・・・屈しません。例え敵わない相手でも。」
「まるで勇者みたいですね。流石武闘家だ。そんな貴方に敬意を表して次で決めさせてもらいます。これで敬意を表して良いものか迷うところですが。桜庭さんの為にも。」
必死に氷川さんは僕に攻撃しようとして来るが、
「藤堂流柔拳第二式、幻影刹那。」
僕はまるで残像が残るように高速で移動し、勢いそのままに回し蹴りを放った。
「第八式、雲仙・黒天風!!」
その脚は彼女の腹部を直撃し、ふっ飛ばされた氷川さんはそのままうずくまった。
「氷川遥香、戦闘続行不可能と判断。よって勝者、藤堂雅!」
「玲、氷川さんをすぐに保健室に。」
「かしこまりました。」
氷川会長が保健室に運ばれて数分後、会長はクークーと寝息を立てて眠ってしまった。ダメージは僕が紅眼で密かに修復したため、特に痛みはないはずだ。
「会長に代わってお詫びします。申し訳ありませんでした。」
桜庭が僕に頭を下げる。事件解決の協力者でわざわざ来てくれたのに、会長の暴走で下手すれば怪我を負いかねない事になったのを気にしているらしい。全然気にしていないから頭を上げてほしいと言ったのだが簡単に割り切れるものではないらしく、
「そういえば、他の生徒会メンバーはどこにいるんですか?」
埒が開かないので無理矢理だが話題転換させてもらった。すると
「え、そ、そうですね、あの子達も忙しいので・・・。」
何か隠しているらしい。桜庭をジト目で見ると、彼女はどんどんと焦りの表情を見せていく。そんな彼女を救ったのは廊下を走る足音だった。保健室の戸が勢いよく開かれる。
「会長!」
僕は目を見開いた。目の前には同じく目を見開いた艶のある黒髪ツインテールの女の子。
「・・・雅兄?」
「京香・・・?」
僕ら二人は思わぬ再会に固まった。




