第2話 寮生活、メイドと武装到着
寮生活――それは親元を離れて学校などが用意した寮で生活すること。
僕にとってそれは不安でしかない。何てったって一人暮らしをしたことがないからだ。(新入生全員そうだ。当たり前だが。)
理事長が言うには僕の部屋は個室らしい。まあ迷惑なルームメイトがいるよりはいいかな。
生徒会専用寮最上階、ここは生徒会長である明日香先輩だけが住んでいたが、もう一つ余った部屋があり僕はそこに住むことになった。掃除は行き届いてるらしい。何か清掃担当の人がついでにと言って掃除していたそうだ。その人に感謝だな。この専用寮は通常の寮とは違い東京の高級マンションみたいな造りだ。なんか凄いな。理事長に連れられて部屋に向かう。何かホテルみたいだ。マンションみたいなホテルみたいな、よくわからん。
「はい、ここが雅君の部屋ね。さあ、入って。」
ガチャガチャ。あれ?開かない。
「あっ、ごめんなさい。鍵渡してなかった。」
少し苦笑いしながら鍵を受け取り、扉を開ける。
扉を開けるとそこには、メイド服を着た女性が立っていた。歳は僕より少し上ぐらい。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
凛と佇む、髪をショートカットにしたそのメイドはとても冷ややかな目をして僕にこう言った。
「今日から、藤堂雅様のメイドとなります、東條玲です。よろしくお願いします。」
「よ、よろしく。というか鍵がかかってたはずなのに何でここに?」
「それは私がこの部屋に入ってドアを閉め、鍵をかけたのですから。鍵が開いたままというのは無用心でしょう?」
「まあそうだな。」
「ここのお部屋はリビング、和室、ダイニングキッチン完備のお部屋です。洗面所は勿論の事、トイレとお風呂は別に、電化製品も揃っております。勿論、ベランダもありますよ。」
「完璧だな、この部屋。説明も。」
「恐れ入ります。個人部屋もありますので。」
「本当!?」
「はい。」
個人部屋という言葉に過剰に反応してしまった。家にも個人部屋はあるが、実際はあまり使っておらず物置状態なのでちゃんとした部屋が欲しかったのだ。
「あと、雅様にお届け物が。」
「俺に?」
手渡された頑丈な箱、というよりアタッシュケースだ。
そこの中には拳銃が二挺入っていた。
「随分と早くに届いたね。へえ。コルトガバメントか。使いやすそうだ。」
コルトガバメント。アメリカのコルト社が作った代表的なハンドガンの一つ。ガバメントは愛称で米軍での名称はM1911A1。現在はもう使われていないが、僕用に作ってもらったのだ。ちゃんと見るとやっぱりかっこいい。
「雅様、あとこの銃をお受け取り下さい。」
と差し出したのはさっきとは形状が違う拳銃。僕はこのハンドガン二挺しか頼んでいないのだが。
「このリボルバーは?」
「おまけだそうで。」
リボルバー銃の一つ。コルトパイソン。銃のバレルの長さが8インチのこの銃はハンターと呼ばれる。他はこう呼ばれない。リボルバーは一発弾を発射するごとに弾倉が回転する。装填できる弾が六発と少ないが、貫通力がある。アメリカの西部劇などで使われる早撃ちのあれだ。
「これは学校からというより私からのプレゼントです。もうじき時間だからじゃあね。」
と言い、理事長は帰っていった。
何をもらったかって?ベルトと一体化した二つのヒップホルスターとショルダーホルスター。銃を使う僕にとっては絶対使うし必要な物だ。銃を入れるものを贈られたみたいだ。銃を持った生徒がうろついているのは怖がられる。だから収納しとけって事だ。まあこんなホルスターを持つ時点で銃を持ってるって気づかれるが。
自分の部屋で玲に手伝ってもらいながら先に運び込まれてた荷物を解き終わったのは午後6時頃だった。お腹減ったな。
「雅様、ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも・・・」
「飯で頼む。あと雅様って言いにくくないか?自分の呼びやすい呼び方でいいよ。」
「ふふ。お優しいのですね。では、マスターとお呼びしてよろしいでしょうか?」
「マスター、なんかカッコイイな。いいよ。」
「ありがとうございます。お食事の用意をしてまいります。」
・・・さっきの発言にツッコミを入れたい気分だが入れたら負けだ。
玲は笑顔で寮に備え付けたアイランドキッチンに入っていった。しかし本当にすごい寮だ。アイランドキッチンはあるし、IH搭載だし、和室はあるし。
部屋をいろいろ見ていると、部屋にいいにおいが漂う。ご飯ができたみたいだ。
「お待たせいたしました。今日は鯵の開きです。」
「やった!」
僕は魚が大好きだ。しかし正確に骨と身を分離する技があってこそだが。
「うらやましいです。綺麗に骨と身をわけれるなんて。」
「ん?そうかな?俺もここまでできるのに結構かかったけど。」
「そうなんですか?」
「うん。こういうのもなんだけど習うより慣れよってやつだね。」
「なっ、なるほど。」
と言っていろいろな他愛もない話や世間話、この学園の事、僕の話をした。玲もいろいろ話してくれた。僕よりも特異な人生経験をしてたから話を聞くだけでも楽しかった。
「そういえば、気になってたんだけど、あれは何のためにあるの?」
といって指を指した。そこには無作為に入れられた四角形の人が入れるくらいの切れ込み、そして取っ手。
「ああ、あれは開けると、ある場所へつながる扉です。」
「へぇ。あれ扉なんだ。」
「はい。扉です。取っ手がありますから。いずれ分かるでしょう。」
「ふうん。」
まあいずれ分かるなら、あえて聞かないことにしよう。
「そういえばマスター、明日も早いのでは?」
「あっ!」
話を聞くのに夢中で時間を忘れていた。時計を見るとまだ8時。食事を終え、風呂に入った。はぁぁ。いろいろすっとばしてやったから疲れた。もう寝ようとベッドに入った直後にはもう意識を手放して僕は死んだように眠ったのだった。
「雅様…。」
私は東條玲。今日からお仕えする藤堂雅様のことを以前より知っている。雅様は私と会うのは今日が初めてと思っているが、もう何度も会っているし行動も共にしている。
プルルルと私のスマホに着信が入る。
「はい、東條です。」
「私だ。藤堂はどうだ?」
「…私のことを覚えてはいませんでした。やはりあの時のダメージが…」
「確かにあれから何も変わっていない。藤堂は記憶を封印して自分が記憶喪失だというのを装っている。」
私は顔を歪め悔しさに涙が零れる。こうなってしまったのは全て私のせいだ。
「だが、お前も藤堂に接触したんだ。記憶の封印を解くチャンスはいくらでもある。その為にこの学園に入れたというのもあるからな。」
「はい。ベストを尽くします。ここで立ち止まってはいられませんので。」
「頼んだぞ。彼は私達になくてはならない存在だ。」
そうして電話が切れた。自分の部屋に行き、ベッドに倒れこむ。
「雅様…」
脳裏に残る在りし日の彼の姿を思い出し、私は枕を濡らすのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。次回もお楽しみに。