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第4話 限界バトル(後編)

「君も私が悪だというのか、どうでもいいが!」

「どうでもいいの!? じゃあここまでの話は何!?」


 エルナの出した結論に食って掛かるネストール。それにグローズが追随する。


「そうですよ、ボスが善か悪かなんてそんな些細なこと気にしないでください! そんなものは後の歴史研究家が勝手に決めることです!」

「それでいいのかお前ら」


 グローズの社会適合放棄宣言に、思わず素でツッコんでしまった達也。しかしグローズとネストールは気にも留めない。


「まあ、そういう訳だ」

「どういう訳!?」

「遊びは終わりだ、とどめを刺せグローズ」

「アイアイサーモン」

「サーモンって……」


 グローズは了解の返事と共に増殖し、今までは地上だけを埋め尽くしていたのだが空中まで埋め尽くしていく。

 そして増殖したグローズが達也に迫りくる。


「やらせはせん! やらせはせんぞ!」

「ド○ル!?」


 しかし達也は、持っていたピアニカソードとスピア・ザ・スペースシャトルを振るい抵抗する。あるグローズはピアニカソードで吹き飛ばされた後爆発し、また別のグローズはスピア・ザ・スペースシャトルで上半身と下半身が分離させられた。

 だがしかし、物量には勝てない。

 達也がグローズを10人吹き飛ばしても100人が攻め、100人を殺しても1000人が襲い掛かってくる。その状況に達也は遂に敗北し、達也は両手両足を缶ジュースサモンナイトが使えない様に宙に浮かせた状態で、グローズの集団に抑え込まれてしまった。


「放せ人殺しども!」

「カ○ーユ!?」

「無様な姿だね、それじゃあ何も出来ないだろう」


 抑え込まれた達也を嘲笑し、見下した言葉を話すネストール。その態度に腹を立て達也はネストールを睨むが、睨まれた当人は気にも留めず言葉を続ける。


「これで終わりだ。まあ美人に囲まれるのは男の夢だろうし、せめて素敵な夢の中で終わらせてあげよう」

「あいにくだが俺は現実で生きるぜ! そして俺の人生はこんな所で終わりはしない!」


 ネストールの言葉に達也は真っ向から反論し、何とか拘束を振りほどこうともがく。その様を今度はグローズが嘲る。


「無駄ですよ、無駄無駄……」

「いくらもがいた所で……」

「この拘束を外すことは出来ませんよ」

「サラウンドで喋んな超うぜえ!」


 3人のグローズが代わる代わる周りで喋ることに達也はキレつつも、諦めずもがく。その甲斐あってかついに、


「やったぜ」


 グローズの胸に触ることに成功した。


「この状況でセクハラ!? 拘束を解いたんじゃないの!?」

「何のつもりですか?」


 胸を触られたグローズが冷たい目で達也を睨む。しかしそれは一瞬の事、すぐにそれをやめてため息交じりに一言。


「……まあいいですよ、胸触られてキャーキャー言うほどウブでもありませんし。せめてもの手向けとして少し位なら許してあ――」

「缶ジュースサモンナイト!」


 グローズの慈悲の言葉を途中でぶった切り、達也は召喚術を発動する。

 現れたのは3メートル程の大きさを持つカバだった。

 カバは現れたと同時にグローズの1人を踏みつぶし、そして大きな口を上げグローズの数人を喰らう。

その隙に達也は拘束から逃れ、カバの上に乗り叫ぶ。


「体重3トン、時速40キロで走るカバの恐ろしさ。思い知らせてやるぜ!」

「カバって意外とハイスペック!」


 エルナがカバのスペックに驚いている中、達也を乗せたカバは縦横無尽に走り回り残りのグローズを蹴散らしていく。

 この状況にグローズとネストールは大慌てだ。


「くっ、まさか神話生物であるヒポポタマスを呼ぶとは……」

「カバは神話生物じゃありませんけど!?」

「それと何で英語!?」


 一方の達也はカバの猛攻を見て大はしゃぎしている。


「強靭、無敵、最強! 粉砕、玉砕、大喝采!!」

「まるでカバが伝説のドラゴンみたいな扱いに!」

「そろそろ空の敵も薙ぎ払え!」


 達也の言葉にカバは呼応し、背中に翼を生やす。


「何でカバに翼が生えるの!?」

「きっと願いごとは翼をくださいだったんだよ」

「合唱コンクールとかで歌いそう……!」


 翼を生やしたカバが空中のグローズを次々撃墜していく中、ネストールはある決断を下す。


「一輪車ブレードならおそらくカバでも楽勝だ! こうなったら私がカバを止めるからグローズは達也を!」

「かしこまりました!」

「そうはイカのなんとやら! もう1回缶ジュースサモンナイトォォオオオ!!」


 だがその決断も達也は読んでいた。彼はもう1匹カバを呼び出しネストールに差し向ける。


「舐めるな、いくらカバでも私の相手にならない!」

「ああ、俺もそう思うぜ! だけどカバは本命じゃねえ、てめえらは俺が持つ最強の技で倒す!」

「最強の技!?」


 達也は自らの持つ最強の技で倒すと宣言する。

 そのまま達也はピアニカを持ち、天に掲げる。


「我は告げる」


 そして始まったのは最強の技を出すための詠唱。


「翼の生えたカバに乗っていなければカッコイイ姿なのに」


 それを見たエルナは思わずツッコミを入れてしまう。。


「紅より赤い深紅よ、闇より黒い漆黒よ」

「あの呪文はまずい! 止めるんだグローズ、カバを無視してでも!」

「位置的に無視できません!」


 一方のネストールは達也の詠唱している呪文で最強の技が何かを見抜き、それを止めるように指示を出す。しかし翼の生えたカバはグローズの集団にいくら迫られようとも一蹴できるだけの強さがある。


「仕方ない、私がやる!」


 そう言ってネストールは地を蹴り空を跳び、達也の眼前まで迫る。達也は詠唱に集中していて対処できない。それを見てエルナは思わず、


「危ない!」


 と叫んだ。

 だが次の瞬間、翼の生えたカバの口から火が放射され、ネストールは地上に墜落した。


「あれ絶対カバじゃないよ! カバの形した生物兵器だよ!」

「我が眼前にある悪を滅ぼす為に、我が正義を世界に示す為に」


 そして達也の詠唱は続く。この騒々しいという言葉すら陳腐になりそうな異常事態など無いかの様に。


「顕現せよ、血より赤く黒い地獄の地平線」

「くっ、詠唱が終わってしまった!」

「え、終わったんですか? 詠唱業界的に見ると結構短いですね」

「詠唱業界って何!?」


 やがて詠唱は終わり、後は発動のみ。

 これから何が起こるのか知っているネストールはそれを恐れる様子を見せ、何が起こるか分からないエルナとグローズはそんなネストールを見て戸惑う素振りを見せる。

 そんな感情が渦巻いていることも知らず、達也は高らかに自らが発動した技を宣言する。


「ベニテングダケ・ホライズン!!」


 そして技が発動したと同時に、今まで殺風景だった部屋が一変する。

 空に太陽が現れたかと思うと、下は床じゃ無く地面に変化。さらにその地面から、8センチ程の大きさの深紅の色を持ち白いイボの付いた傘を持つキノコ、ベニテングダケが辺り一面は生え広がった。


「な、何なんですかこれは……」


 その光景を見たグローズは思わず言葉をこぼす。

 彼女のほとんど意識せず、口から出ただけの言葉に達也は答えた。


「固有結界、いやここは敬意を表して領域支配系奥義って言っておこうか。まあそれはともかく、ここは俺が造りだした世界だ」

「つまりここは貴方の心を映し出した世界ということですか……」

「いや違うけど」

「違うんですか!?」


 グローズの出した結論を即座に否定する達也。その対応は冷たい。


「というか、ベニテングダケが辺り一面に広がる世界が心を映し出しているってどんな奴だよ」

「キノコマニアでもこんな精神してないと思うな、私」

「少し考えればわかりそうなものだ」

「何で私ボス含めて総スカン受けなきゃならないんですか!? 泣きますよ!!」


 敵である達也とエルナはともかくとして、従っているボスにまで冷たい対応をされてちょっと涙目のグローズ。しかし彼女はなんとか気を取り直して達也に強く言い放つ。


「それはそれとして、達也さん! ボスが何を恐れていたか知りませんが所詮はキノコ、私が負ける道理はどこにもありませんよ!」

「それはどうかな?」


 グローズの言い放った言葉に小さな笑みを浮かべて答える達也。その表情はとても自信に満ちている。


「グローズ、お前はベニテングダケの恐ろしさを知らない。だから教えてやるぜ、授業料はお前の命だ!」

「いいでしょう、そうまで言うなら見せてもらいましょうか!」


 達也の挑発にしか聞こえない言葉に躊躇なく乗るグローズ。それに答えるかのように


「ベニテングダケ・ホライズンの真の力発動!」


 達也は開幕から全力だ。


「最初から!?」

「これ以上エルナを檻に閉じ込めておくのは忍びないからな!」

「あ、私が理由なんだありがとう!」


 達也がベニテングダケ・ホライズンの真の力を使ったことにより、地上に生えていたベニテングダケが一斉に浮かび上がり、空には数えるのも億劫になるほどのベニテングダケが宙を自在に舞っている。

 そしてそのベニテングダケ1つ1つが、グローズに衝突する度彼女達を消滅させていく。


「私がたかだかキノコに触れただけで、死ぬなんてありえません……!」

「この世界のベニテングダケは俺の意のままだ。例えば、触れるだけで即死するような猛毒を発生させるとかな」

「この空間予想以上に物騒……」


 エルナとグローズがベニテングダケ・ホライズンにドン引きしていた。一方、ネストールは未だ諦めることなく実はまだ翼の生えたカバに乗った達也に向かっていく。


「この世界は確かに脅威。だけどまだ勝機はある!」

「やってみろ、またカバが火を吹くぜ! 物理的にな!!」

「事実だけどなんて釈然としない言葉」


 達也の言葉の通りに再び翼の生えたカバは再び火を放ち、ネストールを攻撃する。しかし今度は撃墜されることなく、達也に向かって一輪車ソードを振り下ろした。

 達也はそれをベニテングダケで咄嗟に受け止める。


「流石にやるな、一輪車相手だとベニテングダケじゃ止めるのが精一杯か。だったらこうだ」


 そう言って達也は翼の生えたカバから飛び降りた。


「待て!」


 当然ネストールは静止を呼びかけるが、そんな言い分を達也が聞くはずも無く、達也は大量のベニテングダケを差し向ける。

 そして落下中に何を思ったのかピアニカを上に放り投げた。


「一体何を!?」


 エルナはそれを見て驚く。

 しかし達也はそれに答えることなく叫ぶ。


「俺は、ベニテングダケ二つとカバ二匹とピアニカを合体させる!」

「合体!?」


 その言葉と共に翼が生えたカバと普通のカバ、そして二つのベニテングダケがピアニカの元に集まり激突。それと同時にネストールは落下し始める。

 そして次の瞬間凄まじい光が辺り一面に発せられた。やがてその光が収まるとそこには、近年めっきり見なくなった、羽根つきに用いる長方形の柄がある板が、達也の手元に現れる。


「これが未来を変える究極の剣、羽子板セイバー!!」

「合体素材からビックリする位乖離した物出てきた!」


 羽子板セイバーを手に取った達也は、足元にいくつかのベニテングダケを呼び出す。そしてそのベニテングダケを足場にし、宙を舞ってネストールの元へ向かう。


「シュールな光景……、今更な気もするけど」

「ベニテングダケが舞ってる時点でシュールですけどね!」


 その状況を見たエルナが思わず口から感想が漏れるが、それに対しそもそもベニテングダケが飛び交ってる時点でシュールじゃないのかというグローズの思いもまた口から出る。

 一方、達也は落下しているネストールの元へ辿り着き羽子板セイバーを振るい、対してネストールも負けじと落下しながらも一輪車ブレードで受け止めるが、横から飛んできたベニテングダケの1つが彼の脇腹に衝突し、彼は地上に叩き落された。


「まだだ!」


 しかしネストールはすぐに起き上がった。それを見た達也はすぐにベニテングダケから飛び降り、ネストールの元へ向かう。


「グローズ、君に命令する」

「何でしょうかボス」


 達也がネストールの元に辿り着く間に、ネストールは手近なグローズを呼びとめる。そして次に口にする言葉に聞こえていたエルナは驚愕する。


「私は君に供給しているホムンクルスを元にしたエネルギーを切り、私に供給し直す。だからグローズ、君は捨て石になってくれ」

「なっ、ネストール部下を見捨てるの!?」


 部下を捨て石にすると言い切ったネスゴールに驚愕し、非難の声をあげるエルナ。


「かしこまりましたボス。達也さんを倒したら復活させて下さい」

「勿論さ」

「捨て石扱いはいいの!?」


 しかし命令された当人のグローズはあっさり了承した。そのことにエルナはまたも驚愕する。


「当然構いません。ボスの技術なら後で復活出来ますから」

「復活出来るなら死んでもいいの!?」

「いや普段は嫌ですけど、この場合仕方ないでしょう」


 そしてグローズはエルナの反応に淡々と返す。


「死への恐怖はあるのに、それを受け入れるなんて……。そんなに欲しいの? ネストールの言う理想の恋人が!?」

「欲しいですよ。私もボスもスキナンジャーの皆も、他の四天王の方々だって」

「命を捨てるほどに?」

「現実に妥協するくらいなら、命捨てた方がマシです」


 そう吐き捨てたグローズ。その答えにエルナは何も言葉が出ない。


「話は済んだか?」


 そこに達也がやって来た。エルナは思わず顔を綻ばせ、達也に呼びかける。


「良かったやっと来た。正直グローズの意志の強さに今ちょっとドン引きしてた所」

「どんだけ恋人欲しいんだって話だよな」

「私は自分の事と、少子高齢化の事を真剣に考えた結果ですから」

「どう考えても恋人カスタムしようという結論はおかしいって!」

「これがジェネレーションギャップですか……」

「24世紀なら普通みたいな言い回しはやめよう! 否定されたからこの時代に来たんでしょ!?」


 グローズの自分の言ってることの何がおかしいのか分からない、という態度にドン引きを越えて恐怖を覚え始める達也とエルナ。


「グローズ、こっちは準備万端だ。既に君へのエネルギー供給はカットした」

「イエッサー、ボス! これより捨て石になります!」


 そこでネストールがグローズに指示を出し、グローズは達也に一直線に向かってきた。


「グローズ、お前は捨て石にすらなれない。お前がするのは犬死だけだ!」


 しかし達也はこの空間にあるベニテングダケを操作し、向かってくる全てのグローズにカウンター攻撃を喰らわせる。これにより、グローズの集団はあっさり全滅した。

 グローズが全滅した様を見てネストールは一言。


「許せグローズ、お前の死は無駄にしない」


 グローズが全滅してもなお、諦める様子を見せないネストール。そんなネストールに達也は羽子板セイバーを突き付け一言。


「後はお前だけだ」

「そうだ私だけだ。それでも私は君に勝つ!」


 ネストールは叫び、達也に向かって駆け出す。そのスピードは今まで一番早く、達也は思わず動揺する。


「早っ! まさか右肩を赤く塗ってスピードが3倍になったのか……!?」

「レッドショ○ダーとシャア○クが混ざってる!」


 動揺しながらも達也はベニテングダケを操作し、ネストールに向かって発射する。

 しかし、ベニテングダケがネストールにある程度近づくと同時に発火し消滅していった。


「嘘だろ!?」


 それを見て達也は思わず悲鳴とも驚きともつかない声をあげるが、ネストールはそんな達也の心など当然の如く無視し、一輪車ブレードレプリカで攻撃を仕掛ける。


「死んでしまえ!」

「嫌だね!」


 達也は羽子板セイバーでネストールの攻撃を受け止め、鍔迫り合いとなる。それと同時にあることに気付いた。


「熱っ、何これ一輪車ブレードちょっと光ってて超熱い! 夏場の車のボンネット位熱い! 目玉焼き出来そう!」

「その温度でキノコ燃え尽きたりしないって!」

「そう、これが君のベニテングダケを無効化した秘密だ」

「まさかの正解!?」

「だったらその温度でもベニテングダケを燃え尽きない様にすればいいだけの話!」


 達也は叫び、ベニテングダケに熱耐性を持たせた上で再びネストールに発射する。しかし、ベニテングダケはさっきと同じように発火し燃え尽きた。


「何……だと……!?」


 その光景が受け入れられず、思わず否定してしまう達也。それを見たネストールは得意気に解説する。


「私は今、供給されているエネルギーを使って、一輪車ブレードレプリカにベニテングダケが一定距離まで近づいたら無条件で発火させる様機能を一時的に追加している」

「そんな限定的な機能が…!?」

「つまり達也君のベニテングダケ・ホライゾンは無効化されたも同じだ」


 そこでネストールは一輪車ブレードレプリカで今まで行われていた鍔迫り合いを制し、達也の体勢を崩す。そして体制が崩れた所にネストールは蹴りを叩きこみ、達也を吹き飛ばす。


「クソッたれが……」


 吹き飛ばされた達也は羽子板セイバーを杖にして立ち上がろうとするが、今までのダメージが溜まっているのか片膝を突くのが精一杯。


「そして残りのエネルギーは私の身体能力増加に使っている」


 そんな達也にネストールは語りかけながらゆっくりと歩いていく。そして一輪車ブレードを達也に突きつけ一言。


「君の敗因はたった一つ、君は我らを舐めていたことだ。理想の為なら自ら命を捨てる、その覚悟があると思わなかったことだ!」


 ネストールは語ることはもうないと言わんばかりの態度で、達也に一輪車ブレードを振り下ろす。


「達也!」


 それを見てエルナは叫ぶ。


「お願いネストール止めて、私解剖なら受け入れるから! 達也を巻き込んで死に追いやるなんて嫌だ!」


 エルナはまたも叫ぶ。

 しかし次の瞬間、エルナとネストールの二人にとって信じられないことが起きる。


「――エルナが解剖を受け入れる、その必要はねえ」


 達也がネストールの攻撃を片腕で受け止めてしまったから。


「勝つのは俺だからな」

「そんな、事が……!」

「アイムウィナー! アイアムウインナー! アイムナットソーセージ!」

「達也はウインナーでもソーセージでも無いよ!」


 驚きで固まるネストール、ダメージを受けてボロボロなのにそれでもボケる達也、それにツッコミを入れるエルナ。

 そして達也は、足を生まれたての小鹿の様に震えさせながらも立ち上がった。


「なぜ立ち上がれる?」

「ネストールてめえ言ったよな、俺がてめえらを舐めてるって。確かにそうかもな」


 ネストールの問いに答えることなく、達也は淡々と自分の言いたいことを好きに言う。


「だけどてめえも俺を舐めた。てめえは絶対自分達が勝つと思ってる、自分のやることは正義だから目的の為に手段を選ばないし、努力すればどんな障害も乗り越えて必ず成し遂げられると信じてる」

「手段を選ばないことの何が悪い?」


 ネストールは達也にまたも問いかける。今度は答えが返ってこないことが前提で。しかし予想に反し達也は答えを返す。


「別に俺は手段を選ばないのを悪いとは言わねえよ、俺もそんなに選ぶ方じゃないし。更に言うなら、努力すれば必ず目標が実現すると思うのはお前の勝手だ」


 そこで達也は言葉を一旦止め、ネストールを睨みつけてから再び言葉を続けた。


「だけどな、自分のやってる事が根拠も無く、絶対正義なんて思ってる奴は基本大嫌いだ。そんな奴は大抵悪党って相場が決まってんだよ」

「じゃあ君は何だ?」

「市立貌巣高校に通う2年生にしてXYZ探偵事務所のバイト。そして女の子を解剖されようとするのを見過ごしたくない男だ。だから俺はお前を殺す」

「滅茶苦茶だ……」


 達也の発言の支離滅裂さに呆れた様子を見せるネストール。


「こんな男に負けない、負ける訳がない、負ける訳にいかない……」


 そしてブツブツと呟くネストールだったが次の瞬間思考が停止する。


「トゥ、ヘァー!」


 達也は握っていた一輪車ブレードレプリカを、そのまま握りつぶした。


「え……?」


 ネストールはその光景を見て唖然とするが、同時にあることに気付く。

 達也が赤く光っている、正確に言うなら赤いオーラを纏っているのだ。


「そういや何で立ち上がれるって聞かれてたっけ。答えてやるよ」


 唖然としているネストールを尻目に、達也は解説を始める。


「言ったと思うけど、今俺が展開しているベニテングダケ・ホライゾンはベニテングダケを自在に操れる。毒の強さを変えたり熱耐性を持たせたりな。その応用で、俺はベニテングダケをエネルギーに変換して体に取り込んだんだ」

「応用の幅広すぎない?」

「自由度の高さが魅力なんだよ、例えるならG○Aばりに」

「シナリオ進めなくていいレベルの自由度なんだ!?」


 エルナがベニテングダケ・ホライゾンの応用力に感心する一方、ネストールはただ唖然としていた。達也はそんな相手に追い打ちを仕掛ける。


「そういやお前言ったよな、ベテニングダケ・ホライゾンを無効化したって。全然できてねえぞおい。お前どんな気分だ今?」

「凄い煽ってる……」

「黙れ! 私はまだ戦える――」


 一輪車ブレードを壊されてなお諦めないネストールを、達也は羽子板セイバーで殴り飛ばして地に伏せさせる。


「終わりだ」


 その言葉と共に達也はベニテングダケのエネルギーを羽子板セイバーに集中させる。すると、羽子板セイバーが赤いオーラを纏い、やがてそのオーラは炎となる。


「に、逃げ……!」

「いい選択だ、理想的だな、だが無意味だ」


 ここが達也の作りだした空間である以上、逃げても意味がないと分かっていても思わず逃走を選ぶネストール。しかし達也はベニテングダケをネストールの足に突き刺し、逃走を封じる。


「さて、戦いも終わりだ。全く、消耗してる状態でベニテングダケをエネルギーにしたから使い終わったら数日寝込みそうだぜ。俺のゴールデンウィーク潰れるじゃねえか!」


 達也が羽子板セイバーを天に掲げると、炎が渦巻きやがてベニテングダケの形となる。


「髪の毛1本残さず、宇宙の塵になれ!」


 そして達也が羽子板セイバーを振り下ろすと、その炎がネストールに向かい、彼を焼き尽くそうと燃え盛る。

 燃え盛る中でネストールは、怨嗟のこもった声を上げる。


「この、自己中心男めええええええええええええええええええええええええええええ!!」

「お前が言うなああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ネストールのある意味正論の嘆きに、達也もまた正論で答え炎をさらに増大させる。

 そしてしばらくするとネストールの姿は影も形も無くなり、完全に燃え尽きた。


「勝った……!」


 ネストールが燃え尽きたと同時に、達也は地面に倒れ伏しそうになる。しかし倒れながらもベニテングダケを操作して、エルナが閉じ込められている檻の鍵の形に変化させて扉の鍵穴に差す。

 それをエルナが見て自分を閉じ込めていた檻から脱出すると同時に、ベニテングダケ・ホライゾンが解除され元の殺風景な空間に戻った。

 エルナは達也に駆け寄り叫ぶ。


「達也、大丈夫!?」

「大丈夫大丈夫問題ない問題ない。あ、エルナに頼みがあるんだけどいいか?」

「何?」


 そこで達也はポケットからiph○neと、グローズからもらったこのビルの住所が書かれた紙を取り出して一言。


「エルナ、これ使って所長呼んでくれ、ここの住所は紙に書いてるから。後、俺これから気絶するからタクシーで来るよう言っといて」


 それだけ言って達也は宣言通り気絶した。


「え、ちょっ!? 達也、ねえ達也!?」


 後に残るのは、エルナの呼びかける声のみ。

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