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第3話 Life is SHOW TIME(後編)

 達也が道を駆けしばらくすると、今まで普通のビルの内装だったものが徐々にSF映画でしか見たことの無いような物に変わっていく。しかしそれはエルナが言う様に、『ラ○ブ・ア・ラ○ブのSF編のステージ』に似ていると達也は理解した。


「つまりここらへんがエルナの居た場所ってわけか、というか何で1階は偽装してるんだわざわざ」

『私達が目立つ事の無いようにする為だよ、達也君』

『こんなちょっとの偽装であなた達って目立たなくなるの!?』

「まあ、スキナンジャーレベルの奴らなんて貌巣町なら割とよく居るレベルの変態だしな。未来から来た事隠しとけば確かに目立たないだろうよ」

『助けに来てもらってなんだけど、達也が勝っても負けても私の未来が不安だよ』

「大丈夫大丈夫楽しいから」

『そんな音楽室の壁にある穴位細かい事はどうでもいい。それより早く進みたまえ、そこにちゃんと順路の書いた紙が貼ってあるだろう』


 エルナの不安を無視してネストールが指差す先には、彼が言うとおり矢印が書かれた紙が貼ってあった。しかし、その紙は良く見るA4紙で、この場所にはあまりにも不釣り合いだった。

 それについて達也は苛立った声でネストールにケチをつける。


「もうちょっとディティール考えてくれよ、俺なんか微妙な気分になるんだけど」

『悪の組織のアジトの内装にケチ付ける人初めて見た』

『下らないな、部屋の細かい部分に何をネチネチ言っているのやら』

「ネストール、お前どんどんダメな奴になってない?」

『最初からダメだったと思うな、私』


 そんな会話をしながら達也は走り、そして1階に有った様な大きな部屋に辿り着いた。

 ただし、1階とは一つだけ違うところがある。それは、1階には電気の他に何もなかったがこの部屋にはもう1つ特筆すべきものがあったのだ。それは――


「何でこんなもんが……」


 それを見た達也から、思わず声が漏れる。

 それは、外にテーブル席を出し内装は洋装、音楽はジャズが流れる落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。


『何で喫茶店!?』

『さあ、持て成されていくと良い。コスプレ喫茶だぞ』

「いやコスプレ喫茶だぞって言われても困る」

『そうだよね、いきなりそんな事言われたら困るよね』

「俺の財布には今2500円しか入ってないんだぜ?」

『だぜじゃないよ! というか乗り気!?』

『それだけあれば1食分くらいにはなるさ』

「じゃあ行くか、ここで断ったらエルナの身が危なくなるかもしれないし」

『よく見破ったな、その喫茶店には四天王が居るぞ。無視したら恐ろしい事になっていただろう』

『何なのこの組織……。何で達也が喫茶店に入らないと私の身が危ういの……?』


 エルナは思わず疑問を口から出す。それに対しネストールは、細かいことをグチグチ言うな、と理不尽な発言をした。

 一方、達也は喫茶店のドアを開け中に入る。


「いらっしゃいませえええええ! 何名様でございましゅかあああああ!」

『何この店員、テンション高っ!』

『これが未来流さ』

「……ジェネレーションギャップの一種か」


 出迎えたのはやたらとテンションの高い、羊のコスプレをした男の店員。達也は店員のテンションの高さに引きつつも、1人だと伝える。


「それではぁ、こちらへどうぞぉ!」


 そして店員に席に連れられ、達也はその席に座る。そしてメニューを見て注文を決め、店員を呼ぼうとしたその時。


「お客様ああああああ! ご注文はうなぎですかああああああ!?」


 達也が呼ぶより速く店員がやって来た。コスプレしている羊には似合わないスピードだ。


「いや、ホットコーヒーとショートケーキを頼む」

「かしこまりもっこり!」

「それ未来に伝わってんのかよ」


 今日の昼聞いたギャグに達也は若干イラつきつつも達也は注文を伝え、店員は奥へ向かった。

 そして20秒後。


「お待たせ致しましたああ! ご注文のソーキソバでございまああああす!」

『全然違う物出てきた!』


 店員は達也が注文したものとは違う、というより喫茶店にあるのはおかしい沖縄名物を持ってきた。当然達也はそれに文句を言う。


「俺ソーキソバとか頼んでないんだけど」

「大変失礼しましたああああああ! お詫びにこのソーキソバをこちらからサービス致しまああす!」

「いらねえ……」

『辛いよ! コーヒーとケーキ注文してるのにそこにソーキソバ来るのは辛いよ!』

『これだから過去の若者は……』

『悪いの達也じゃないよね!?』


 達也はソーキソバを断った。店員はその事に微妙に納得いっていないような表情をするが、それでも我慢しソーキソバを奥へ持って帰った。

 そしてまた20秒後。


「大変長らくお待たせ致しましたぁぁ! ご注文のホットコーヒーとショートケーキでございまあああす!」

「ああ、ありがとう」


 達也は店員からケーキとコーヒーを受け取った。そして最初に手を付けたのはケーキだ。まろやかなクリームとイチゴの酸味が程よく混じり、達也は素直に美味いと思った。

 次はコーヒーだ、そう思った所で店員がやって来た。


「ケーキのおかわりはいかかがですかあああ!」

「いや、いらない」

「分かりましたああああああ!」


 相変わらずなテンションの高さで店員が去っていく。それを見送った達也はコーヒーを飲む。コーヒーに関する知見は無いがこれは美味い、それが率直な感想だった。

 そしてコーヒーを飲みほした直後に店員がやって来た。


「お客様あああ!」


 達也が声のする方に向くが、そこには店員の姿がない。それを疑問に思った次の瞬間


「コーヒーのおかわりはあああ!」


 店員の声が反対から聞こえる。達也がその方向を向く。しかし店員はまたも反対方向に移動して達也に言う。


「いかかですかあああ?」

「クソうぜえ!」


 達也は缶ジュースサモンナイトでピアニカを呼び出し、それで店員を殴り飛ばした。


「何をなさるんでございますかお客様ああああ!」


 殴り飛ばされ、地面に倒れ伏した店員が達也に問いかける。それは必死の叫びに見えた、なぜ自分がこんな目に合わなければならないのか、そう叫んでいるように達也には聞こえた。

 その問いに達也はシンプルに答える。


「てめえの接客態度が気に入らねえ」


 達也はずっとイライラしていた。間延びした語尾が、異様に高いテンションが、コスプレ喫茶なのに可愛い服装した女性じゃなく羊のコスプレをした男だという事実。それら全てが達也を苛立たせていた。


「というか考えたら俺悪の組織と戦ってるんだよ、今四天王倒してる最中なんだよ。お前四天王だろ、そうでなくても敵の一味だろ? じゃあ俺に殺される理由はたっぷりあるじゃねえか、なあ!」

「こいつクレーマーか! 接客態度がどうこうだの訳の分からない事ばかり言いやがって!」

『話噛み合ってないよ!』

『キレやすい若者とはこういう事か』

『あれは怒るよ! あれに怒らない人逆に凄いよ!』


 店員は達也をクレーマーだと判断し、怒る。自分の何が間違っているのだ、という思いが態度から見てとれる。


「店長、クレーマーです! こっち来てください!」


 店員は奥に居る店長を必死に呼んだ。

 そして少しすると、奥から身の丈3メートルはあるだろう影が現れた。やがてその全貌が見えた時、達也とエルナは唖然とする。

 それは獣だ、それには毛皮がある、それは――


「熊じゃねえか……」


 体長2メートル近くある、日本だと本州や四国に生息する巨大な熊、ツキノワグマだった。それを見た達也は思わずネストールにこんな事を言ってしまう。


「なあネストール、ここコスプレ喫茶じゃないだろ実は」

『24世紀基準ではコスプレ喫茶だ』

「どんな世界なんだ24世紀って。俺、万が一タイムマシンがこの時代に出来ても絶対行かねえからな24世紀」

『住人は愚かだが、悪い所ではないぞ』

「1ミリもそうは思えねえよ」

『……どのあたりが君にそんな事を思わせる?』

「お前とかこいつらみたいなのが生まれる土壌がある事が」


 達也は24世紀がどんな世界なのか真剣に気になった。

 そして、放置されている羊の店員はその態度に怒りを見せた。


「あいつら、俺達を舐めてやがる! 店長、あんな奴やっちまってください!」

「ああ、そうだな。――だがその前に」


 そう言ってツキノワグマは羊に手を伸ばし、


「な、何のつもりですか店長……」

「我が血肉となって生きよ、羊!」


 羊を貫き、内臓を引きずり出す。


「店、長……。何、で……」

「言った筈だ、お前のそれは接客ではないと。そのままではお前は独りよがりなただの羊でしかないと」


 そして引きずり出された内臓をツキノワグマは食べ、それが終わったと同時に羊は息絶えた。

 それを見ていた達也は


「――エルナ、俺はどうしたらいいと思う?」

『ごめん、私も分かんない!』


 どうすればいいか分からずエルナに尋ねてしまった。だって達也からすれば正直どうすればいいか分からないから。


「俺はどうしたらいい!? 答えろ、答えてみろルドガー!!」

『落ち着いて、気持ちは分かるけど』


 混乱の余り、誰かも分からない人間にまで問いかけている達也。

 そんな達也の心など無視し、ツキノワグマは戦闘態勢に入る。


「さあやろうかお客様、ここが貴様の墓場だ!」

「へっ、マタギの真似事やるとは思わなかったぜ」


 それを見て達也もまた持っているピアニカを構え、戦闘態勢に入る。

 しばらく静寂が続き、最初に動いたのはツキノワグマだった。

 ヒグマとは思えない俊敏さで達也に近づいていったかと思うと、いつの間にかツキノワグマは達也の背後を取っていた。


「ラ○ィッツみたいな事しやがって……っ!」


 背後を取られた達也はとっさに後ろを向き、ピアニカをツキノワグマの攻撃に付きだすことで盾にした。

 しかし、ツキノワグマの攻撃は凄まじく、防いでもなお達也は吹き飛ばされる。それでも達也は宙返りをすることで体制を整え、着地することに成功した。


「やるじゃねえか。だったらこうだ」


 そう言って達也はさっきとは違う構えをしたかと思うと、目を閉じた。

 それがなにを意味するかを見ているエルナは理解できなかったが、ネストールとツキノワグマは瞬時に理解する。


『カウンター狙いか』

「目に頼らず空気の流れや気配を感知しようというのか、面白い!」


 ヒグマからすれば達也の行動は挑発としか思えない。何故ならカウンター狙いに徹すれば自分の攻撃を防げると宣言したも同じだから。

 だがこのツキノワグマに待ちの戦術は存在しなかった。ツキノワグマは挑発に乗り攻撃を仕掛ける。

 と言っても愚直な攻撃はしない。ツキノワグマは達也の前後左右を走り回り、気配を感知させまいとする。

 そしてツキノワグマは動きを一瞬だけ留めた後、本命を仕掛けた。それは――


「上か!」


 頭上からの奇襲攻撃だった。

 前後左右を走り回り地上戦を意識させる、しかし本命は空中戦。それを見事だと達也は思う。

 しかし達也は後ろに跳んで回避する。


「何!?」


 一方、躱されたツキノワグマは攻撃を止めることも出来ず腕を地面に突き刺した。それを慌てて引き抜くも一瞬の隙が生まれる。

 そしてその一瞬で


「きさ、ま……!」


 達也は腕を切り落とす。しかし達也は不満気だ。


「ちっ、首落としてやるつもりだったのに」

「お客様、貴様本当に人間か……?」

「人間以外の何に見えるんだ俺が」

「実は人型のツキノワグマだったりしないか?」

『凄く矛盾したこと言い出した!』

「しないな」


 そこで達也はピアニカを懐に入れ、


『どうやって入ってるのそれ!?』


 ツキノワグマに問いかける。


「それはそれとしてどうする。降参するか? 今なら命だけは見逃してあげなくもないこともないこともないぜ?」

『どっちなの?』

「悪いが断る。お客様に腕を斬りおとされるなどツキノワグマの恥!」

『そして冷静に考えると、このツキノワグマなんか凄い言葉使ってる気がする』


 達也の問いにツキノワグマは否で返す。


「そしてこの恥は、お客様への勝利でのみ雪ぐことが出来る!」


 そう叫び、ツキノワグマは達也に飛びかかろうとする。それを見た達也は悲しげな表情をした。

 その意味をツキノワグマは理解できない。

 そして次の瞬間、ツキノワグマは触手に囚われた。


「な、何だこれは!?」


 どこから出てきたか分からない触手に困惑した様子を見せるツキノワグマ。それに答えたのは達也だ。


「その答えは俺が教えてやろう。俺はお前の攻撃を躱した瞬間、誰にも気づかれないように納豆をまき散らしたのさ」

「まき散らしたから何だというのだ!?」


 達也は問いに答えるが、その答えはツキノワグマにとって理解不能だ。だからツキノワグマは誰の目にも見えるほどに怒りと戸惑いを見せている。

 だが達也はそんなツキノワグマに怯むこと無く淡々と語り続ける。


「納豆は触手に進化する、ここの特殊な土壌でな」

「何……だと……!?」

『ここ土無いよ!?』


 達也の語った内容にツキノワグマとエルナは驚いた声をあげる。しかしツキノワグマはこの状況を受け入れ、打破しようともがく。


「ふん、理論は意味不明だが要は我を縛るこの触手を力技で外せばいい話!」

「無駄だ、その触手は一度囚われると吉田沙保里ですら外すことは出来ない」

「くっ……、ならば我に外せる道理は無いか……」

『なんか話の流れおかしくなかった今!?』


 だが達也はそんなツキノワグマの心をへし折った。そして抵抗を諦めたツキノワグマは言う。


「お客様、介錯を頼む」

「いいだろう」


 ツキノワグマの願いを達也は受け入れ、懐からピアニカを取り出し構える。そんな達也を見てツキノワグマは満足気な表情を見せた後、叫ぶ。


「お客様よ、我が屍を乗り越え先に進め!」

「お客様じゃない鈴木達也だ!」

『今名乗るの!?』


 達也はツキノワグマを斬る。

 そして斬った感触が手から消え、余韻に浸り終えた後達也は思わずエルナにこう問いかけてた。


「なあエルナ、何で四天王二人目でこんな展開になってんの?」

『知らないよ私に言われても!』


 一方、ツキノワグマの最期を見たネストールはこんな言葉を叫んだ。


『忘れぬぞ私の友ヒグマ店長よ、ジンギスカンならともかく熊料理はした事ないから作れないが!』

『そしてさっきから何で食べようとするの仲間を!?』



 ◆



 達也は1階と同じように2階の開きつつある壁を蹴破り、同じように矢印を頼りに走り、同じような部屋に到着した。

 そこに待ち構えていたのは恐るべき存在だった。


「「「待ちかねたぞ鈴木達也!」」」

「てめえらが次の四天王か」

「そうだ、俺の名前は牛丼のギュー・ドン!」

「あたしは生卵のたまこ!」

「うちは刻みネギのネギ美や!」

『牛丼とそのトッピング!? 恐ろしくリアクションが出来ないよこれ!』


 そこに居たのは牛丼と生卵、そしてネギという恐ろしくリアクションに困る集団だった。


『食材は集団でいいの!? それともこんな疑問を持つわたしがおかしいの!?』

「「「さあ、俺達の劇を見ていけ!」」」

『劇!?』

「え、これ見なきゃダメ?」



揺れる恋心はまるでまな板の上の鯉みたいに

第1話 恋の始まり


『すごい唐突に始まった! というか何そのタイトル!?』


 いっけなーい、遅刻遅刻~。と考えながら走るのはあたしたまこ。今日は日直だからいつもより早く出なきゃいけないのを忘れてた~。


「きゃっ」


 そんなこと考えながら走ってたら誰かにぶつかって倒れちゃった。ぶつかった人に謝らなきゃ、そう思ってぶつかった相手を見る。するとそこには牛丼が居た。見ない顔、下級生かな? そう思っていたら


「いってえなあ、気を付けろよ白色女」

「し、白色女ですって!?」


 いきなり侮辱された。

 しかもそれは、あたしが言われたくない言葉上位30位に入る位嫌な言葉なのに酷い! そりゃぶつかったあたしも悪かったけど!


「ってこんなことしてる場合じゃねえな。じゃあな、せいぜいもう会わないことを祈っておくぜ」

「そ、そんなのこっちの台詞よ!」


 何なのアイツ、すっごい腹立つんだけど。ってあたしもそんなこと言ってる場合じゃない!こうしてあたしは走って学校まで行き、何とか間に合った。

 そして朝のホームルーム。いつもと変わらないネギ美先生の話が始まると思っていた。しかし、


「今日は転校生を紹介するで」


 転校生? 一体どんな子だろう? 仲良くできると良いな。そう思って転校生を見るとそこに居たのは――


「えっと、私立丼物高校から転校してきました、ギュー・ドンです。よろしくお願いします」

「あ、あの時の!」

「てめえは態度の悪かった白色女!」


 朝にぶつかった牛丼! 転校生がこいつなんて最悪!


「なんやお前ら知り合いやったんか。なら丁度ええわ、ギュー・ドン君が座る席はたまこの隣や」

「マジかよ」

「ちょ、ちょっとネギ美先生!」


 あたしが先生を呼ぼうとするも、先生はさっさと出て行ってしまった。そしてやってくるのは牛丼。その顔には嫌々ですと大きく書いてある。


「けっ」

「フン」


 これが、あたしとギュー・ドンの最初の出会い。第一印象は最悪だった。

 でもこの時は知らなかったの、この出会いが後にあんなことになるなんて……。

                                          第1話 終



「どうだ!」


 それが、第1話を終えた後に最初に出たギュー・ドンの発言だった。その言葉を聞いてエルナは思わず達也に聞く。


『ねえ達也、これどう反応すれば正解なの?』

「世の中には確実な正解が無い事柄なんていくつもある、という事を教わったと思っとけばいいんじゃね? 俺も分かんないし」

『そう……』


 そして達也はエルナの質問に答えることは出来なかった。だがそれをエルナは気にしない、というか出来ない。

 そこにネストールが得意気な顔で話しかけてくる。


『どうだ、我らが誇る劇団牛丼一座は』

「脚本のベタベタな感じが、俳優のシュールさで全部塗りつぶされてリアクションに困る」

『そうか、私もそう思う』

『思ってるんだ!? じゃああの得意気な顔は何!?』

『意味は無い』


 ネストールの呆れた様な声に最初の得意げな態度は無い。それを見てギュー・ドンは慌てたように宣言する。


「もう脚本がベタなんて言わせませんよネストール様!」

『脚本だけが問題じゃないと思うな、私』

「「「さあ、最終話の始まりだ!」」」

『もう最終話か』



最終話 惑星ギャラクシア崩壊によるリモートコントローラー星の怒り


『どういう事これ!? 何かいきなり宇宙戦争始まってるけど!?』


 その後、あたしとギュー・ドンはネギ美先生の死を経たものの何やかんやで恋人になり、そして卒業と同時に結婚した。

 しかし結婚から数か月後、あたし達二人は自分達がこの星の生物じゃないということを知った。ギュー・ドンは20年前に滅んだ惑星ギャラクシア出身の王子、あたしは別に滅んでいないリモートコントローラー星の一般市民だった。それを


あたし達は忘れていたの。

 でも、それを思い出したらあたしは戦わなきゃいけない。だって惑星ギャラクシアの住人はリモートコントローラー星に侵略戦争を仕掛けてきたのだから。


「だから死んでよギュー・ドン、ううんギュー君!」


 あたしはギュー君にM61バルカンを突き付けて叫ぶ。

 だけどギュー君は武器も持たずあたしに語りかけてきた。


「嫌だ、俺はお前と戦いたくない」

「でもギュー君、あたし達は敵同士なのよ!」

「だったら、俺はこの戦いを終わらせてみせる!」


 ギュー君が語るのは夢物語。普段から将来はギタリストになりたいって言ってたギュー君らしいけど、今そんなこと聞きたくない。


「ふざけないでよ! あたしのパパと親戚の成金と、妹の友人の姉にたかってたヒモ男が死んだのはギャラクシアが起こした戦争のせいなのよ!」


 あたしの言葉に何を思ったのか、ギュ―君はこんなことを言ってきた。


「そうか……。なあたまこ、俺が憎いか?」

「当たり前でしょ!」

 ギュー君の疑問にあたしは即答する。あたしのパパはいつも優しかった。親戚の成金は会う度会社員の年収レベルのお小遣いをくれた。そして妹の友人の姉にたかってたヒモ男は、あたしが昔よく書いてたイラストのモデルになってくれた


 そんなあたしの叫びを聞いたギュー君は笑顔でこう告げる。


「だったら俺を殺せばいい。その銃なら楽勝さ」

「お望み通りにしてあげる!」


 あたしはバルカン砲を撃った。一心不乱に撃った。ギュー君の原型が残らなくなるまで撃った。そして弾切れになり、あたしはようやくギュー君を殺したことを理解した。


「はぁ……はぁ……」


 だけどどうして? あんなに憎いと思っていた惑星ギャラクシアの王子を殺したのにあたしの心はちっとも晴れない。

 ううん、本当は分かってる。あたしは惑星ギャラクシアの王子を心底憎んでいたけど、同じ位ギュー君を愛していたんだって。


「う、うわあああああああああああああああん!」


 あたしは泣いた。だけどこれは仇を討てた喜びの涙じゃない。

 それは愛する物を失った、悲しみの涙。

                                          最終話 終



「どうだ?」


 それが、最終話が終わった直後にギュー・ドンが言った言葉だった。その言葉に達也とエルナ、そしてネストールの三人は無表情で答える。


「これ見た時間返せ」

『展開唐突過ぎて意味分かんない』

『何でネギ美を殺した!? 言え!』

「まさかの総スカン!?」


 三人から受けた批判に驚くギュー・ドン、その反応を見て達也は腹立たしさを覚えこう告げた。


「じゃあ、もう死んでくれ」


 それだけ告げると達也は箸と七味唐辛子を召喚し、ギュー・ドンに近づく。そして七味唐辛子を少量掛け、箸でギュー・ドンを食べ始めた。


「ど、どうして俺を食べる!?」

「料理だからさ」

「や、やめろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ギュー・ドンの悲鳴を聞きながら達也は完食した。そして達也はネストールに問う。


「なあ、今のなんだったんだ?」


 その言葉にネストールは重々しく答えた。


『スーパーボウルを知っているか? 一応言っておくが玩具ではないぞ』

「知ってるさ、アメフトの大会だろ」

『その大会のハーフタイム中に、ショーとして有名歌手が招待されミニコンサートが行われる事は?』

「知ってるぜ、マイケル・ジャクソンとか来た事あるんだろ?」


 今一つネストールが何を言いたいのか分からない達也は質問に素直に答える。

 しかしその疑問はすぐに晴れた。


『今の劇は、我等の戦いのハーフタイムショーだと思え!!』

「思えるか!?」

『要するにこの状況じゃ意味のない時間だよねそれ!?』


 ネストールの答えを聞いた達也は、怒りながら開きかけの壁を蹴破り先に進もうとする。しかし、その直前でネギ美に呼び止められる。


「なんでや! なんでうちとたまこを食わへんねん!」


 ネギ美の叫びにさっきのやりとの苛立ちのおかげで何も答えない達也。しかしネギ美の言葉は続く。


「まさかうちらが女やから食わへんのか!?」


 だが、その後に続けて出た言葉に達也は何とか答えることが出来た。


「俺は牛丼には、七味だけ掛けるって決めてんだよ」

「そうやったんか……」


 その言葉に返事すること無く、達也は走り出した。


『さっきから何なの、この会話?』


 エルナの疑問を置き去りにして。



 ◆



「カットカットカットォ! 細かい所は全部カットォ!」

『達也のテンションがよく分からない事になってる……』

『茶番を見せられてイライラしているのだろう』

『茶番を見せる相手を斡旋したのはそっちだよね!?』


 達也はテンションをやたらとハイにしながら順路を進み、大部屋に辿り着く。そこは今までと同じような大きさだったが1つだけ大きな違いがあった。

 暗闇だ。電気の1つもつけず真っ暗で何も見えない。


「何にも見えんな、ヤ○ンでも居るのか? そしてここで戦ったら俺のダメージが魔人○ウ復活のエネルギーになるのか?」


 そう達也が呟いた所で、部屋の中心にいきなりスポットライトが照らされる。そこには達也とエルナも見知った集団が居た。


「女子小学生に欲情するのは平和の証! 性癖レッド!」

「年を積み重ねての女、若さに価値など無い! 性癖グリーン!」

「大きさなどどうでもいい、尻は形が重要だ! 性癖レッド!」

「女が女を好きになって何が悪いの! 性癖レッド!」

「妹じゃなきゃ勃たない! 性癖グリーン!」

「「「「「5人揃って、性癖戦隊スキナンジャー!」」」」」


 その集団とは、スキナンジャーだった。


「いや、お前らかよ。微妙に名乗り口上変えてんじゃねえ」


 それに対し達也は冷たく返す。達也からすれば半日も経たず再戦を申し込まれてもテンションは上がらない。

 だがそんな達也を見て、尻フェチレッドは強気に言い放つ。


「いいのか、そんな態度を取って? こちらはあの時より強い戦力を出せるのだぞ」

「ほう、どうやって?」


 あの時は全力じゃなかったのか、そう思いちょっと警戒度を上げる達也。それを見た尻フェチレッドはやはり強気にこう言った。


「あの時は3人合体だったが、今回は5人合体だ! 戦力が40%増加するぞ!」

『微妙……』

「早速合体だ!」

「「「「了解!!」」」」


 エルナのコメントを受け流し、スキナンジャーは戦闘開始直後に合体を始める。


「不労の心を胸に!」

「己の性癖を正義と信じて!」

「どんな敵にも立ち向かう為に!」

「信じる正義を貫く為に!」

「今こそ1つに!」

「「「「「合体!」」」」」


 そして合体が終わり現れたのは、色配分が赤と緑で3:2になっているやはり微妙な色配色の戦士。だが威圧感も40%増加している、と達也は感じた。


「我は無銘の合体戦士! さあ――」

「必殺!」


 行くぞ、と無銘が続けようとした瞬間達也は、スピア・ザ・スペースシャトルを呼び出し無銘の眼前まで一気に飛び込む。


「シャトル・ザ・レインボー!」


 そして必殺技を顎に叩きこみ、無銘に何をさせることも無く気絶させた。

 倒れ伏す無銘を見て達也は一言。


「ふん、再生怪人如きに尺取ってられるかよ」


 そして達也は部屋の壁を何枚か適当に蹴り飛ばし、奥に通路がある場所を見つけると迷わず飛び込んでひた走る。その姿はまるでセリヌンティウスを処刑させまいと走るメロスのようだ。

 それを見ているネストールは小声でこう呟く。


『来ると良い鈴木達也君、私は君を待っている』


 達也はその言葉に対し何も反応すること無く走り続けた。そして10分後。


「長いわああああああああああああああああ!」


 達也はネストールの居る場所にまだ着かなかった。その事に達也は思わず怒り叫ぶ。

 それを見たネストールは当然の如く言い放った。


『ラスボス前の通路が長いのはお約束だろう?』

「知るかああああああああああああああああ!」


 それは達也の魂の叫びだった。

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