第3話 Life is SHOW TIME(前編)
その後、達也が朱莉の元へ戻ると彼女から、悪魔みたいな羽生やして空を飛ぶコスプレイヤーの少女が残ったスキナンジャー4人を連れ去った事を知った。
「悪かったわね、周辺の人間をシュールストレミングを使って人質に取られたら太刀打ち出来る相手じゃなかったわ」
「別に気にしてないっすよ。どうやらあいつら、俺に用があるみたいなんで」
そう言って達也はメッセンジャーの少女が持ってきた紙を見せ、この場にいけばエルナに会える事を伝える。それを聞いた朱莉は微妙な表情を見せながら達也に尋ねる。
「一応聞くけど、行くの?」
「ええ、まあ」
「じゃあいってらっしゃい、あたしは事務所留守番してるから」
「助かります。こういうのは俺一人の方がやりやすいっすからね」
「駄目でも生きて帰ってきなさい。ラーメン屋で慰めてあげるから」
「ラーメン屋で……?」
何故ラーメン屋なのか、そんな疑問が胸に残ったが達也は紙に書かれた住所に向かう。
そして時は午後2時、達也は指定の場所に到着する。
「指定の場所はここか。生まれも育ちもこの町だけど始めて来るなこんな所」
そこは町の外れ、何か用事でもなければ絶対来る事の無い、そんな場所にあるビルだった。
「時間ぴったりですね、鈴木達也さん」
すると達也の頭上から声がした。達也がその方向を向くと、そこにはメッセンジャーを名乗った少女が居る。
「コスプレイヤーのメッセンジャー……」
「まだその認識なんですか、コスプレじゃありませんよ。というか何を思ったら空飛んでる相手にそんな事言えるんですか」
「頑張れば人は空を飛べるさ」
「飛べませんけど!?」
「俺の友達は飛んだぞ、1分30秒程」
「長いのか短いのか分からない!」
「だからお前も、な?」
「な? じゃありませんよ! 私が空を飛べるのは組織のおかげであって、そんな頑張ったからとかじゃありませんから!」
「それよりエルナは何処だ」
「急に本題に入らないでくれませんか!?」
「いいからさっさとしろメッセンジャー」
「……私の事はグローズとでも呼んでください。ではあちらをどうぞ」
名乗りながら疲れ切った様子を見せるグローズは、ある場所を指差す。達也はその場所を見るがそこには何もない。しかし突然光が発せられ、その光が止んだと思ったらそこには2つの人影があった。1つはタキシードを身に纏ったチョビ髭の男、そしてもう1つは銀髪の巨乳美少女エルナだった。
「エルナ!」
『達也、助けに来てくれたの!?』
「言ったろ、信じていいってさ」
達也はそう言いながらエルナに近づく。しかしエルナにある程度近づいた所で彼は気づいた。これは実体じゃない、と。
「このエルナとおっさんはホログラムか……」
『いかにも』
達也が正体を口にするとチョビ髭の男が返事をする。
『後私はおっさんでは無い!』
『意外と言う事がみみっちい……』
『我が名は――』
「君の○は――」
『ネストール・ボス! 24世紀から来た科学者にして、この組織の総帥だ!』
ネストールが名乗ると、達也は何故かいきなりうつむく。
『どうしたの?』
エルナが心配して問いかけると、達也は小さくこう呟く。
「24世紀にも無くなってないのか、キラキラネームは……」
『今それ重要!?』
『一応言っておく、これはリングネームだ! 本名では無い!!』
『リングネーム!? 科学者なのに!?』
『24世紀では当たり前だ』
『どういう事なの……』
「すげえ、24世紀の情景が全く想像できねえ」
「さっきから何なんですかこれは!?」
達也とネストールの2人がボケ倒すカオスな光景。そんな光景に耐えられなくなったグローズは吠え、達也に掴みかかった。
「鈴木達也さん、あなた何がしたいんですか!?」
「ふざけたい、ただ全身全霊でボケ続けたい。そして可愛い女の子とイチャイチャヌチョヌチョしたい、それだけが俺の望みだ」
『というか達也に掴みかかるのおかしくない?』
「鈴木達也をツッコミにするな、ボケを殺すな。この2つだけは守って欲しい」
「知りませんよ!」
達也の理不尽なのかどうかすらよく分からない要求に、どうしていいか分からないグローズ。一方、ネストールは楽しげに達也を見ていた。
『ハッハッハッ、面白い男だ。彼なら我らに協力してくれるかもしれんな』
「いや、私はボスにも言いたいことがありますが」
「協力だと?」
グローズの言動を無視し、ネストールの協力という言葉に疑問を覚える達也。自らの組織の人員を打ち倒し、敵対しているはずの男に一体何を求めると言うのか。
その答えはネストール自身から語られる。
『まず始めに鈴木達也君、君は我が組織についてどの程度知っている?』
「――いや、何も知らない。今日初めて遭遇したばっかだし」
「ですよね」
『そうか、ならば我が組織の目的から語ろう』
「目的か」
エルナを監禁したり、スキナンジャーという馬鹿1色の集団を従えていたり、空を自在に飛びコスプレしてツッコミを入れてくるメッセンジャーが居たり、とカラーが全く見えないこの組織の目的は一体何なのか達也は気になっていた。
『我が組織の目的はただ一つ、理想の恋人を自在に作り出す権利を世界に認めさせる事だ』
「ごめん、ちょっと意味分かんない」
達也は余りにも予想外なネストールの言動に理解が追いつかなかった。そんな達也に呆れた様な素振りを見せつつも、ネストールは得意気に語る。
『私は子供の頃ずっと疑問だった。何故一生を誓い合った相手と結婚したにも関わらず、不倫や離婚をする輩が居るのだろうと。そして大人になり気付いた、それは相手が理想で無くなかったからだと』
「理想、ね……」
そんな事は無いんじゃないか、達也はそう言おうとしたが自分の恋愛経験を考えてやめた。達也には恋をした経験はあれど彼女が出来た事は無いのだから。
だが達也の思いなど知るはずも無く、ネストールの話は続く。
『だから私は人工生命、ホムンクルスの研究をしようと思った。理想が決して破れない、そんな恋人と結婚すれば離婚問題や不倫は無くなるのではないかと思った。そしてそれが叶えばいずれ世界は平和になると』
「なんて迂遠な世界平和」
『いや、世界平和関係ないと思う』
達也とエルナのツッコミを尻目にネストールは語る。しかし、次の瞬間さっきまでの得意気な態度は消え失せその顔には憤怒を浮かばせた。
『しかし愚かな人類は決して私の研究を認めようとしなかった。私の研究が完成する以前から、やれ倫理観だの神への冒涜だのと下らぬ事ばかりほざく』
ネストールは語りながら過去を思い出しているのか、どんどん表情が恐ろしくなる。しかし、そんな事には気付かないネストールの話は続く。
『そんなどうでもいい事よりも晩婚化や少子高齢化を解決する方が大事だ! そうは思わないか鈴木達也君?』
「お、おう。そうだな」
『完全にテンションについて行けて無いじゃん』
『いや私も最初は愚かな奴らを説得しようとしたのだよ。しかしあいつらは聞く耳を持たなかった』
「説得ってどんな風にだよ?」
そこでネストールは、待ってましたと言わんばかりの態度で達也にその時言った言葉を話す。
『まず倫理道徳という言葉を思い浮かべる。そしてこう唱えるんだ、存在しないと。私はそう言ったのだが』
「なめてんのか」
達也は目の前に居るネストールが映像で、殴り飛ばせないという事実が心底腹立たしくなった。そんな達也の怒りを知る由もないネストールは楽しげな表情で語りかける。
『そういう訳で協力してくれないか』
『何がどう「そういう訳」なのかさっぱり分からない!』
「どうしろと言うんだ俺に」
ホムンクルス製造に俺の力をどう使うというんだ、達也はそう思い実際に聞く。すると帰ってきた答えは意外なものだった。
『いや、君の力を借りて私は24世紀の世界を武力制圧したい』
『ちょっと待って!?』
「すげえ回答が返ってきた」
今度は物騒な回答が返ってきて達也は困惑した。というかネストールと話していて予想外じゃ無かったことが今の所無い。
『私がこの時代に居る理由は、21世紀なら愚かなあいつらの魔の手も伸びないだろうと考えたからだ。そし望んだ世界を造る為、この時代で愚か者どもを抹殺する戦力を造っていたのだ。そして私は見つけた、最強の力を』
『色々言いたいけど、正義サイドは抹殺なんて言葉使わないって!』
『私は使う!』
『力強く言い切られた!』
目の前のやり取りに達也は多少呆れつつ、それでもネストールに話しかけた。
「ネストール、話は分かった。いや正直関わりたくないというか、俺を巻き込まなければ勝手にやってくれとしか言い様が無い。無いんだが、いくつか聞かせてほしい」
『質問に答えよう、何かね?』
そこで達也は目を真剣な物にして尋ねる。
「まず1つ目、お前にとってエルナは何だ?」
『私が作り出した全年齢対象ハニートラップ用ホムンクルス、と言ったらどうする?』
『――え?』
ホムンクルス、ネストールが言ったその言葉にエルナは茫然となる。一方、達也はその言葉をなんでも無い事のように受け止めた。
「いや、別にどうもしないけど」
『どうもしないの!? 私結構ショック受けてるのに!?』
達也の軽さに思わずツッコミを入れるエルナ。そこにさっきまでの茫然とした姿は欠片も無い。
「だって顔可愛いし、おっぱい大きいし。なおかつ性格良い上に、キレのあるツッコミまで入れてくれるんだぜ! それを思えばホムンクルスであることなんて障害になるわけねえだろ!!」
『なかなか言う男だな』
「表面的な部分しか見ていないように見えますけど」
達也の力強い宣言に感心するネストールと、内容に冷たい反応を示すグローズ。
そんな彼女に達也は「出会って半日も経ってないから勘弁しろ!」と言いながら殴り飛ばした後、エルナの方を向く。
「何で私殴られたんですか!?」
「エルナ」
『達也……。その、えっと……』
「ホムンクルスの事なら気にしなくてもいい。俺も所長も他の奴も気になんかしない。もしする奴がいても殺す」
『殺す!?』
「だからゆっくりその事実を飲み込めばいいさ。時間なら作る、ネストールとかいうイカレたマッドサイエンティストぶっ殺してな」
『ごめん、正直今達也の殺人への躊躇の無さの方にビックリしてそれ所じゃ無い!』
「そいつは良かった」
『良い事なの!? これ良い事なの!?』
「勿論良い!」
『さっきから力強い断言の連続! 何であっちもこっちも自分の言い分に迷いが無いの!?』
『「それが生きるという事だから」』
『何かハモってきた!』
そのエルナの言葉を聞いて、達也とエストールは恥ずかしかったのか無言で睨み合う。しかしいつまでもこうしてるのはアホらしいと思った達也は睨むのをやめ、ネストールに宣言する。
「まあそういう訳だ。エルナはこれからはこの町、貌巣町で暮らす事になったぜ」
『私この町の名前初めて聞いた気がする……』
「あれそうだっけ?」
しかし締まらない。
一方、その宣言を聞いたネストールは楽しげに笑う。
『フハハハハ、まさか生みの親であるこの私の前で駆け落ち宣言とはやってくれるな!』
「娘さんを下さい」
『いやそうじゃないと思うな、私!』
『いいだろう、この私に勝てたらな! ただし私と戦う前に四天王と戦ってもらおうか!』
「四天王?」
ネストールの口から出た四天王という、なんだか科学者らしくない単語に困惑する達也。
『そう、私が武力制圧の為に生み出した、スキナンジャーやグローズと同じ改造人間。その中でもエリートを集めたベスト4だ!』
『今さらっと凄いこと言った!』
「改造人間だったのかあいつら……、PTAとかからクレーム来ないだろうな……」
衝撃と言うには微妙な真実にちょっと驚く達也とエルナ。そんな二人を無視してネストールのテンションは高い。
『その四天王と私を倒せばエルナは君にやろう。ただし』
「ただし君?」
『誰?』
『私が勝ったらエルナを回収させてもらおう。私の元から逃げ出すというイレギュラー、なぜ起きたか解剖して調べねばな』
「ふざけた事言ってくれるぜ……!」
『そして鈴木達也、君は私が洗脳して戦闘兵器になってもらう』
「そんな、俺に乱暴するつもりだろ。エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!」
『何で自分の時だけそんな対応なの!?』
『お望みとあらばそうしてやろうか、グローズが』
「私ですか!?」
「というか居たのか、お前」
「ずっと居ましたけど!?」
『私も忘れていた。まあそれはともかくグローズ、お前はこっちに戻れ』
「いや戻るのは構いませんけど、なんであなたまで忘れているのですか!?」
『「それが生きるという事だから」』
「そのくだりはもう結構です!」
『というか何の関係も無いじゃん……』
こうして最終決戦は始まった。
◆
「では私はこれで失礼します」
そう言ってグローズが空を飛び、ビルの屋上へ向かっていった。それを見た達也が、俺も同じ方法使っちゃ駄目かな、と考えるもののそれをするとエルナの身が危なそうなので、おとなしくビルに入る事にした。
「何か普通……」
それが、達也がビルに入って最初にした発言だった。
ビルの中はエルナから聞いていたラ○ブ・ア・ラ○ブのSF編のステージみたいな感じではなく、コンクリートむき出しのビルだった。その事に達也は若干がっかりする。
「未来的な感じ、興味あったんだけどな」
そう呟きながら適当に歩き回ろうとすると、達也は壁に矢印と順路と書かれた紙がある事に気づいた。
「あ、これ追って行けって事か? 何かどうでもいい所親切だな。でもダンジョンでこういう道しるべに従って進んだら、道中の宝箱取り逃しそうで嫌なんだけどな」
『ゲーム脳で行動するのはやめてもらおうか』
達也が矢印に従わず進もうとした所で、ネストールが現れ止めに入った。勿論このネストールは本物では無い、さっきと同じくホログラムだ。
「何か用?」
『君の行動を監視していたらいきなり予想外の方向へ向かっていったのでね、止めに来たのだよ』
「そうか」
『まあせっかくだから、私とエルナ・クンストの二人で君の足掻きっぷりを鑑賞させてもらうとしよう』
『達也、さっき変な事してなかった?』
エルナの疑問、それは恐らく敵本拠地での順路無視についてだろう。だから達也は自信を持ってこう答える。
「いやしてない、21世紀の人類として普通の事しかしてない」
『本当に?』
「イエス! アイアムノーマライズヒューマン!」
『音量を統一する事だよノーマライズって!』
「そうなのか!?」
『知らなかったの!?』
『オホン!』
いつまでも続きそうな達也とエルナの漫才。それを止める為ネストールはわざと大げさな咳払いで注意を引く。
『無駄話はそこまでだ鈴木達也君。さあ、順路通りに進んでもらおうか。もしまた違う道に進むならエルナ君の命は保証しない』
「くっ……、正直予想してた……!」
『だが、彼女の身がカキフライになってもいいなら好き勝手に行動しても構わないよ?』
『カキフライ!?』
「卑劣な真似を……!」
『どうしよう、自分の事なのにテンションについて行けない』
余りにも理不尽な言い分に怒る達也、そしてそれについて行けないエルナ。その二人をネストールはあざ笑いながら告げる。
『さあ進むと良い。私が示した道の通りに!』
「最初から一応そのつもりはあったぜ! だけど一つだけその前に聞いておく」
『何かね』
「トイレに行きたくなった場合はどうする?」
『トイレ!?』
『トイレ休憩は許可しよう』
『許可するんだ!?』
「それだけ聞けば十分だ、足洗って待っていろ!」
『改心してないそれ!?』
達也は決意を込めて叫び、ネストールが示した道を走る。
するとすぐに大きな部屋に辿り着いた。その部屋には電気の他には何もなく、殺風景と言ってもいい部屋だ。
その部屋の中心にはある生物が立っていた。公園などでよく見かける鳥、鳩である。
『普通のハトだね……』
「どこが改造人間なんだ」
『フッ、違うな……』
エルナと達也のツッコミに対し不敵な笑みを浮かべるネストール。その姿に達也とエルナは警戒する。その警戒の中ネストールは二人に問いかけた。
『君達はソロモン72柱を知っているかね?』
『――私は知らない、達也は?』
「俺も名前くらいしか知らねえ」
『そうか、ならばまずその説明からしよう』
ソロモン72柱。それは古代イスラエル王国の名君、ソロモンが使役・封印したと言われる悪魔の事である。低くても侯爵、高ければ王ととても序列が高い悪魔で構成されているのが特徴である。
『さて、そんなソロモン72柱の中にサクスという悪魔が居る。この悪魔は鳩の姿をしているが、どんな男や女からでも視覚や聴覚、理解力を奪い取る事が出来る』
「ま、まさかこのハトも同じ能力を……」
視覚や聴覚、理解力を奪い取る、そんな能力を戦闘中に発動されたら勝ち目は無い。そう思い少し恐怖する達也。
『いや、このハトが持っているのはそのサクスと同じ名前だ!』
『じゃあやっぱりハトだよ! 名前が大仰なだけのただのハトだよ!』
しかしその恐怖はあっさり消え去った。しかしネストールは自信あり気にハトについて語り続ける。
『そんな事は無いさ。仮にもこのハトは私が作った改造人間の一人、ハトの見た目にあやかった特殊能力を持っている』
「ハトなのに改造人間なのか……」
『達也ハトを見て!』
エルナの言葉を聞いて達也は言われた方を見る。するとそこには、息を吸い込み大きく膨らんだハトの姿があった。
達也はなにかある、と直感し能力の発動前に潰そうと駆けだしたのだがその前に
『もう遅い!』
ネストールの叫びと共にハトの口から氷柱が繰り出された。その氷柱は一瞬で達也に命中し、彼は吹き飛ばされ地面に倒れ伏す。
『達也!? というか能力が欠片もハトにあやかってない!!』
『フハハハハ、命までは取らんが君の負けだな鈴木達也!』
「そいつはどうかな?」
しかし達也は立ち上がる。それを見て驚愕する様子を見せるネストール。
『馬鹿な、サクスの氷柱が当たって立ち上がれるなどありえない!』
ネストールは思わず現実を否定する様な叫び声をあげてしまう。
そんなネストールを見て達也は得意気にこう言った。
「ネストール、確かに俺は負けていたかもしれない。だけど俺にはこれがあったのさ。氷柱だって防ぐぜ、そう、iph○neならね」
『iph○ne凄っ!』
そう、達也は咄嗟に持っていたiph○neを氷柱の前に出したのだ。そのお蔭で吹き飛ばされた物の、ダメージを大きく防ぐ事が出来た。
『ならばもう一度だサクス! いくらiph○neでも二度は防げまい!』
「させねえ! 必殺、iph○ne手裏剣!」
ハトがもう一度息を吸い込み、氷柱を繰り出す前に達也はiph○neを回転させて投げる。そのiph○neは凄まじい速度でハトに迫り、見事にハトを首を刈り取った。そしてiph○neは壁に突き刺さった。
「恐ろしい敵だった、鳥で氷使いとか格ゲーだったら使用禁止レベルの強キャラだぜ……」
『どういう事なの……』
『馬鹿な……、サクスが一撃でやられるとは……!』
「防御低くて助かった。これで防御力まであったら完全凶キャラだよ」
『何か達也だけ完全に別の視点で話してない?』
「ソンナコトナイヨー」
『何で棒読み?』
「それよりネストール、俺これからどっち行けばいいんだ。順路書いてねえぞ」
達也は次に行くべき道を探したが見つからない。その為ネストールに呼びかけるのだが、呼びかけられた方は聞いちゃいなかった。
『我が友サクスよ。私はお前をエジプト料理、ハマーム・マフシーにして弔うからな』
『友人調理しちゃうの!?』
「弔う気ゼロだろお前」
『私が食べるから美味しくなるんだぞ……』
『しかも食べるのネストールなの!?』
我が友と呼んだ相手を容赦なく食べようとするネストールの思考回路に、達也とエルナからすれば理解不能である。しかしネストールは、そんな二人を無視して話を進める。
『まあそれはそれとして。見事だ鈴木達也君、我が友サクスを倒すとは』
『このテンションの切り替えが私怖い』
「何この新感覚な狂人」
『さあ進むがいい、破滅へのロードを!』
ネストールが叫び、力強く指を指すと、その方向にある壁が開かれていく。一方、達也とエルナはその光景を見ず二人で喋っていた。
「俺だんだんこいつの事よく分かんなくなってきた」
『私は最初からよく分からないよ』
『人の話を聞け! さもなくばエルナ・クンストを甘納豆にしても構わないのだぞ!』
『甘納豆!? 何で私さっきから食べ物にすると脅されてるの!?』
「この、クズ野郎がああああああ!!」
『物凄いマジ切れしてる! 私、達也は信じるって決めたけどよく分からなさはネストールと大差ないよ!!』
『「それが生きるという事だから」』
『もういいよそれは、3回目じゃん!!』
などという一幕もあったものの、達也とエルナはちゃんと本題に戻る。
達也は壁に刺さったままのiph○neを回収した後、徐々に開きつつある壁を蹴り破って人が通れるだけのスペースを作り、そこにある道を駆けて行った。




