第2話 Wild Challengerなあいつら(後編)
その後、達也と朱莉はスキナンジャーの5人をロープで縛りながら、エルナにお昼ご飯を買いに行くように頼む。エルナがそれを受けてコンビニでお昼ご飯を買い数分後、二人の元に戻る。その時エルナは衝撃的な光景を目撃した。それは――
「さあ吐きなさい! アンタらの組織のアジトは何処!」
「屈しない……! 私はこんな責めに屈しない……!」
普通に縛られたスキナンジャーのビアンレッド以外の4人。それと亀甲縛りをされ、三角木馬に座らせられるビアンレッド。そして彼女の首元を掴み詰問する朱莉。その横でピアニカを使い、童謡のふるさとを演奏する達也。そして何故か周りにはパイナップルが置かれている、そんな光景だった。
その光景を見たエルナは思わず達也に詰め寄る。
「ちょっと達也、どういう状況なのこれ!?」
エルナの質問に対し、達也はエーデルワイスの高いパートを微妙な陽気で演奏することにより答える。
「それ意思表示なの!?」
「うん、そうだけど」
「普通に喋った!」
達也はあっさり演奏を辞めた。それに対し朱莉が抗議する。
「ちょっと達也、演奏を止めるなって言ったでしょ」
「いや、それ以前にこの演奏に何の意味があるんですか?」
エルナの疑問に、朱莉は真剣な表情で逆にこう質問してきた。
「エルナ、人がシリアスしてるのに横で馬鹿やってる奴が居たらウザイでしょ? 問答無用で斬殺処刑したくなるでしょ? 中世ヨーロッパばりの娯楽対象にしたくなるでしょ? それが人情ってものじゃない」
「いや、流石に処刑したくはなりませんよ」
「そういう事よ」
「どういう事なんですかそれ!? 分からない、神澤さんの言いたい事が何一つ分からない!」
するとそんな事を言ったエルナを見て、達也が補足を加える。
「エルナ、つまり所長はこう言いたいんだ。“この神澤朱莉、容赦せん!”ってな」
「……そうなの?」
「そうだぜ、そうっすよね所長!」
達也は自信満々に朱莉に同意を求める。しかし
「いや全然違うわ」
「違うんだ……」
「何……だと……!?」
全然意思疎通が出来ていなかった。するとエルナの求めている解答は意外な人物からやってきた。
「あなた達の魂胆は分かってるわ……」
それはビアンレッドだった。その言葉にエルナは少し驚くものの何も言わない。
「私に対してこうやって快楽尋問責めする事で、組織の情報を吐かせようとする。更に横で楽しげな音楽を流す事で、私を混乱させて情報を吐き出させやすくするもりでしょう!」
「そうなの!?」
そこで達也は、――覆面を被っているのでよく分からないが、ビアンレッドに睨みつけられた様な気がした。
「でも見くびらないで。いくら貴女が私好みのドS美人だからって私は屈しない! 仲間を、忠誠を誓った組織を、快楽と興奮ごときを理由に捨てたりしない!」
「なかなか根性あるわね、この女」
「好みとか言われてるのは良いんすか……?」
「何かキモい」
「バッサリだ!」
すると、朱莉のキモいという言葉に反応し、いつの間にか目覚めていた尻フェチレッドが怒りの叫びを上げる。
「貴様! 縛られているのは敵対しているから仕方ないとしても我らへの侮辱は許さん!」
その叫びに同じく目覚めていたロリコンレッドと熟女フェチグリーンも続く。
「そうだそうだ! 人を好きになるのは自由のはずだ!」
「性欲を抱くのが悪なら、有性生物は皆悪だ!」
しかし、スキナンジャーの言葉に朱莉は動揺する事無く、諭すように3人に語りかける。
「冷静に考えなさい変態3人」
「誰が変態だ!」
「俺達は普通だ!」
「ただちょっとフェティシズムがあるだけだ!」
「黙ってなさい負け犬共!」
朱莉の容赦のない言葉に押し黙る3人。本当は反論したい、でも出来ない。何故なら事実負け犬だから。
「いい? もう一度言うわ、冷静に考えなさい。――さっきまで敵対していて、別に恋愛の対象にも出来ない、それなのに一方的に発情してくる。そんな相手に好みとか言われて嬉しいのアンタ達は?」
「「「1つ1つ淡々と言われると、気持ち悪がられるのもしょうがない様な気がしてくるのが困る……」」」
スキナンジャー3人は思わず賛同し始める。それを見て朱莉は再び問う。
「で、私の反応にやっぱりケチ付ける?」
「「「いや、やめて置こう」」」
「えぇ――――っ!?」
尻好きレッドとロリコンレッド、熟女フェチグリーンは仲間に対する暴言をしょうがないと受け入れた。その一方、それに対して文句を言う存在もあった。ビアンレッド当人である。
「おかしいでしょ皆、私はただ好みの女性に三角木馬に座らされて、亀甲縛りを受けている現状に興奮してるだけよ。それのどこがおかしいのよ!」
「それをおかしくないと言える事がすでにおかしい!」
エルナのツッコミは常識的だ、と聞いていた達也と朱莉は思う。しかしスキナンジャーにそんな常識は通じない。
「確かに、OLのパンツルックが似合う美女にそんな事されたら興奮が止まらない……」
「俺も、ロリビッチにそんな事されたら興奮で天国まで行けそうな気さえしてくる……」
「未熟な自分に熟した女性からの拘束プレイか……、たまらないな」
ビアンレッドの言葉に全員同意してしまった。
「でしょでしょ?」
その態度を見て、ビアンレッドはテンションを上げて同意を求めてくる。
「つまりは我らは変態……?」
「そんな……」
「嘘だ……」
しかし3人は自分がアブノーマルじゃないかと落ち込んでいた。
それから1分後
「「「「だとしても我等スキナンジャーは、ずっと仲間だ!」」」」
最終的に何故か4人で絆を深めていた。それを見ていたエルナは思わずこんな言葉を口にする。
「馬鹿ばっかり」
「今更だけどな」
「気は済んだ?」
朱莉は苛立った様子を見せていた。彼女としてはこんな話はとっとと終わらせたいのだ。なのに何故か敵の集団が絆を深めている。はっきり言って茶番にしか見えない事を目の前でやられて苛立たない人間はいないだろう。
「という訳で尋問再開」
そう言って朱莉は亀甲縛りされているビアンレッドの紐を引っ張る。
「んっ……。駄目っ、あぁん……!」
それにより、ビアンレッドは喘いでいた。その姿を見て達也は思わず叫んだ。
「その覆面脱げよてめえ!」
「いきなりどうしたの!?」
突然の達也の叫びに思わず動揺するエルナ。すると達也は少々言い辛そうにしながらもエルナの疑問に答える。
「いや、何か覆面の女が喘いでるの見るとさ、救いようのない変態を見てるみたいで嫌なんだよ」
「それを私に言われても……」
その達也の言葉に朱莉はしまった、と思う。
「覆面付けた女を亀甲縛りにしているこんな姿、よく考えたらアタシの評判がやばくなるかも!」
「それはビアンレッドの覆面脱がせた程度で解決する問題なんですか!?」
「するわ!」
朱莉の強い断言に何も言えなくなるエルナ。そんなエルナを尻目に、朱莉はビアンレッドの覆面を剥ぎ取ろうと行動を開始する。
「達也手伝いなさい!」
「イエスマム!」
朱莉の指示に従いビアンレッドの覆面を剥ぎ取ろうとする達也。しかし達也がいくら引っ張っても覆面は剥ぎ取れない。そんな姿を見てビアンレッドはあざ笑う。
「無駄よ。このマスクはそんな事じゃ破れやしない!」
「達也ライター!」
「ラジャー!」
「燃やす気!?」
達也はライターを缶ジュースサモンナイトで取り出し、朱莉に渡す。そして彼女は容赦なくビアンレッドの覆面に火を近づけた。それには流石のビアンレッドも慌てた。
「いや待って、火なんて付かないから。お願いやめて」
「やってみなきゃ分からないわ!」
「待って待って付かないけど私は熱いの! 首火傷しそうなの!」
「体なんて、どうなっても構わないわ!」
「それは自分の身を犠牲にする時の台詞なんじゃ……」
エルナのツッコミを尻目に、朱莉はビアンレッドの覆面を燃やしにかかる。しかし5分程炙っても火は一向に付かなかったので朱莉はあきらめた。
「こうなったら最終手段。達也拳銃!」
「拳銃!?」
「ハイ所長、パイファーツェリスカっす!」
「世界最強の銃!?」
達也から渡されたパイフォーツェリスカを朱莉は受け取り、試しにそこにあったパイナップルに撃ち込む。すると撃ち込まれたパイナップルは爆発四散、粉々になった。それを見た朱莉はビアンレッドにこう告げる。
「これが1分後のアンタの姿よ」
「完全に殺す気だ!」
「流石所長、やる事がえげつねえ」
「外します! このマスク外しますから腕の紐ほどいてください!」
粉々になったパイナップルを見て、怖気づいたビアンレッドは生きる為に懇願する。それを聞いた朱莉は亀甲縛りを解く。
「これでいいでしょ、外しなさい」
「は、はい……」
縛りから解かれたビアンレッドは潔く覆面を取る。そして見えた彼女の素顔は、金色の髪を持ち整った顔立ちの美人だった。その頬は赤みがかっており、興奮していることがよく分かる。
その顔を見た朱莉は思わずビアンレッドの腹に膝を叩きこんでいた。
「何で!?」
「何か、思ったより美人だったからつい……」
しかしビアンレッドは、顔を赤らめたまま顔を朱莉に差し出す。
「何のつもり?」
「右の頬を叩かれたら、左の頬を差し出しなさいって言うじゃない」
「ダメージ受けたのお腹じゃないの?」
ビアンレッドはそう言うが、その顔には『もっといじめて下さい』と書いてあるようにしか見えない、とその場に居た全員は思った。
更にビアンレッドは、さっきまで自分を亀甲縛りしていた紐を朱莉に突きつけ詰め寄り始めた。
「そしてまた私を亀甲縛りすればいいじゃない! そしてお姉様」
「お姉様!?」
「これだけは言っておくわ。私は貴方に恋をした、しかしだからと言って私は組織を裏切れない。居場所のなかった私に活躍の場をくれた人達だから」
「こいつ何言ってんの……」
いつの間にか朱莉とビアンレッドが、まるでロミオとジュリエットの様に許されない敵同士で恋をしたみたいになっている、その光景に達也はドン引きだ。
達也は思わず朱莉に今の心情を聞く。すると明確な答えが返ってきた。
「どうすか今の気分は?」
「恐怖すら感じるわ」
そんな朱莉に目もくれず、ビアンレッドの妄言は続く。
「でもねお姉さま、私は絶対に忘れない。尋問に名を借りたこの愛の鞭を、お姉さまの亀甲縛りを。だから私は――」
しかしビアンレッドの妄言は唐突に終わる事になる。
何故ならば、達也が腹パンを決めたからだ。そして達也は一言。
「彼女は、瑠璃ではない」
「知ってるよ」
その一言が終わると同時にビアンレッドは気絶し、達也は彼女を地面に放り投げた。それを見た朱莉は達也に声をかける。
「助かったわ達也。正直相当やばかった、今まで見た敵の中でベスト20に入る位に酷い敵だったわ」
「これより上が19人この世界に居るという事実に私、戦慄します!」
エルナは戦慄しているが、達也と朱莉はそれを気にする事もなくこれからどうするかを話し合い始める。
「で、これからどうするんすか?」
「そうね、とりあえず次の尋問相手はロリコンレッドか熟女フェチグリーンのどっちかにするわ」
その言葉に苦悶の表情を見せる二人。やがてロリコンレッドは熟女フェチグリーンにこう持ちかけた。
「お前行けよ」
「何?」
ロリコンレッドの言葉に疑問を呈す熟女フェチグリーン、彼には仲間の意図が分からなかった。それを察したのかロリコンレッドは説明し始める。
「今更確認する様な仲じゃないけど、お前熟女好きだろ」
「知っての通りだ」
「だったらお前の領分だろ、あいつは」
「ふざけるな! 貴様はあの女が熟女だと言うのか! いいや違う、あいつは熟女なんかじゃない。私が愛した熟女は、もっと歳を重ねて、だからこそ大きい、そんな女だ!」
ロリコンレッドの言葉に怒る熟女フェチグリーン。
「断じてあの女は熟女ではない! むしろ幼女だ!」
「いや幼女ではないだろ!」
「「目玉おかしいんじゃないかお前、眼科行け!!」」
「2人とも逝け!」
朱莉は言い争う2人を殴り飛ばし、無理矢理気絶させる。
それを見た尻フェチレッドは、こんな事を言い放った。
「ならば自分に尋問するがいい。その形のいい尻を自分の顔面に乗せてな」
「とんでもない注文入れてきた……」
「ここそういう店じゃ無いのだけど」
尻フェチレッドの注文にドン引きするエルナ、冷たく返す朱莉。それを見ながらアイツある意味すげえなあ、と呑気な事を思う達也。三人は完全に油断していた。さっきからずっと一方的に有利な状況が続いていたので、仕方ないと言ってし
まえばそれまでだが。
しかし、この油断が大きなミスを生み出すことになる。
「……えっ?」
達也は何が起きたのか理解できなかった。さっきまで何も無かったはずなのに、隣に居たはずなのに。
「僕が気絶したままだと、本気で思っていたの?」
「お前は、シスコングリーン!?」
いつの間にか最初に倒されたシスコングリーンは目覚め。
「まあ、状況は見ての通りって事で」
「た、助けて達也!」
エルナがシスコングリーンに捕まっていた。その状況に達也と朱莉は驚き叫ぶ。
「「一体いつの間に!?」」
「シスコングリーン、お前何時から起きていたんだ……」
そして驚いているのは尻フェチレッドも同様だった。尻フェチレッドはシスコングリーンに問う。
「何時から、と聞かれたら鈴木達也がピアニカソードでエーデルワイス吹いてた所からですかね」
「かなり最初の方だった!」
「というかお前、どうやって縄解いた!?」
「僕は家庭の都合で妹によく縄で縛られるからね。縄抜け位習得してるのさ」
「どういう事!? 兄が兄なら妹も妹でおかしいよ!!」
「まあこんな兄に迫られたら縄で縛っておきたくなる、とアタシは思うけど」
「じゃ、そういう事で」
エルナのツッコミを無視しつつ、シスコングリーンはエルナを抱えて走り出した。それを見た達也は慌てて追いかけようとする。
「させん!」
しかし、尻フェチレッドが達也を突き飛ばし妨害した。それに達也は怒る。
「てめえ、負け犬の分際で何のつもりだ!?」
「何のつもりだと? 我らの任務は最初からエルナ・クンストの捕縛だ。それを実行し、邪魔者には適切な対処をしたにすぎん」
「こいつ……」
「戦いで勝ったからといって油断したな。お前は我らスキナンジャーより強いが、隙だらけだったという事だ。スキナンジャーだけに」
「クソッたれ! 寒いギャグがひたすらムカツク!!」
「達也!」
焦る達也に呼びかける朱莉。その手には未だパイファーツェリスカが握られている。朱莉は持っている銃を尻フェチレッドに突きつけながらこう言った。
「こいつはあたしが抑えてるからアンタは早く追いかけなさい!」
「了解!」
こうして、達也はシスコングリーンを追いかけ始めるのだった。
◆
達也が走り始めて数分後、彼はシスコングリーンを見失った。
「ここに逃げ込まれると見つけられないからちくしょう!」
シスコングリーンが逃げ込んだのはビルのオフィス街。多数のビルが立ち並び、なおかつ達也にとってあまり土地勘の無い場所という事実が災いし、シスコングリーンを見つけられずにいた。
「クソッ、どうしたらいいんだ!」
「お困りの様ですね」
達也がどうしようもなく喚いていると、どこからか声を掛けられた。達也はとっさに辺りを見渡すが声の主は見えない。
「上ですよ」
「上?」
声の主に従い顔を上に向けると、そこには露出度の高い服装を着て、悪魔の様な翼を生やし空を飛ぶ美少女が居た。達也は少女に問う。
「何だお前、コスプレイヤーか何かか?」
「空を飛んでいる相手に向かってその質問とは……。この町おかしいですね」
「おかしいのは否定しない。で用件は何だ? 今俺はとても忙しい、繁忙期なんだ」
「ええ知っています。なので手早く済ませましょう。私の用事はエルナ・クンストについてです」
「てめえ……!」
少女は敵組織の仲間だった。それに気づき達也はピアニカソードを構えるが、少女は余裕の態度を崩さずこう言った。
「そんなに怖い顔しないで下さいよ。私はただのメッセンジャーですから」
「メッセンジャーだと?」
メッセンジャーという言葉に疑問を覚える達也。その様子を見て少女は胸元から1枚の紙を取り出し、達也に渡した。
「この紙は何だ」
「読めば分かりますが、それにはある場所の住所が書かれています。そこに今日の午後2時にお越しになってください。エルナ・クンストに会わせましょう」
「何だと?」
何故俺をエルナに会わせる? 俺は本来何の関係もない人間じゃないのか? 達也はそう思うが答えは出ない。
「どういうつもりだ?」
「さあ? 私も存じ上げません」
「そうかよ」
「では私はこれで」
「待て!」
それだけ言って少女は去って行こうとする。それを達也は慌てて呼び止めた。
「……まだ何か用ですか?」
「今紙読んだんだけどさ。お前ふざけんよ、そっちが設定した時間だと俺昼飯食う暇ねえじゃねえか!!」
「知りませんよ!?」
達也の状況を理解していると思えない言動にツッコミを入れて、今度こそ少女は去っていく。それを見送った後、達也は小さな声で吐き捨てた。
「絶対罠だよな、これ……」