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第4話 ファーストキスは血の味がした その8

アジリェブは三男のトリェブを連れ、二階を通って正面入り口の方に向かっていた。

その時、銃声が聞こえて来る。

自分達が持っているPP2000の銃声とは違う音だった。

「あいつら、静かにやれと言ったのに」

アジリェブはドヴリェブ達がしくじったと悟る。

二階の吹き抜けから下を見ると、生存者達が今の銃声に驚いて騒いでいた。

「兄貴。どうするんだ?」

連れてきたトリェブが尋ねてきた。

「このままではターゲットに逃げられる。おい。正面入り口のバリケードを破壊しろ。それで、ここから誰も逃げられなくなる」

「分かった」

トリェブは返事をすると、走って正面入り口を見下ろす位置に到着する。

そしてタクティカルベストのポーチから、着発信管の手榴弾を取り出した。

着発式とは物に接触した瞬間に爆発する信管だ。

トリェブは安全ピンを解除して、それを投げた。

手榴弾は正面入り口のドアに当たると同時に爆発。

爆風でバリケードは吹き飛び、吹き飛んだ家具が近くにいたゾンビを押しつぶした。

その音を聞きつけて、付近のゾンビ達が正面入り口に殺到する。


「爆発……正面入り口の方からか」

舞は確認しに行く前に、辺りに敵がいないことを確認してからしゃがんだ。

そしてニードルが刺さって使い物にならなくなったホロサイトを取り外す。

照準には予備のアイアンサイトを使う。

次に自分の左肩を診る。背中から突き刺さったニードルの先端が肩から飛び出ていた。

直ぐには抜けそうにないので、舞は刺さったままにして、爆発音がした方の様子を見に行く。

舞が正面入り口に近づくにつれて、次々と避難していた人たちとすれ違う。

そこで見たのは正面入り口が破壊され、バリケードを突破してゾンビ達がなだれ込んでくる光景だった。

(バリケードが破られた。早く美雨とここから脱出しないと!)

舞が美雨のところに戻ろうとした時、悲鳴が聞こえる。

振り向くと、ゾンビに逃げ道をふさがれた人たちがいた。

舞は無視しようとしたが、美雨の言葉が頭をよぎる。

『舞さんの力は人を殺すための力じゃない。大切な人を守る力なんだよ』

もう一度振り返る。

複数のゾンビが逃げ遅れた二人の女子高生に襲いかかろうとしていた。

舞は彼女達が、自分と美雨の姿と重なって見えた。

HK416を構え、リアサイトからフロントサイトを覗いて、ゾンビの一体の頭部に合わせる。

そして引き金を引いた。

弾丸は、女子高生二人に襲いかかるゾンビ達を撃ち抜く。

「早く逃げて!」

驚いてこちらを見る二人にそう言って、舞は射撃を繰り返しながら、逃げ遅れた人を救出していく。

「ゾンビは登るのが遅い。できる限り階上に逃げるんだ!」

舞は指でエスカレーターを指して逃げる方向を誘導してから、ゾンビ達を足止めする。

セレクターをセミオートにセットし、確実に頭部だけを撃つ。

マガジンの全弾を撃ち尽くしてから、舞も周りに逃げ遅れた人がいないか確認しながら、正面入り口から退避する。

誰もいなくなった入り口付近は、二十体以上のゾンビが倒れている。

しかし破壊されたバリケードを乗り越えて、その倍以上の新たなゾンビ達が雪崩れ込んでいた。

舞は走って一階から二階に駆け上がり、吹き抜けの通路を走る。

突然反対側の左通路から銃撃されて、舞は咄嗟に伏せた。

連射速度と銃声からサブマシンガンのようだった。


「チッ! 避けられたか」

反対の通路で待ち伏せていたアジリェブは、舞の姿を見つけて、PP2000サブマシンガンをフルオートで撃つ。

しかし弾丸は空を切るだけだった。

アジリェブは空のマガジンを捨て、四十四発入りの新しいマガジンを差し込み射撃を再開。

いきなり撃たれた舞は身体を伏せて、敵の射撃をしのいでいた。

撃ってきた相手は、一瞬だったが先ほど倒した二人と同じ、髑髏のフルフェイスヘルメットを被っていた。

「くっ」

身体に激痛が走る。左の肩と脇腹に弾が当たっていた。

左肋骨は折れたのか、息をするだけでも痛みが走る。

撃たれながらも、舞は遮蔽物になりそうな物を探すが、転落防止の柵やベンチしかなく、役に立ちそうな物はなかった。

舞の足元で床が爆ぜる。

後ろを見ると、髑髏のフルフェイスヘルメットを被った男が片手でPP2000サブマシンガンを撃ちながら近づいてきていた。

舞に近づくのは三男のトリェブだ。

彼は左手でサブマシンガンを撃ち、右手には愛用のタクティカルトマホークを持つ。

舞は仰向けの状態から、少しだけ上半身を起こして、トリェブに対して撃ち返す。

放たれた五・五六ミリが、トリェブのPP2000を撃ち抜き、左手の指三本が吹き飛ぶ。

指を失ったトリェブは角に隠れる。

舞は、HK416を持ち上げて狙いをつけずに、反対側の通路に向けてフルオートでばら撒いた。

弾丸が周りに着弾し、偶然にも一発がアジリェブのヘルメットに当たり火花を散らして倒れる。

敵の銃撃が止んで、舞は後ろにある紳士服専門店に飛び込んだ。

頭を撃たれたアジリェブが身体を起こす。

距離が離れていたので、被っていたヘルメットが弾丸を弾いていた。

落としたPP2000を拾い構える。

見ると、舞が洋服店に飛び込んだところだった。

そこを狙って、マガジンの残弾全てを撃ち飲んだ。

九ミリ弾が洋服店の紳士服に穴を開け、スーツを着ていたマネキンが両足を撃たれて倒れる。

伏せていた舞の上にそのマネキンが倒れてきた。

しかし死ぬほどの事ではないので、舞はそのまま盾にして、敵からの銃撃に耐える。

暫くすると銃撃が止んだ。舞はその隙を見逃さずに立ち上がると、HK416を反対側の通路に向ける。

しかし撃つ直前。左側からタクティカルトマホークがHK416に深々と食い込んだ。

「!」

先ほど角に隠れたトリェブが、いつの間にか近づいていたのだ。

舞は銃身を切られたHK416を捨て、P320を抜こうとしたが、トリェブの肘が左頰に突き刺さる。

舞は吹き飛んで床を転がった。

口が切れて血が溜まり、口から吐き出す。 一緒に折れた歯が床に落ちた。

トリェブは怪我した左手に応急処置をし、右手でトマホークを上段に構える。

対する舞は、何も持たずに素手で構えた。離れると反対の通路から撃たれるので、自分から接近戦を挑む。

トリェブは、上段に構えたトマホークを近づいてきた舞の頭めがけて振り下ろす。

舞はそれを避けて、右の掌底打。

ヘルメットを被った顔面に当たって、トリェブはよろける。

だが舞が追撃する前にトリェブは下段からトマホークを振り上げた。

とっさにそれを避けるが、舞の髪が数本持ってかれた。

トリェブはそのまま体当たり。

舞は背中から壁にぶつかる。

トリェブは追撃してこない。舞は背中の痛みを無視して伏せた。

その直後、銃声がして舞がぶつかった壁に穴が開く。

アジリェブの援護射撃だ。

舞は撃たれないように、再びトリェブとの距離を詰める。

トリェブが右手のトマホークを振り下ろした。

舞はその腕を掴んで引っ張り、背中に乗せて投げる。

トリェブは受身ができず床に叩きつけられた。

舞はトマホークを奪って捨てると、P320を両手で構えて、喉に二発撃ち込んだ。

アジリェブは援護射撃をしようとしたが、散乱するスーツの所為で二人の姿が見えない。

その時二発の銃声が轟いた。

アジリェブはトリェブが死んだと判断し、紳士服専門店にフルオートで撃ちまくる。

弾切れで射撃が途切れる。その一瞬の間に舞が服屋から飛び出る。

そしてP320を撃ちながら、右側に走る。

アジリェブもリロードして、撃ちながら追いかける。

どちらの弾も当たらず、近くの店舗に穴を開けるだけだった。

走りながら撃っているので命中率は限りなく低いが、二人は構わずに撃ち続ける。

二階吹き抜けの渡り廊下に差し掛かった時、同時に弾が尽きた。

舞は素早くリロードしようと、一瞬視線を下に落とす。

その一瞬の隙をついてアジリェブが舞に迫る。

アジリェブはリロードせずにサブマシンガンを捨てて、舞にタックルを仕掛けた。

舞は慌てて踏み止まろうとするが、勢いを止められず、後ろにあったフロアの案内板に背中を叩きつけられた。

舞は相手の後頭部に肘を落とそうとする。

アジリェブは反撃を恐れて一度距離をとると、右手で腰の鞘からナイフを引き抜く。

それは刃渡り五〇センチもの長さで、ナイフというよりも、中世で使われたショートソードだった。

アジリェブはそのショートソードで、舞の顔を狙って突く。

舞はそれを右に首を傾けて避ける。

そして腰のベルトからナイフを抜いて、突き出された右腕に切りつける。

アジリェブは剣を引き抜くと同時に舞の斬撃を交わして数歩下がった。

お互い構えて隙を窺う。

舞はナイフを持つ右手を後ろに、アジリェブはショートソードを持つ手を前にしていた。

アジリェブが舞の肩口を狙って袈裟斬りを繰り出す。

舞はそれを一歩引いて避けると、ナイフを突き出した。

アジリェブはそれを左手の甲で弾いてから、舞の左足を切り裂こうとする。

舞は左手でアジリェブの右手首の関節をつかむ。

このままでは極められると思ったアジリェブは前蹴りを放つ。

アジリェブの右足を避けるために舞は仕方なく左手を離した。

アジリェブは自分の得物の方がリーチが長いのは分かっているので、少し距離をとる。

舞も離されないように追いかける。

いつの間にか二人は、渡り廊下の真ん中まで来ていた。

舞がナイフでアジリェブの首を狙う。

アジリェブはその攻撃に対して頭突きしてきた。

ナイフの切っ先と髑髏のヘルメットがぶつかり、舞の右手に衝撃が走る。

痛みでとり落としそうになったナイフを握りしめて、迫るショートソードを避けた。

アジリェブは攻撃の手を緩めない。舞が防ごうが避けようが構わずにショートソードを振り続ける。

舞は何度か避けきれずにナイフで受ける。その度に刃が欠けていく。

対するアジリェブのショートソードは傷一つなかった。

舞はこのままでは負けると直感した。

勝つために自分から攻めるために踏み込む。

自分の間合いを維持したいアジリェブは退がって距離をとろうとするが、舞の方が早かった。

仕方なくショートソードを振って追い払おうとするが、それを弾いて距離を詰めてくる。

「こいつ!」

アジリェブは素早く突きを繰り出すが、焦って出し為に、舞には簡単に予測できていた。

突き出された一撃を避けると同時に、距離を詰めて左手でショートソードを持った右手を掴む。

そして相手の首に右手をかけて、引っ張りながら座り込み、自分の足をアジリェブの首に掛けて倒す。

そのまま相手の右腕を内腿で締めて肘を破壊。

「ぐあっ!」

右手からショートソードが落ちる。

舞はナイフを逆手で持ち、逃げようとするアジリェブの右目に力一杯突き刺す。

刃は眼球を貫き脳まで達した。

アジリェブは数度痙攣して動かなくなる。

「やったか……」

舞は立ち上がって歩き出す。一歩進むごとに全身が痛む。

数歩、歩いてから、後ろで気配を感じて振り返る。

右目からナイフの柄を生やしたままアジリェブが立っていた。

舞は突っ立ったままのアジリェブ目掛けて後ろ回し蹴り。

蹴りはナイフの柄頭に炸裂。

切っ先が、脳を貫きながら後頭部の骨で止まる。

アジリェブは大の字で倒れた。

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