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第1話 日常から非日常へ その1

深夜二時。

ほとんど人通りもない道路を一台の車が猛スピードで走っている。

車は水道修理会社のロゴが描かれたワゴンだった。

その車はフロントガラス以外は全てスモークガラスが張られている。

運転席と助手席の後ろにも黒のカーテンがあり後部座席の様子は外からは全く見えなかった。

ワゴンの前席には水道会社のツナギを着た男性二人が乗っている。

ナビには目的地と周辺を走っているパトカーと防犯カメラの位置が表示されていた。

運転手はそれを頼りに、パトカーとカメラの監視網を避け、法定速度を無視して走っていた。

助手席の男性が無線機に話しかける。

「あと十分で着くぞ」

『了解』

無線機から女性の声が返ってくる。

声の主はワゴンの後部座席に座っていた。


スモークガラスで隠されたそこには四人の人間がいた。

後部座席のスライドドアは開かない様に加工されていて、四人は左右に向かい合う様に座っている。

四人共、全員同じ格好だ。

黒の上下のアサルトスーツにタクティカルグローブ。

足を保護するブーツも勿論黒色だ。

身体を守るボディアーマーを着用し、その上からタクティカルベストを着込んでいる。

ベストには様々な装備品や予備マガジンが大量に収められている。

頭には顔を隠すガスマスクを被っていた。

四人が手に持っているのは、ハニーバジャーと呼ばれるPDWを装備している。

PDWとは個人防衛火器の事だ。

アサルトライフル並の貫通力とサブマシンガンほどのコンパクトなサイズを持つ銃のことを指す。

全長は六十センチと短く、ストックを伸ばしても七十センチ程の長さしかない。

それにサプレッサーとドットサイトを装着してある。

サブウェポンはレッグホルスターにUSPタクティカル。

こちらにもサプレッサーを取り付けていた。

班のリーダーである餅付(もちづき)みさとの声が三人の無線機に送信される。

「作戦を確認する」

それを聞いて三人が極薄のタブレットを手に取る。

そこには今から突入する場所とターゲットの人物が表示されていた。

「私達が突入するのはこの倉庫。

ここはある東欧のテロ組織が密かに拠点として使っていることが判明。

私達T班がそこにいるターゲットを排除する」

三人のタブレットの画面にターゲットの顔が大写しになる。

その顔は、短い銀髪でもみあげとあごひげが繋がっている。

身体つきはとてもたくましく、鷹の様に鋭い目を持っていた。

「ターゲットは私達のボスだった男。鷹皇(たかおう)兼光(かねみつ)だ。

分かっているとは思うが、例え奴が丸腰でも油断するなよ」

リーダーの言葉に三人は黙って頷く。

彼等は対テロ部隊Zに所属するT班の人間だ。

今から一週間前、自分たちの拠点である地下施設は一人の男によって全滅した。

首謀者の名前は鷹皇兼光。

Zの指揮官だった男で、みさと達の上官だった。

彼は施設で研究、保管していたS-ウイルスを奪い、逃走するときに施設中にばら撒いていた。

一週間経った今も、施設の中は動く屍体、ゾンビ達が肉を求めて彷徨っている様子が監視カメラで確認されていた。

Zの中で生き残ったのはT班と、護衛任務で外に出ていたK班合わせて八人。

たったそれだけの人数が元上官である兼光を追撃する全ての戦力だった。

自分達を裏切り、S-ウイルスを奪った兼光が行方をくらまして一週間。

必死に捜索していたT班に信頼できる情報屋からタレコミが入る。

T班はそこに向かっていた。

『あと五分』

無線機が助手席の男性の声を受信する。

みさとは「了解」と一言だけ言って、無線を切った。

他の三人も何も言わず、武器や装備を確認する。

きっかり五分後、ワゴンはある場所に停車する。

止まったのは目的の場所の少し手前だった。

四人は車のリヤゲートから降りる。

全員が降りた事を確認してワゴンはその場を離れた。

四人はガスマスクの上から暗視ゴーグルを使用する。

みさと達の視界は明るい緑色に包まれ、暗闇でも視界が確保された状態だ。

彼女達がが向かうのはカマボコ型の倉庫だ。

それはフェンスに囲まれ、所々に監視カメラが設置されていた。

四人は監視カメラを避けてフェンスをよじ登る。

入り口の方に近づくと、二人の人間が立っていた。

格好は倉庫の作業員に見えるが、手に持っているものがどう見ても一般人ではない。

二人とも遮蔽物をうまく使って隠し、アサルトライフルを持っていた。

更にみさと達と同じように暗視ゴーグルを使って辺りを警戒している。

みさとはハニーバジャーを構える。

「あの二人を殺るぞ」

部下の一人に指示を出し、ドットサイトの光点を見張りの頭に合わせた。

「撃て」

二人はほぼ同時に撃つ。

バスンと音がして放たれた七.六二ミリの弾頭が、見張りの頭を貫いた。

二人は最期まで撃たれたことに気づかず、地面に倒れる。

他の人間に気づかれてない事を確認して、T班の四人は倉庫に突入した。

中は電気がついて明るかったので、暗視ゴーグルを外す。

倉庫の中は大小さまざまな荷物が置かれていて、かなり入り組んでいた。

天井からの明かりに照らされながら倉庫の奥を目指す。

倉庫の中にも見張りがいて二人一組で巡回している。

みさとは指示を出して、二組に分かれた。

こちらも二人一組になって見張りを排除していく。

みさとはコンテナの陰から、右目だけ出して通路の先を見る。

その間、もう一人の部下が、みさとの死角をカバーしていた。

みさとはコンテナからハニーバジャーを構えて引き金を引く。

一人に二発ずつ撃ち、その全てが二人の後頭部を貫いた。

倉庫のすべての見張りを排除して、別れた部下と合流する。

残すは倉庫の奥にある部屋だけだった。

奥の部屋は扉が閉められていて中が確認できない。

しかしここ以外に、ターゲット鷹皇兼光の姿はなかったので、T班の四人は突入を決意する。

一人が背中のショットガンを構えドアのロックを破壊して蹴破り、一斉に中に突入した。

中にいたのは男が一人だけで、部屋の中央で椅子に項垂れるように座っていた。

両手は手錠で拘束されている。

天井に吊り下がる裸電球の明かりが、男だけを照らしていた。

みさとは無線機の送信スイッチを入れる。

「油断するな」

四人は銃を構えたまま、男に近づいていく。

頭を下げているので正体が分からなかった。

しかし、今座っている男は白髪交じりの黒髪で貧相な体格をしている。

ターゲットの鷹皇兼光ではないことは確かだった。

T班の一人が近づき、男の頭を持ち上げようと手を伸ばす。

その時、男が頭を勢いよくあげた。

「ウアア、アアアア!」

うめき声を上げながら歯をガチガチと鳴らす。

目は白く濁っていた。

それを見てみさとは気づく。

「退がれ!こいつはゾンビ化している」

男は手錠を引きちぎり、自由を得ると目の前にいるT班に襲いかかる。

だが彼女達は冷静だった。

迫るゾンビに狙いをつけ一斉に撃つ。

ゾンビは身体中に穴が開いて、座っていた椅子を破壊しながら吹き飛んだ。

みさとが近づき、頭部にとどめの一撃を撃ち込む。

額に穴の空いた死体の顔をよく見ると、見覚えがあった。

ここの情報を手に入れた情報屋だったのだ。

その時、部屋に一つしかない出入り口から、何かが投げ込まれる。

その正体に気づいたのはみさとだけだった。

「フラッシュ……」

フラッシュバンと言い切る前に投げ込まれた閃光手榴弾が爆発。

閃光と爆発音が轟き、四人の視覚と聴覚を一時的に奪う。

リーダーは視界を潰されながら、身を守るために勢いよく姿勢を低くする。

しかし他の三人がどうなったかは視界を潰されて全く分からない。

「くそ!」

悪態をつきながら銃を伏せうちの姿勢で構えて、目と耳の回復を待つ。

暫くすると視界が回復してきた。

しかし今だにキーンと言う耳鳴りは鳴り止まない。

みさとは立ち上がって、部下の姿を確認し舌打ちする。

回復した視界に映ったのは、倒れ伏す三人の部下と一人の男性だった。

部下は三人とも頭から血を流して床に倒れている。

そして入り口のところに一人のスーツ姿の男が立っていた。

彼が右手に持つピストルの銃口からは硝煙が立ち昇る。

みさとはそれが誰か一瞬で分かった。

「鷹皇!」

リーダーは兼光に向けてハニーバジャーで狙いをつけようとする。

しかし兼光の動きの方が圧倒的に早い。

彼は右手に持っていた拳銃、ブローニングハイパワーをみさとより早く構える。

彼女の頭に狙いをつけ引き金を引いた。

(早過ぎる!)

彼女は心の中でそう呟くことしかできなかった。

ハイパワーから発射された九ミリ弾がリーダーの右目を貫通して脳を破壊し頭蓋骨で止まる。

目から血を流し、そのまま崩れ落ちるように倒れた。

兼光は銃をショルダーホルスターにしまうと、みさとに近づいてしゃがみこむ。

そして血の付いた無線機を掴む。

懐からボイスチェンジャーを取り出し無線のスイッチをオンにした。

「作戦成功。ターゲットは排除した。S-ウイルスも確保」

兼光はボイスチェンジャーを使ってリーダーの声を真似てそう通信を送る。

無線から返事が返ってくる。

『了解。そちらに回収用の車両を回す』

それで無線は切れた。

兼光は無線を捨てて倉庫から出て行く。

彼が倉庫の外に出て数分後。

二台の車。水道修理会社のワゴンと4tトラックが倉庫に入っていく。

それを確認した鷹皇は手に持っていたスイッチを押しこむ。

倉庫に仕掛けてあったC4が一斉に爆発した。

車は二台とも爆発の衝撃でひしゃげ、中に乗っていた人間は全員即死する。

倉庫は木っ端微塵に吹き飛んだ。

鷹皇は倉庫の爆発を確認してスマホを取り出し、ある相手にかける。

「ヨシフ。私だ」

電話の相手は開口一番こう聞いてきた。

『邪魔者は排除したか? タカオウ』

ヨシフと呼ばれた男は、少したどたどしい日本語で話す。

「ああ、今証拠の写真を送る」

鷹皇はスマホのカメラで、爆破した倉庫を写真に収める。

「送ったぞ」

『確認した。これで、今回のデモンストレーションを邪魔するものはいなくなったな?』

「いやまだだ」

『何!』

電話の相手は怒りで声を荒げる。

『生き残りはこの爆発で全滅したのではないのか!』

「落ち着けヨシフ。確かにT班の四人は全滅させた。残りはK班の五人だけだ」

『そいつらは計画の障害にならないのか?』

鷹皇は自分の車に乗り込み、運転席で通話を続ける。

車種はBMWのM3セダンだ。

「確かにZの人間は全員腕が立つ。勿論K班の五人もな。

しかしたった五人では私の計画を止めることなどできはしない」

鷹皇は力強く宣言する。

そこまで言われてはヨシフは引き下がるしかなかった。

『……分かった。もしそいつらが邪魔をしてきた場合は、タカオウ。お前にも協力してもらうからな』

「分かっている。だがあと数時間で開かれる地獄の前には何人も邪魔する事はできないさ」

『こちらの部下もすでに街に送り込んである。お前の好きに使ってくれ』

「ああ、そうさせてもらう」

それを聞いたヨシフは通話を切る。

鷹皇はスマホをしまうとBMWのエンジンを始動させた。

そして止めていた駐車場から出る。

車を走らせていると、サイレンを鳴らしながら走る消防車や救急車とすれ違う。

「……朝になれば、もっと騒がしくなる」

鷹皇はクルマを運転しながらそう独りごちる。

深夜の闇を炎が舐めるように照らしていた。

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