第3話 脱出 その3
舞が寝室からリビングに戻ると、三人が彼女の方に目をやる。
「美雨ちゃんは寝たのかい?」
一番最初に翼が口を開く。
「ああ、この数時間で色々あったんだ。少し休ませてあげたい」
「それは賛成。彼女、芯は強そうだけど、そろそろ限界よ」
ヒョウは舞の意見に同意する。
熊気が舞に質問する。
「それで、僕たちはどうします?」
「予定では、あと一時間で救助のヘリが来る。そのために準備をしておこうと思う。ヒョウ」
「何?」
「ヒョウには、今からこのマンションの屋上に向かってもらう。
そこまでの安全の確保と、ヘリがきたら無線で知らせてほい」
「分かったわ。じゃあ武器持っていかないとね」
舞は頷く。
「私達も装備を整えよう」
四人は武器庫に向かう。
武器庫は忠実の部屋にはない。あるの入り口だけだ。
武器庫の入り口は、ある個室の壁が隠し扉になっている。
隣の五〇六号室を借りて、部屋一つを密かに改装してあるのだ。
隠し扉を開けて武器庫である五〇六号室に入る。
部屋には所狭しに多種多様の銃や弾薬が収められていた。
四人はまずチェストリグを胴体に装着する。
チェストリグとは、マガジンや各種装備品を携行するためのものだ。
腰にベルトをして、ピストルを収納する為のレッグホルスターを太ももに巻きつける。
それが終わったら、次はメインウェポンを手に取る。
紅狼舞が手に取ったのはHK416。
米軍でも使われているM4カービンを、ドイツのH&K社が改良したものだ。
使う弾薬は口径五・五六ミリ。
フォアグリップとショートバレルで取り回しをよくしてあり、ホロサイトが装備されている。
ホロサイトとは、レーザーホログラムを特殊なレンズに投影するものだ。
軍隊でも使われていて、たとえレンズにヒビが入ったり割れたりしても、少しでもレンズが残っていればそのまま使える。
更に、銃に備え付けのアイアンサイトよりも見やすい。
欠点は電池なので、長時間使用すると電池切れの心配などがあるが、それを補って余りある性能を持っている。
舞は次にサブウェポンのピストルを選ぶ。
彼女が選んだのはSIGP320。
スイスの企業、シグ社が作り上げた拳銃で、米軍にも採用されている。
舞が手に持っているのは、その米軍に採用されたのと同じM17だ。
米軍に採用されるにあたり、M17には親指で操作できるサムセイフティなどが追加されている。
舞はそのP320に口径九ミリの弾丸十七発を装弾できるマガジンを差し込んだ。
そしてスライドを引いて薬室に初弾を装填してから、サムセイフティを掛けてレッグホルスターにしまった。
「俺は417にするかな」
狙撃担当の翼が選んだのはHK417。
舞のHK416と同じH&K社が作った銃だ。
半透明のマガジンには二十発の七・六二ミリ弾が入る。
セミ、フルオートが切り替えられるので、どんな事態にも対応しやすい。
翼のHK417には近距離から中距離の狙撃まで対応可能な、等倍から六倍まで倍率を変えられるスコープを装着してある。
翼がサブウェポンに選んだのは、CZ100。
マガジンには九ミリ弾が十三発装弾できる。
このピストルはチェコのCZ社が作った銃だ。
CZ100の特徴の一つに、排莢口の後ろにバレルストップが付いている。
これをベルトなどに引っ掛けるとスライドを片手で引くことができるのだ。
準備を終えた翼が熊気の胸のホルスターを指差す。
「ん? 熊気。また回転式拳銃使うのか」
「うん」
熊気がホルスターから取り出したのは一丁のリボルバーだ。
その名はレイジングブル。怒れる牡牛という意味だ。
ブラジルのトーラス社が作り上げたこの銃は、四十五口径よりも強力な44マグナム弾を使用する。
この弾丸は反動もマズルフラッシュも凄まじい。
しかしその分ストッピングパワーが高いので、海外の狩猟を営むハンター達の間でも利用されている。
熊気はそれを六発装填できるレイジングブルをサブウェポンとして選ぶ。
それからメインウェポンを手に取る。彼が選んだのはLMGのM60を選択。
M60は一九五十年代から使われている銃で、勇気が使うのは、改良が重ねられたM60E4。
これは短銃身化と、フォアグリップが取り付けられて取り回しが向上している。
M60には七・六二ミリの弾薬が二百発入ったボックスマガジンを取り付ける。
体格のいい熊気は片手で、重さ約十キロのM60を軽々と持ち上げて見せた。
ヒョウは口元に指を当てながら、ショッピングしているような感覚で得物を選ぶ。
「アタシは〜。これにしよっと」
ヒョウが取り出したのは、ロシアのイジェマッシ社が作ったAN94アバカンだ。
この銃には独特の機能がある。
マガジン挿入口が左側に傾いており、再装填がしやすいのだ。
「銃剣はどこだっけ? あった」
ヒョウはバヨネットを銃身の右側に取り付けて、グレネードランチャーも下側にセットした。
AN94は一般的な下側ではなく、右側に水平に取り付けられるのだ。
そのお陰で銃剣をつけたまま、グレネードランチャーを撃つする事もできる。
グレネードランチャーは四十ミリグレネード弾を発射するGP34。
ヒョウは銃の上部にドットサイトを取り付けた。
「サブウェポンはやっぱりフルオートよね」
そう言って手に取るのは、グロック18C。
オーストリアのグロック社が開発したグロック17にフルオート機能を搭載したものだ。
ヒョウはそれに十九発のマガジンを差し込んだ。
三十三発入りのロングマガジンもあるが彼女にとっては長くて邪魔に感じるので使わない。
薬室に初弾を装填したら、セレクターはフルオートにセットするのも忘れない。
銃の用意を終えたヒョウは、腰のベルトの鞘にナイフを二本刺して準備完了。
四人が自分達の得物を選び終わってから、予備マガジンやM67破片手投弾などを持てる限り詰め込んだ。
そしてメインウェポンをスリングで身体に固定する。
これで咄嗟の時に手を離しても身体から離れなくなる。
最後に小型の無線機を装備した。
この無線機は、短距離なら妨害電波の影響を受けない。
「みんな準備はいいか?」
準備を終えた三人は一斉に頷く。
「ヒョウ。じゃあ屋上に向かってくれ。そこまでの通路と屋上の安全の確保を頼む」
「分かったわ」
「分かっているだろうが、できる限り音は立てないように」
舞が念を押すように確かめた。
「大丈夫よ舞。アタシがこの中で一番接近戦が得意なの忘れたの?」
ヒョウの得意分野は、ナイフを用いた接近戦や音を立てない敵を殺傷する無音暗殺術だ。
「行ってくるわ」
「ヒョウ」
舞は双眼鏡を投げ渡す。
「ヘリが来たら、無線で知らせてくれ」
「オッケー」
ヒョウは覗き窓から外を確認する。
そして誰もいないのを確認して、玄関のドアをゆっくりと音を立てないように開ける。
向かいのマンションにもゾンビの姿はない。
左右の安全を確認してから、猫のようにするりとドアを抜けて屋上に向かうのだった。